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映画・演劇のレビュー

『旅の終わり世界の始まり』

2019-06-28 21:57:43 | 映画

この不思議な映画を見終えて、ためいきをつく。それはつまらないのではなく、このなんともいいようのない感覚に魅了されたからだ。現実の世界からその先にある世界へと導かれる。そして、このリアルな幻想には心当たりがある。これが旅だ、

旅をしていて楽しいのはそんな自分の知らない世界に出会う瞬間だ。レポーターとしてウズベキスタンにやってきた彼女は、仕事を終えた後、ひとりで町に出る。ことばもわからないし、バザールに行って食事をするというのだが、ほんとうに大丈夫なのか、不安になる。でも、彼女は物怖じせず、バスに乗る。そして、迷子になる。現実にもこんな体験はよくある。知らない町を旅していて、迷路に迷い込み、やばいな、と思う瞬間はないでもない。外国でそんな経験を何度もしている。あの時の感じだ。もちろん、僕はそんなやばいところには行かないし、せいぜい街なかでの迷子だから、なんとかなる。でも、この映画の彼女のようなひんやりとさせられる体験なら心当たりがある。

この映画は旅の映画だ。それは人生の旅でもある。彼女はこの旅の中で、自分がこれから先の人生をどう生きるべきかを感じる。芸能レポーターではなく、歌手として生きたい、と願っている。(そんな役柄を歌手だった元AKBの前田敦子が演じる)終盤、高地で『愛の讃歌』を歌うシーンが素晴らしい。迷子になったとき、たまたま入った劇場で歌う自分の幻を見るシーンと共鳴して、この映画のハイライトをなす。

でも、これはやはり旅の映画だ。旅番組のロケという現実から入って、そこで演じる自分と、オフのプライベートの時間ひとり過ごすほんとうの自分。嘘と現実、それが現実と幻想とも重なり合う。レポーターとしての嘘を演じる彼女が現実の今の彼女であり、そんな現実の先に見る幻想のような風景がほんとうの彼女が見たウズベキスタンであり現実なのだ。映画という2時間の旅はひとりの女性の生き方を変える。映画という旅がそれを可能にする。まるでドキュメンタリーのような描写の先に見た幻想は旅の醍醐味を伝える。淡々とした描写で綴るこの不思議な映画は旅の魔法を感じさせる。


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