○イモーゲン・ホルスト指揮イギリス室内管の弦楽セクション(lyrita)1967・CD
かつてホルストを特徴づけていたオリエンタリズム、実験的な不協和音やポリリズム要素がすっかり昇華され、非常に近接した作曲家ヴォーン・ウィリアムズのそれよりも平明で、一種無個性な美しさを得た晩年の室内作品のひとつ。あくまで典雅な雰囲気は同盤に併録されたイモーゲン女史編曲の「管弦楽の為の奇想曲」(原曲は「ジャズ・バンド・ピース」・・・これがジャズ???初演1968年)の示すウォルトン的攻撃性とは対極だが、同じ1933年の作品だ(ホルストは1934年病に弊しており、ブルック・グリーン組曲は死の僅か2ヶ月前(3月)に学校で初演された)。ちなみに同曲機知に溢れじつに恰好良い映画音楽風の小曲だが(私は大好き!)、「ホルスト」としての作家性は同様に薄いようにも思う。中間部にはヴォーン・ウィリアムズの5番交響曲のような憧れに満ちた雄大な情景も混ざる。終わりかたがやや唐突なのが玉にキズだが。話しを戻す。一音楽教師として女学校のジュニア・オーケストラのために作曲した曲であるから、息の長い旋律の単純な流れは、例えば1楽章「前奏曲」の最後にみられるピツイカートだけの終止形など、かつてのロシア室内音楽・・・チャイコフスキーの「弦セレ」等・・・を想起するもので、あくまで主題はイギリス民謡風でありながらも、それらクラシカル・ミュージックの伝統を意識して模倣したようであり、矢張り一種練習曲風といえよう。しかしこの曲全般に聞かれるひたすら軽く舞うような雰囲気、じつに品が良いものだ・・・お蝶夫人が出てきそうだ(古い)。全般アンサンブルがとりやすそうで(ホルストは時々複雑なリズム構成をとるがここでは目立たない)、アマチュアにはうってつけの曲だろう。ごくたまに、やや不格好な和音が横切るが、これこそホルストの個性の残滓。作曲技巧の綻びではなかろう。個人的にはアリアと称される古風な佇まいの緩徐楽章(2楽章)については、いくつかの主題がおしなべて弱く感じる。これらは民謡そのものに基づいているそうだが、しかし近代のこの手の擬古典曲では、全世界的に似たような主題が使われており、私個人がそれらを聴きすぎているから退屈するということだけかもしれない。ただ、構成的にも一番特徴がない気もする。主題の魅力でいうと1楽章の(第一)主題に尽きると思う。てらいのない終楽章「舞曲」(2拍子のタテノリ・ジグは、単純すぎて余り踊るような雰囲気でもないが)はどうしてアンサンブルの妙があり面白い。なにもこの曲に限ったことでもないが、同時代のフランスの曲を思わせる。この和声の流れは誰かの曲に似ている気がするが・・・失念。イベールあたり?休暇中シシリーで耳にした人形芝居の音楽に基づいている、とイモーゲン女史は書いている。ヴァイオリンと低弦のがっちり噛み合う単純な対位性がとても聴きやすい。後半少しくすんだ心象風景を呼び覚ますところがあり、ヴォーン・ウィリアムズ的であるが、時期的にみると寧ろヴォーン・ウィリアムズに先んじたものといえるかもしれない。演奏に関しては比較対象となるものがないので敢えて書かない。作曲家の娘さんがイギリス瑞逸の室内管弦楽団を振った演奏だから悪くはないだろう。イモージェンさんは最近逝去した。合掌。(2000/2003記) ,