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映画・演劇のレビュー

『坡州( パジュ)』

2012-09-03 21:15:14 | 映画
 パク・チャノク監督作品である。パク・チャヌクの新作だと間違って借りてきた。パク・チャヌクが作りそうもないような映画だし、ちょっと考えればわかることだ。でも、えてしてこういう失敗はある。でも、映画にはなんの罪もない。だから、当然、ちゃんと見た。

 それにしても、ここまで暗い映画だとは思いもしなかった。疲れていて、体調もあまり芳しくないのに、なんでこんなしんどい映画をわざわざ見なければならないのか。悲しくなる。でも、悪い映画ではない。力のこもった力作だ。でも、誰も見ないだろう。わざわざ好き好んでこんな映画を見て暗い気分になりたい人はいない。

 救いのない映画だ。最初から最後まで一貫している。どうして、ここまで陰気で暗い話で1本の映画を作れるのか。想像を絶する。姉と妹が一人の男を巡って争うという定番の3角関係ものか、と思って見始めたのに、まるでそんな話ではない。でも、見終えてから、もし、これを簡単に説明しなければならないとしたら、そんな説明になっても仕方ないかも、と思う。でも、そんな単純な話ではない。

 韓国と北朝鮮の境目にある街、坡州( パジュ)。そこを舞台にして、民主化運動をするひとりの男と、彼と結婚した女。その妹。彼らのたどる道のりが時系列をバラバラにして、綴られていく。自由に意識があちらこちらにうつろう。わざと観客を混乱させるためとしか思えない。そうすることで、彼らの混沌とした意識の内側を凝視する。

 姉の事故死の謎を巡るミステリにもなっているのだが、そこも単純ではない。ここにはもっと違う「何か」がある。自分たちの正義が世界を変えると信じたはずだった。だが、現実はそんな簡単なものではない。立ち退き反対運動に象徴されるものは何なのか。弱者はいつの世でも排除される運命にある。正義の味方のフリして、戦う男は、ただひとりの女さえ救えない。この男の行為は偽善でしかない。そのことを、彼を愛した女は断罪する。だが、本来なら胸のすくようなラストシーンを見てもすっきりしない。もやもやした気分が残る。それこそが作者のねらいなのだが、そんなのをねらわれても困惑するばかりだ。

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