見る前からこれはやばいかも、とは思っていたけど、ここまで酷いとは想定外だ。蜷川実花監督作品だから、あまり期待はしないけど、いつも驚きのビジュアル提示があり、視覚的には楽しめるからついつい見てしまう。それに『Diner ダイナー」や『ヘルタースケルター』は悪くはなかったし。今回の荒唐無稽なお話とは相性がいいかも、とも思った。キネマ旬報での批評家の短評で凄まじい酷評をされていたので、反対に「もしかしたら、」と期待もした。
だが、ここまで箸にも棒にもかからない映画だとは、別の意味で衝撃だ。冒頭の神木隆之介が「黒いもの」から逃げるシーンでまず、ダメだ、と思った。あれが「人の心の闇に寄り憑くアヤカシ」のイメージなのか。しょぼすぎる。そこにはまるで怖さがない。まず視覚的にチープすぎる。だからのっけから映画に乗れなくなる。その後の豪華絢爛との格差たるや。美しさの対極になる悍ましさをちゃんと描かなくては成り立たない。だから、すべてが嘘くさくなる。
これは柴咲コウと神木隆之介が主演であやかしが跋扈する世界を描く大作映画(のはず)だ。それなりの予算がなくては作れない世界がそこには提示される。でも、それだけ。
「セクシー所作指導」(と、確かクレジットにはあったような)を受けた女郎蜘蛛役の吉岡里穂のセクシー演技とは、どんなものなのか、なんだかそのネーミングは、バカバカしいけど、ウケル。どんなものをみせてくれるのだろうかと楽しみにしていたのだけれど、そこも期待はずれ。
映画自体は相変わらずの極彩色の世界。セットや柴咲コウの出てくるたびに変わる豪華絢爛な衣装には圧倒される。だけど、肝心のお話があまりにつまらなさ過ぎて、すぐに退屈する。なんなんだろうか、このどうでもいいようなストーリーは。原作がこの通りなのだろうけど、映画としてはあまりに単調すぎる。短編連作のマンガならこれでも成り立つのだろうが、2時間の長編映画としてはこれでは成り立たない。悪役のふたり(前述の吉岡里穂と磯村勇斗)が、ストーリー同様しょぼすぎるから、コメディにしかならない。
どうしてこんなことになったのだろか。10年越しの企画らしいのに、しかもこれだけの豪華キャストで、大作仕立てなのに。何がしたかったのやら、まるでわからないのが見ていてしんどい。アトラクションではないのだから視覚的に楽しめたらそれだけでいい、というわけではあるまいに。