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映画・演劇のレビュー

田中慎弥『実験』

2010-07-04 21:51:49 | その他
 こういう自伝的な小説は苦手だ。しかも、そこに描かれるのが、小説を書けない作家だったりして、なにもそんなことを題材にしなくても、と思う。まぁ、これが田中慎弥自身をモデルにしているなんて言わないし、そんなことはどうでもよい。面白ければ何の問題もないのだ。だが、その辺がどうも微妙。

 ひきこもりの幼なじみの話し相手になるために、彼の家に行く。いい歳した大人が、彼の両親に頼まれて、会いに行くのだ。だが、そこで彼はその幼なじみのことを、次の小説のネタにすることを思いつく。

 このストーリから、様々なアプローチは可能だ。だが、この小説は、なんだか思いつくことの中でも、一番つまらない選択をする。なんともメリハリのない展開だ。しかも、決着もつかないまま、宙ぶらりんにする。そこがねらいなのだが、そういうことをねらわないで欲しい。

 何が実験なのかよくわからないが、考えようによっては、この小説自体がある種の実験だと言えないわけではない。主人公は作家としてデビューして4年、本も出したけれども、それだけでは食べていけない。妻に養ってもらっているのが、現状だ。特別な野心があるわけではない。書くネタももう尽きてきた。そんな中で、偶然から、話し相手になることを引き受けた幼なじみのことをモデルにして、小説を書けないものかと思う。彼と会うことが、次の小説の取材ともなる。少し後ろめたいけれども背に腹は代えられない。といっても、あまり積極的ではない。ただぼんやりとそれで新作が書けそうな気にもなる。ここに漂うこのなんともいえない空気が重い。悪いとかいいとかではなく、なんか重いのだ。同時収録の2つの短編も同じ感じだ。悪くはないのだが、なんだかインパクトがない。



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