今年のウイングカップの最後を飾る作品なのだが、なんともつかみどころがない。見ながら、困惑する。そこに何らかの意味を取ろうと、模索するのだけど、ダメだった。ストーリーに頼らない芝居はなんだか心許ない。しかも、シーンシーンのインパクトが弱いので、ついつい眠くなってしまう。見ながら少しうつらうつらしてしまった。でも、あまり気にすることはない。ちゃんと見ていた所もわからないし。わけのわからないものは好きだけど、これには参った。取り付く島がない。
先週に続いてウイングでの芝居は前説から始まる。(まぁ、たまたまなんなんだろうけど)しかも、完全にストーリーを放棄する。2人のカラスがやってきて、前説をする男に絡んでいく。それもかなりしつこく。いつまでたっても、芝居は始まらない。というより、もう芝居は始まっていたのだ。だが、その始まった芝居はずの芝居はいっこうに何を伝えるのか釈然としない。舞台上の行為や言葉に意味がない。やはり困惑するばかりなのだ。
タイトルの「かかす」とは何なのか。「欠かす」なのか? いや、「カラス」の誤植なのではないか。主人公の2人のカラスの男女が芝居をリードしていくし。もちろん、そんな冗談とは違うのだろう。作り手の真摯さが、そんな冗談を受け入れない。ふつうなら嫌になるはずの芝居なのだ。でも、そうはならないのは、作者の吉村さんの個性ゆえか。抽象的な描写の押しつけではなく、そこに彼自身の困惑が感じられる。困惑する観客を突き放すのではなく、同じようにこの芝居の中で迷走する。上から目線が感じられたなら見ていられない芝居になっただろう。でも、そうじゃないから、見ていられる。芝居という迷路の中で70分間旅をしている気分がいい。だから、腹は立たない。