りきる徒然草。

のんびり。ゆっくり。
「なるようになるさ」で生きてる男の徒然日記。

四コマ漫画。

2011-09-10 | Weblog
1ヶ月ほど前から、娘が漫画を描いていた。

地元で今年から開催される「尾道マンガ大賞」に応募するために。
応募対象は、小・中学生部門と一般部門。
審査員は、尾道出身の漫画家のかわぐちかいじ氏とかわぐちきょうじ氏。
前者の方は、男性諸兄ならば「沈黙の艦隊」や「ジパング」といった青年誌に連載された
漫画でご存知の方も多いと思う。後者の方は、そのかいじ先生の双子の弟さんで、地元で
会社を経営されながら、セミプロの漫画家として活躍されてらっしゃる。
とにかく、プロの漫画家の先生が審査員の、本格的なコンクールなのだ。

娘は絵が好きだ。

学校の風景画大会でも何度か入賞しているし、市主催のコンクールにも入賞したことがある。
でも漫画のコンクールは、応募どころか描いたこともないはずだ。

いや、描いたことはある。家でいつも描いている。
描いてはいるが、人に見せたことがないのだ。

娘の将来の夢は、漫画家だ。

娘の部屋の本棚には、月刊少女雑誌が何十冊も並び、その下の棚には、「ちびまる子ちゃん」
や「名探偵コナン」のコミックが、これまた何十冊も並んでいる。
それらの雑誌やコミックを参考にしながら、誰に読ませるでもなく、黙々と勉強机の上で漫画
を描いているのを、僕は知っている。

半月ほど前、おそるおそるといった口調で、娘が僕に尋ねてきた。

「あの・・・マンガ大賞に出す漫画、見て欲しいんだけど・・・」

ここ2~3年で、どうも僕の仕事が“絵”にも関係がある仕事だとおぼろげに分かりはじめたらしい
娘は、そんな仕事をしている最も身近なオトナである僕に、自分の作品の出来がどうなのか、見
てもらおうと思ったようだ。

メチャクチャだった・・・。

四コマ漫画なのだから、最低限度“起承転結”が成立していなければいけないのに、娘が描いた漫画
のストーリーは“起承転結”どころか、“結承転転”のような作品だったのだ。
しかも予想通り、その画風は、少女漫画の影響をモロに受けていて、主人公の女の子はキュート
すぎるほどキュートで、瞳の中にはお約束のように星がいくつも散りばめられている。
おい、いったい、どれが本当の目玉なんだ?

ここで、僕は迷った。

これが仕事なら、その場でビリビリッと破り捨てて一蹴してもいいものなのだが、当たり前だが、
これはそういう代物ではない。
アドバイスするにしても、罵倒するように頭ごなしに作品を否定することもいいとは思えない。

どうするべ・・・ (-_-;)

娘が描いた漫画としばらくにらめっこした後、僕は絞り出すように言葉を選びながら、必要
最低限度の直すべき箇所、考え直す箇所を慎重に感情を抑えて伝えた。
娘は、僕の横で直立不動のまま、時折頷きながら、僕の口から出る言葉に耳を傾けていた。

数日前。

娘が、また漫画を見て欲しい、と僕に言って来た。
僕が承諾すると、2階の自分の部屋から大事そうに原稿用紙を抱えて1階のリビングにいる僕の
元へやって来た。

原稿用紙を受け取ると、僕は上から下までザッと読み流した。
そして、その後、娘に向かって片手を伸ばし、親指を突き上げて、こう言った。

「いいじゃん」

その途端、相変わらず僕の横で直立不動で不安そうな顔をしていた娘の相好が崩れた。

出来ていた。

とりあえず、起承転結は成立している。絵のタッチも、誰かの模写の域から脱して、何とか自分
の画風をみつけようとしている心意気が垣間見える。

受賞出来るかどうかなんて、もちろん分からない。
でも、これならば、少なからずコンクールの土俵には上がれるような気がした。

僕は、最後に細かい重箱の隅の隅・・・本当に隅っこの指摘をひとつだけした。娘は笑顔でそれに
頷きながら、僕の指摘を聞き終えると、踵を返して階段を駆け上がり、再び自分の部屋にこもった。

実は、娘には言ってなかったことがある。

それは、娘が必死に四コマ漫画と格闘していたちょうど同じ頃、僕は審査員の両氏と、それぞれ
とある仕事で関わっていた、ということだ。だから、もしも僕の中に屈折した親心があったならば、
何とかその“つて”を使って、根回し・・・ということも出来たのかもしれない。

でも、当たり前のことだが、そんなことをしたところで、誰も幸福になんかならない。
だから、それに関しては、娘にはもちろん、審査員のお二人にも一切口外していない。

昨日、娘は苦労して描いた四コマ漫画を、学校の担任教師に提出し、学校を介してコンクールに応募
したそうだ。
さて・・・娘の初漫画作品は、どうなるのだろうか。
親としては、受賞して欲しいと思う一方で、実は、“落ちればいいのに”と思っている僕もいる。

ここで受賞や入選をしてしまうと、後が厄介だからだ。
“ビギナーズラック”という言葉を、強引に別の言葉に換えれば、それは“勘違い”である。

勘違いをしたまま突き進むほど、哀れな生き方はない。
それは、約10年前に処女作の小説でいきなり文学賞を受賞した僕自身が、一番よく分かっている。

できれば落選して欲しい。
それも箸にも棒にもかからないような落選をして欲しい。
そして悔し涙をいっぱい流して、それでもやる気がまだ自分の中でメラメラと残り火のように燃え
ていたならば、何度でも何度でもチャレンジして欲しい。
その方が、絶対にいい作品が出来るはずだ。
そして受賞した時の喜びも、もっともっと大きいはずだ。
それは、この10年間諦めずに小説を書き続け、今年やっと最優秀賞を受賞した僕自身が、一番よく
分かっている。
コメント (2)
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