本を読む手が止まらない。この先いったいどうなるのか。ドキドキしながら、先を急ぐ。どんどんページを繰っていくことになる。スクールカウンセラーの女性のもとにやってきた少年は「人を殺してみたい」と言う。かつて凄まじく残酷な事件を起こした犯人が刑務所から出てきてこの町で暮らしていることがわかる。殺人への衝動を抑えきれない少年は、その連続一家監禁事件を起こした犯人を殺そうとする。
黒沢清で映画化したらきっと凄い映画になるのではないか、と思いながら読んだ。ふたりのモンスターの対決がクライマックスにやってくるのだろう、とドキドキしながら読み進める。しかし、そうはならない。終盤急速にお話が萎んでくる。だが、それこそが作者の狙いであることがやがて判明する。
絶対的な悪はあるのか。人はそれとどう向き合うのか。恐怖と怒りと不安の中で、何をなすべきなのか。カタストロフに向かい、お話は加速していく。そしてクライマックスで何が起こるのか。それぞれの想いが交錯して思いもしない結末を迎えることになる。あっけないほどの意外さは、冷静に考えると、とても凄い幕切れではないかとも思える。見事だ。
ラストで「人と動物の違いって、矛盾だと思う」と千早は言う。受け入れること。それがどんなに理不尽なことであろうとも、自分の心でそうしたいと思えることをする。その先にはきっと未来がある。