柚木麻子の力作『らんたん』を読了した。凄い女性だと思った。これはその前後に見た映画なのだが、ここに描かれる女性もまた、すごい女性だ。あり得ない行為に全精力を傾ける。やりすぎだろ、と思うけど、決してそれだけでは済まされない。どこまでやると納得がいくか、とかいうと、それってただの自己満足でしょ、ということになる。世の中のために自分のすべてを犠牲にしても戦わなくてはならない、というとかっこいいけど、彼女のしていることはただの人騒がせでしかないかもしれない。傍迷惑な行為だ。だけど、抗議しなくては流されるだけだ。彼女の抵抗を見てみんなが声をあげるなら、それは素晴らしい。
彼女がひとりで行う過激な活動(アルミニウム工場の電源を遮断して稼働を妨害することで、地元の環境を守る)を映画はユーモラスなタッチで描いていくのだが、その行為は周囲の賛同を得られるわけでもなく、孤独な戦いでしかない。映画の中で、彼女の活動の背後で音楽隊や、コーラスチームが応援するけど、それは現実ではなくただの幻でしかない。なぜ、そこまで戦い続けるのか。映画のなかではそんな彼女の心情を吐露しない。
アイスランドの壮大な自然をバックにして、彼女のテロ行為が描かれるのだが、この自然の前では、それはコミカルに見える。悲壮な戦いのはずなのに。しかも「ふつうのおばちゃん」にしか見えないルックスの彼女がスパイさながらの活動をこなしていくのだから、笑ってしまいそうになるけど、映画は実にシリアス。その齟齬がなんとも不思議な味わいを残す。
ふだんの姿(合唱団の指導をしていることや、ウクライナからの養子縁組をすすめていること)とテロ活動の落差も、彼女のなかでは自然なこととして描かれる。これはいったいなんなのか、と思わされる。シリアスなのにコメディのような味わい。おおらかな自然を背景にした切実な思いを秘めた活動。見終えた時、これをどう受け止めたらいいのか、戸惑うばかりだ。でも、とても刺激的な映画である。