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このさりげないお話の虜になる。最初はパニック映画か、と思ったほど。リゾート先で雪崩に巻き込まれた家族のお話だと思っていたから。だが、そうじゃなかった。
確かに雪崩のシーンは出てくる。しかも、映画のかなり最初の方で。そのエピソードが起点となり、お話は進行する。だが、ここで描かれるパニックは、目の見える、体験するそんな「災難」ではなく、内面的な問題なのだ。デザスター映画じゃない。
それどころか、最初から最後まで表面的には静かで何も起こらない。確かに、何かが起きそうな予感だけはどんどん膨らむのに。人工的に起こされた雪崩がテラスで食事を摂っている人々を襲う。一瞬パニックになるのだが、何事もなく収まる。そのとき、夫は自分たち家族を見殺しにしてひとりだけで逃げようとした。そのことが妻にはショックだった。人間なんて所詮ひとりだ、でも、家族は違う、と信じていた、のに。笑いながら戻ってくる夫を見て、もう彼は信じられない、と思う。
そこから始まる彼ら夫婦の物語。5日間の楽しいはずのバカンスが、台無しになるだけではなく、彼ら夫婦の終わりにつながる。幼い子供たちはなんとかして、両親をもとの仲よしに戻そうとするけど、不可能だ。最後の最後まで、緊張は持続する。進展は望めない。ラスト近くで、夫は霧で帰る道を見失った妻を捜し出し帰還する。ハッピーエンドを思わせるエピソードだ。だが、それで終わるわけもないし、それだけで、めでたしめでたしとなるわけもない。不安は終わらない。ラストのエピソードが見事だ。それはよくあるどんでん返しなんかではない。この作品に最初からあった緊張が最後まで終わらない、という確認なのだ。
夫が悪い、という単純なお話なら、ここまで僕たち観客を不安にはしない。問題はそんな簡単なことではない。お互いの中に澱のようにわだかまっていくもの。それがほんのちょっとしたきっかけで表面化していく瞬間。その緊張と恐怖が描かれる。すごい映画だ。