この世界は壊れ始めた。コロナの影響でそんなふうに思える昨今で、何もしたくないし、もう以前のような生活は取り戻せないかもしれないと不安になるそんなときに、この小説はぴったり寄り添う。なんだか、今の時代を予見したような小説だ。読みながら、先がこんなにも気になったのは久しぶりのことだ。
このお話のラストがどこにたどり着くのかが気になり、一気読みしてしまった。子供の頃、マンションの13階から見た眺め。そこで暮らすひとりの中年男性との出会い。子供たちのその後の人生。30年が経つ。
それよりなにより、あの男はどうなったのか。自殺するしかないようなシチュエーションから始まる。この世界は壊れる。あと少しで。昨日からそれは始まっている。そんな状況がまず最初に提示される。
でも、これはSFではない。子供たちはちゃんと大人になっている。ということは、世界は壊れてはいないし、無くなってもいない。ちゃんと今もある。だけど、これが彼らの夢見た未来だったのか。というか、彼らは未来に希望なんか抱いたか。5人の少年少女たちのその後が綴られる。それぞれ、痛ましい時間を生きている。彼らのお話が短編連作のようなスタイルで綴られる。独立したお話としても面白い。でも、すべてはもちろん、ちゃんと繋がっている。
そして最後に、あの男に会いに行く。今も彼はあそこに住んでいるのか。それとも、あの後、死んでしまったか。あの時あそこから見えた世界は広いと思った。だけど、今、同じ場所から見た世界は広くはない。それは彼らが大人になったから、かもしれない。でも、そんな簡単なことではないだろう。こんな時代だからこそ、それでも生きていこうと思う。そんな気分にさせられる。