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映画・演劇のレビュー

『ザ・テキサス・レンジャーズ』

2021-01-30 22:29:43 | 映画

こんなにも淡々と描かれると、ほんとうにこれでいいのかと、不安になる。仕事を引退して悠々自適に暮らす老人が主人公だ。演じるのはケビン・コスナーである。彼がもうこんな老人になったのかと思い知らされるのはショックだ。クリント・イーストウッドなら充分にわかるけど、ケビンはまだ60代のはずだ。いや、もう70代か。でも、老残を晒すにはまだ早い、と思っていた。だけど、この映画の彼は特殊メイクではなく、リアルに無残な老人だ。最初これが彼だなんて信じられなかった。わざとらしくはなく、無残なのだ。妻とふたりで穏やかな日々を送っている。充分生きた。だからこれからは彼女のために尽くす。そんなふうに生きているようだ。でも、そんな彼は無残だ。本来の輝きを失っている。

 

テキサスレンジャーズとしてたくさんの犯罪者を捕らえてきた。凄い数の犯罪者を殺した。だが、それは彼にとっては仕事であり、正義だ。だけど、今はもう引退して、おとなしく老後を送っている。そこに、仕事の依頼がやって来る。警察もFBIも手を焼いているボニー&クライドという2人組(もちろん、あの『俺たちに明日はない』のふたりだ!)の強盗を捕まえること。ふつうの娯楽映画なら、このお話から手に汗握る戦いを期待させるところだろう。だが、この映画はそうはしない。わかりやすい話なのに、わかりやすく描こうとはしない。

 

相棒はウディ・ハレルソンだ。シングルマザーの娘と暮らし、孫の面倒をみている。彼もまた、今の生活に倦んでいる。しかし、もう若くはないし、老残を晒しているのはケビン・コスナーと同様だ。ふたりで昔のように犯罪者を追い詰めていくはずなのだが、映画は手に汗握らない。地道な捜査が綴られる。派手な捕り物はない。車で犯人の足取りを追って旅する日々が描かれていく。老体にむち打って働くうちに、だんだん昔の勘が戻ってくる。でも、そこから、自分が必要とされていることの喜び、なんていうわかりやすい展開でお話を紡いではいかない。そんな簡単なものではない。情け容赦なく犯罪者たちを殺してきたことがトラウマになっているとかいうような、展開もない。ここには淡々として仕事をこなす姿が描かれるばかりだ。かつての日常が戻ってくる。それを受け入れる。でも、それはあの頃が蘇ってきて楽しいというのとは、少し違う。彼らの気持ちが見えないまま、映画は終わっていく。もちろん、ラストはあの2人組を情け容赦なく射殺する。でも、そこには当然カタルシスはない。

 

お金が目的ではない。名誉が目的でもない。昔の輝きを取り戻すことでもない。だが、この仕事を通して引退していた彼らは復帰する。でも、それは死ぬまで自分らしくありたい、なんていうお話ではない。では、何なのか。よくわからない。だけど、このわからなさがとても気になる。

 


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