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映画・演劇のレビュー

井上荒野『夜をぶっとばせ』

2012-09-22 17:24:30 | その他
 2話からなる。ある夫婦の話だ。一つ目の話は、離婚に至る過程を妻の側から描く。二つ目はその後を、夫の側から綴る。ぼんやり読んでいたから、読み終わるまで2つがリバーシブルだなんて気がつかなかった。というか、主人公を変えた続編なのだが、まるで無関係の小説だと思って読んだ。

 1話を読んでから、4,5日過ぎて後半の2話目を読んだから、主人公の名前を忘れていたことも大きい。それにしてもうっかりさんだ。おかげで、最後に至ってようやくそのことに気づいて、ちょっと、おぉ、って感じになれた。

 視点を変えただけで、こんなにもルックスが変わるのも驚きだった。最初の話の妻の語る夫と、次の話の夫の語る妻がこんなにも違うことにも驚く。2人は別人にしか見えない。同じ人間を描くのに、これはないんじゃないか、と思う。それくらいの別人なのだ。これは作者が最初からねらったことなのだろうか。2作品はその語り口も違う気がする。

 だが、現実はこんなものなのかもしれない。僕たちは何もわかっちゃいない。『夜をぶっとばせ』に描かれる夫雅彦はどうしようもない男に見える。妻のたまきが、彼から逃れようとと思うのはさもありなん、って感じ。でも、そのやり方はなんかいい気はしない。出会い系サイトでいろんな男と付き合う、という展開にはなじめない。

 さらに2話目『チャカチョンバへの道』。ここに出て来る主人公の雅彦は、前作の脇役であり、夫であったあの雅彦のはずが、先にも書いたようにまるでそんなこととは思えない。切り口を変えてあるから、まるで別の話として読んでいた。そして、ここにでてくるたまきは、前作のたまき以上に嫌な女になっている。

 問題はそこではない。2つの話に出て来るたまきの友人で今は雅彦と同棲している瑶子だ。この女が何なのか、よくわからなくなってくる所から、突き放されたようなラストまで。2話目は短編なのだが、中編の表題作よりも凄いことになる。2つの話は同じように、雅彦を茫洋とした世界に突き落とす。自分が今いったいどこにいるのか。それすらわからなくなる。

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