タイトルには「朗読劇」と銘打たれるが、これは安易な作品ではない。想像する力が世界をどこまでも広げていく、そんな素晴らしい作品だ。小さな作品だけど、その小ささを逆手に取り、とても自由で、大きな世界を手に入れた。「演劇」だから出来ることを実現している。よくあるリーディング公演とは違う。これは朗読というスタイルから発想された演劇作品なのだ。
テキストを手にして舞台に立つ。正面を向いて話す。朗読だからそれでいい。だけど、作品はだんだんその枠からはみ出してくる。朗読なのに、歌うシーンがある。踊るシーンもある。なんだか自由すぎる。サン・テクジュペリの『星の王子さま』をテキストにして、ちゃんとそのお話をなぞりながら、この世界のお話はどんどん広がりを増していく。砂漠に不時着した飛行士とそこで出逢った王子さまの物語は、この世界の成り立ちや、我々がどこに向かうべきなのかまで、教えてくれる壮大な作品になるのだ。現実と想像の世界とが混在し、すべては飛行士の見た夢でしかないのかもしれないけど、夢と現実は紙一重だ。最後には、中途半端なファンタジーではなく、リアルなドラマとして収まっていくのがいい。我々はどうして今ここに居るのか。何をすべきなのか。宇宙の成り立ちや、人と人との関係や、そんな大きなことから目の前のことまでもが、すべて、ここには混在する。
たった70分ほどの舞台が永遠のような豊かな時間を提示してくれる。何もない空間で演じることで.自由で楽しい世界がそこに生じる。そんな基本的な劇の在り方がなんだかとても心に沁みてくる。そんな作品だった。無理せず、与えられた状況で最大限の冒険をする。芝居は想像力の産物だ。そんな当たり前のことを再認識させられる。こんな最悪な1年だったけど、年の瀬に初心に帰る事ができる、いい芝居が見られてよかった。