2021年の6月7日に母が亡くなった。コロナ禍のことである。母の死のショックは大きく、だけど今は(あの時は)それから先のことが思いやられる。連絡を受け大急ぎ病院に駆けつけた時には既に亡くなっていた。大変だった。弟と妻に連絡して来てもらうようにしたが、病院からはいきなり葬儀にことを聞かれて、予定はありますか、とか言われて、あるわけないやん、と憤慨しながら、仕方ないから病院提携の葬儀屋に来てもらうことにする。今ならもっといい対応が出来ただろう。だけどあの時は寝耳に水のことで、何も考えられなかった。
この本を読みながら、あの頃のことのひとつひとつが甦ってくる。これは親の家の話である。ここに書かれてあることのすべてが心当たりのあることばかりだった。読みながらあの日あの時を振り返る。弟にせかされて不動産屋に連絡を取る。
毎日がとんでもない日々だった。介護のために仕事を辞めたばかりだった。定年退職から再任用で働いていたけど、いろんなことでいっぱいいっぱいだった。母親がデイサービスの時に倒れて入院したところからいろんな予定が崩れてしまった。
こんなことを書いていたら、いつまでたっても家の話にはならないし、この小説の話にもならない。まぁそれくらいにこの小説はリアルだったのだ。母の死から始まった親の家の処分を巡るあれこれが描かれる。3年前から母を同居させていた。だから実家である家は空き家になっていた。その家を巡る問題がお話の中心になる。兄と姉との確執、残された遺産相続をどうするか、今まであまり付き合いがなかったふたりとのいざこざ。不穏な空気感。嫌な話スレスレの綱渡りから微妙な兄妹の絆が描かれていく。
終盤の展開が幾分弱いから作品としては傑作にはなり損ねてしまったけど、ここに描かれる出来事はまるで自分が経験したあの日々に酷似している。こんなにも見につまされる小説はなかった。