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チーズと木靴と風車の街、オランダ:アルクマール

2011-07-09 00:00:51 | 街たち
「世界ふれあい街歩き」オランダ:アルクマール。
アムステルダムから北へ50kmにある、運河がめぐらされた、かつての交易の街。
元は湿原で、数百年にわたり干拓工事をして、風車で水をかき出し得た海抜0m以下の土地に、レンガを積んで作った街並みは、建物の高さは2階に統一され、秩序あるものになっている。
驚くのは、島状の農地が整然と並び、間を運河が網目状に入り組んで、畑仕事をするのに船で向かうところ。
何十年か前の島畑の航空写真は、几帳面にびっしりと並んで、オランダ人の気質を表している。
多いときには1500島以上もあり、「千島の国」の異名を持ったほどだとか。

オランダといえば、「木靴」。
今でも木靴は現役で、市井の人たちの生活に役立っている。
ある400年以上も木靴や古くからの生活用品を専門に商っている店が,紹介された。
年配者が愛用するばかりではなく、若い人たちも木靴を買っていく。
野良仕事には、もってこいなどだという。
夏は涼しく、冬暖かい、何より蒸れないところがいいらしい。
こうした民芸品が、根強く生活に残っているなんて、ゆとりを感じずにはいられない。
だから、真の豊かさがあって、人々の顔に生き生きとした表情が宿っているのだろう。

そして、食いしん坊垂涎のチーズ。
アルクマールのチーズは、とても有名なのだそうで、その形も山吹色のてかてかした表面に穴のないタイヤのような形をしている。
それが、店の棚にずらりと並んでいるところは、壮観。
やはり、老舗のチーズ屋においてのこと、年配者が3~4人店主に試食をさせてもらいながら、チーズの味とできばえを話し合っていた。
まだ若いチーズだの、硬くなって程よく熟成されて風味が増した「こぶチーズ」だのと。
そんななか、黒ぐろと照り輝く物体が登場した。
オールド・アルクマール、3年以上寝かせたもので、濃厚でとろけるような味わい、ワインによく合う代物らしい。
とても気になった。
家人も、ブツブツつぶやいている「どんな味がするのか、食べてみたい・・・」と。
まさしく、食いしん坊ならではの心からのつぶやき。

とあるファストフードスタンドのようなところで、人々がなにやら顔を上向きにして手で摘まんだペロンとしたものを必死で口にほおばっていた。
その正体は、生のニシン。
それに塩をきかせて、ペロンとほおばったり、時にはパンにはさんだりして、毎日のように食べるらしい。
生の魚を食べるのは、とても珍しいが、ここアルクマールでは昔から行われていたという。
海は運河を渡っていけばすぐそこで、新鮮な魚には事欠かないからだろう。
そういえば、あんなにチーズを食べて平気なのは、ニシンのおかげなのかもしれない。

電気の排水ポンプの登場で、風車は、今ではその役割を終えて、歴史的文化遺産としてその余生を送っている。
ただ放置しては、あっという間に劣化してしまうから、風車守兼住人として居住する人たちがいる。
風車を動かす免許を取得し、動かすときには2時間おきに豚の油を鉄の車軸と受けの石のところに塗らなくてはならない。
文化遺産を守り管理していくのに、市民のこうした参加型保全は、とても合理的だし、文化財に寄せる市民の意識も高まるので、オランダでは成功している。
もちろんわが国でも、そのような保全の仕方はあるが、携わる市民に不便さを感じることも多くないと思う。
何より、保全活動に携わるか否かの選択の自由があるところが、無理のない保全活動として成功の鍵なのだ。

人間において、食住が足りれば幸せなのではない。
心が満ち足りる、つまり、何かを自分の意思で成せること、熱中して何かを成し遂げることがないといけないのだ。
チーズ運搬専門職の歴史を背負って仕事に励む誇り、文化遺産の風車を守る、チーズを熟知してお客に提供するなど、自分の成すこと(仕事)に誇りを持って励めることが。
真の豊かさは、心の中にある。
アルクマールの人の顔は、真の命溢れるものであるように感じた。