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映画・演劇のレビュー

『明け方の若者たち ある夜、彼女は明け方を想う』

2022-01-11 15:34:00 | 映画

これは映画『明け方の若者たち』のスピンオフドラマ。映画の後で作られた45分の中編映画だ。あの映画を補足する。お話はタイトル通りで、北村匠海演じる主人公の彼ではなく、黒島結菜が演じた彼女の視点から描かれる。なぜあの日、彼女は明大前の飲み会に行ったのか。それまでの彼女の事情や、あの映画で描かれたその後の彼女のドラマが描かれる。

彼女目線で描かれる(映画の中で描かれるあの日からの出来事ではなく)あの頃(映画の中で描かれるお話)の前後は、謎解きではなく、彼女の事情説明でもなく、もうひとつの『明け方の若者たち』と呼ぶべきものだろう。この映画を見ても、やはりあの子はとてもずるい女だ。 黒島結菜はそんな女を悪びれることもなく、素直に演じている。でも、彼女は悪女というわけではない。当然かわいそうな女でもない。だから、彼女の側に感情移入して見る映画でもない。

この映画を見ても、彼女を責める気にはならない。この映画が彼女の言い訳にはならないのがいい。旦那(若葉竜也)が可哀そうとも思わないし、彼(北村匠海)も同様。ひと時の気の迷いというわけでもない。こんなこともあるのだ、と客観視できる。これはそんな映画になっているのが本編同様でいい。

あの時なぜあんなことをしてしまったのかは、自分でもよくわからない。その行為は浮気でしかないことは、本人自身が十分わかっている。いやな女だし、ずるい女だということも重々承知だ。だから、何も言わないで、自分の心に秘めておく。

仕事取るか、夫との結婚生活を取るかの選択で、彼女は今は仕事を取りたいと思った。そのことで、彼を失望させ、自分まで辛い思いをした。だから、自分を慰めて欲しかった。でもそんな甘えは許されるわけもない。でも、彼女は甘えて一時の夢を見た。映画はそんな彼女を断罪しない。自業自得の破局を描かない。いろんな意味で、これはなんだか不思議な感触だ。


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