映画を巡るお芝居を映画館で公演する。KAVCのシアターで上演する。今は常設で映画を上映しているけど、もともとはここで芝居もしていたから、ここで芝居をするという事は不思議ではない。だけど、作、演出の久野那美さんはとことんこだわってこの空間を演出する。地階に降りていく階段からもう芝居が始まっていく。体験型演劇。マニアックなこだわりは限定1部のパンフレットに凝縮されている。彼女がでっちあげた6本の映画の丁寧な解説をはじめとして、オールカラーで掲載、細部まで全く手を抜くことなく、(というか、実に手の込んだ)豪華版。この本を作るのにどれだけ手間をかけたことか、想像するだけで頭が下がる。芝居とは直接は関係しないところなのに、これは凄すぎる。
そんな情熱がこの作品を支える。事はそのパンフだけの問題ではない。劇場の飾り付けや、売店のポップコーンにドリンクも含めて、とことん考え抜かれて作られる。すべてが本物。全員に配布される当日パンフはこの芝居のパンフではなくこの映画館の今日のオールナイト上映会のパンフ仕様だ。新開地オリオン座の3月号。
さて、上映前には本劇場の次回作の予告編が流れ、そして、劇場は暗くなり映画(芝居)が始まる。オールナイト6本立ての3本目の映画が始まるのだ。しばらく映画を見続ける。やがてエンドロールが流れて、映画が終わる(はずだった)。だが、その直前に突然映画は止まり、真っ暗になる。そこから芝居は始まる。客席に座る5人の役者たち。映写技師と、案内のスタッフが芝居を進行する。7人以外の観客はみんな居眠りしている中、彼らは「なぜ映画はいきなり止まったか」を推理する。
映画は夢の装置だ。そのことを逆手にとって、映画を見ながら眠り続ける観客という設定から始まる。眠れなかった5人の観客を役者たちが演じる。映写が途切れ、客席を立ち、さらにはスクリーン前に立ち、演じるのは、なぜ映画は途切れてしまったのかを巡る考察だ。見ることのできなかった映画を夢想する芝居が始まる。フィルム缶(今はビデオなのでフィルム缶はなくなっているけど)が出てきて、そこには幻の映画が入っていて、本編の上映の後に未公開のその1巻を初上映させる。でも、観客はみんな寝ているから、その幻の映画は誰にも知られることなく終わる。眠れず起きていた5人だけの秘密。
幻の映画は幻のまま。眠らずに起きていた5人とスタッフの2人だけが完全版がここで上映されたことを知る。映画という幻にとことんこだわって丁寧にこの夢の世界を作り上げる。芝居を見ながら、眠るようにこの幻に遭遇する。心地よい幻の映画を堪能する。