習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

真紅組『あかつき』

2007-05-16 23:05:26 | 演劇
 2時間の真紅組ならではのエンタテインメント。ストーリー自体はどうってことないのだが、20人ほどの大人数の役者達が出たり入ったりして、舞台上に入り乱れて、芝居自体は単純だけど、観客にしっかり楽しんでもらおうという気持ちがしっかり伝わってくる好感の持てる作品に仕上がった。

 明治10年大阪新町長屋を舞台にして、ここで生きる人たちの日常生活をドタバタ騒動で見せていく。こういう時代設定の小劇場演劇は珍しい。なぜ明治10年なのかが気になり、劇場に足を運んでしまったのだが、あまり時代自体の空気は関係なく、江戸から明治への移行期という部分だけが欲しかったようだ。阿部さんの興味は歴史の舞台としての明治10年にしかなくて、ひとつの時代を庶民の側から描くように見せながらも、歴史絵巻としてのルックスの方が大事で、新撰組だとか、西郷隆盛による西南戦争のことが話のメーンとなり、官軍と強盗団の話も交えて、盛りだくさんの娯楽活劇になる。

 芝居の前半は何らストーリーらしいストーリーもなく、これは何を描こうとしてるのだろうか、と興味深々だったのだが、主人公である質屋を営むコウ(野村ますみ)のところにある男がやってくるところから、一応の本題であるラブストーリーへと進展していく。新撰組の頃の2人の因縁話から、土方歳三がコウに渡したかんざしを巡る物語が展開していく結果、その先はただの歴史ものエンタメになり、僕(だけだろうが)は少しがっかりする。

 チャンバラシーンもしっかりあるし、歌って踊って派手な見せ場には事欠かない。自分たちのやりたい事を、思いっきりやりながら客も楽しませるのだから、文句なんてない。小手先で芝居を作るのではなく全力でやっているのもいい。脚本の阿部遼子さんと演出の諏訪誠さんのコンビはツボを抑えた安心の芝居作りを見せてくれる。

 ただ、フライヤーにあった「大人の恋の物語」としてはこれでは物足りない。10年の歳月の中で彼らが何をあきらめ、何を今も大切にしているのか、それぞれの胸の中に今もある想いが、これでは全く描ききれていない。歴史の転換点に立ち会った人々の物語というのは悪くないが、あまりにありきたりに纏めすぎた。ひとりの女と、ひとりの男が、ひとつの時代の中でどう生きたのか、という彼らの個人史は描かれない。パターンとして類型化し彼らを描くに留めたのが残念である。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« とり鉄人『けっかい』 | トップ | あさのあつこ『ラストイニング』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。