善き羊飼い
我がアトリエの壁に、ムリリョが一枚掛かっている。
ベルギーの蚤の市で見つけたもの。
この”善き羊飼い”の少年の顔の部分だけを切り抜き、可愛らしい額装をして売られていた。
おそらく、教会の門前にある宗教関係のものを売る店か、土産店で置かれているものに違いない。
でも、そんなことは気にしない。
愛らしい少年の顔とベルギーの蚤の市の思い出が、あるから。
ムリリョは、17世紀バロック期のスペインの画家。
少女のような可憐な聖母と、愛らしい天使が、彼の絵の特徴。
「無原罪の御宿り」の主題で、多くの作品を描いた。
気品と甘美さを兼ね備えた、天上的な絵画になっている。
シンプルで計算の行き届いたしっとりとした色使い、控えめなダイナミズムを持った構図、心地よく美しいフォルム。
ただの美しい絵と軽くみられそうだが、これらがバランスよくあっさりと見事に決められているせいなのだ。
画面の四隅まで、気を抜くことなく気配りされている、高い技量を持った画家だ。
自分も、そう長くはないこれからの一生のうちに、さらりとしているが、実は完璧で天上的かつ美しく上品な絵を、1枚でもいいから描けるように精進しよう。
ムリリョは、優しくいたわってくれる、少し砂糖を加えたホットミルクのような絵だと、自分的に形容してみた。
聖母子像