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映画・演劇のレビュー

燐光群+フィリピン国際交流プログラム『フィリピン・ベッドタイム・ストーリーズ』

2007-02-11 10:42:05 | 演劇
 6話からなる短編連作。ベッドタイムをテーマにして、吉田智久さんがフィリピンの演劇人と共同で作った作品。様々な社会問題を織り込んだいろいろなタイプの作品があり、それぞれに楽しめる。テンポのいいオープニングの「ドゥルセの胸に1000の詩を」。この芝居の、ナイフで刺すという行為の繰り返しなんてとても新鮮で面白い。

 ただ、最初は字幕に慣れなくて、ストーリーが上手く入ってこなくて困った。字幕を追っていると舞台の方がなかなか見れない。初めて外国映画を見た子ども状態になってしまった。映画と違って字幕のタイミングが合わないし、ステージの左サイドに出るので、舞台を見ながら同時に読むことはできない。これが辛い。日本語とタガログ語、英語がちゃんぽんになっている作品はいいのだが、最初の2本はちょっと戸惑ってしまった。

 作品としては3本目の「アスワン フィリピンの吸血鬼の誕生」(ロディ・ヴィラ)が一番面白かった。アスワンを演じた宮本裕子さんが素晴らしい。この作品は2ヴァージョンあり、アスワンと男を、日本人、フィリピン人を入れ替えた別ヴァージョンも上演された。台本、演出をかなり変えてあり、興味深い。同じ話がほんの少しアプローチを変えるとこんなにも印象の異なるものになる。どちらもよく出来ていて面白いが、スケールの大きいAヴァージョンがいい。

 森の中の3人の兵士に見守られながら、猪に育てられたアスワンは自由を求めてここにやって来た男と出逢い、恋を知る。性愛の喜びを知り、男を求めて森を出て、町まで行く。しかし、町で再会した男は、森でのように彼女を愛さない。

 こういう単純な寓話だが、この同じ話をAは日本兵の亡霊たちが出てきて、彼女の母との関係も含めドラマとして奥行きを感じさせる見せ方をする。それに対して、Bはもっとシンプルな作りをして神話のように見せていく。コロスを使い、彼女を育てた猪も出てきたり、関係性を民話的な語り口にする。

 ラストの「フィリピンパブで幸せを」だけが日本人による台本。(内田春菊)コミカルなストーリー展開が面白いと言えば、面白いが、なんかしつこすぎて疲れる。これだけ図式があからさまで、それもつまらない理由。

 こういう試みを持続させることで、新しいタイプの芝居が生まれてきたらいいな、と思う。大袈裟なことではなく、ただ、民族間の交流が今までにない演劇の可能性を広げることになる。それだけで充分意味がある。

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