○A.デイヴィス指揮BBC交響楽団(teldec/warner)CD
Tp独唱は表記されているが何故か終楽章のヴォカリーズを担当するSpの名前が私の盤には記載されていない。今はwarnerの廉価全集盤となっているものの一枚であるが、廉価にするには惜しいアンドリュー・デイヴィスの素晴らしい記録の一つである。オケには少し機敏さが足りないところもあるし、終楽章のソプラノがあけすけで若々しすぎて(録音のせいもあろうが)よくないが、全般にはこの上も無く美しいRVW前期の代表作にふさわしい出来となっている。次々と重なりあらわれるさまが印象的な旋律群はいずれも五音音階に基づく民謡風のものだが、生々しさや野暮ったさが無いのは和声的なもの以上に構造的に注意深く、編成はけして小さくは無いのに極めて簡素であること・・・スコアのページ上に登場する段数がえんえんとかわるがわるで少ないままである・・・に起因しているだろう。終始牧歌的な雰囲気のまま、時折ブラス群が不安の雲をくゆらせたり、夕暮れを示すようなトランペット独唱・・・従軍中の情景の引用だろう・・・や高空を舞う夜風のようなソプラノ独唱が耳を震わすのみで、全楽章とにかく緩徐楽章であるという点で有名な曲であり、好悪わかつところもあろうが、英国交響曲史上の単独峰であることはたしかだ。デイヴィスの明るく録音も新しく、また感情的ではないがブライデン・トムソンのように突き放したような客観性を見せない演奏ぶりは曲にマッチしている。同曲にはいくつか伝説があり、第一次世界大戦従軍中のフランス北部(~ベルギー)もしくは南部の田園風景を戦後書き落としたという説と、まったく違って、海の情景を田園に移し替えて書いたものであるという説(これは弟子コンスタン・ランバートが同曲にドビュッシーからの無意識の引用があると指摘して作曲家を震撼させたという話に起因した迷信のようにおもうが)があったように記憶している。ボールト盤は重々しくも神秘的な外洋の雄大な風景にぴたりとあっていたが、この演奏は温かみある明るい田園そのもののように思う。○。