イスカ 真説邪気眼電波伝・26
『中庭のバトル・3』
もう話した方がいい。
佐伯さんの様子にイスカは小さく呟いた。
「あ、えと……」
リアルが苦手なオレは、おいそれと的確な言葉なんか出てこない。ましてイスカが喘ぎながらくっ付いているところを見られたんだ――あれは、イスカのチャージで、佐伯さんが思ったようなことじゃないんだ――と浮かんでも、言葉は喉の所で絡んで、いっこうに音声にならない。だいたいリアルにおけるオレって、伝える内容よりも伝え方というか、身振り手振りやら表情だけでも不快な印象を人に与える。だからたじろいでしまう。まして、今のチャージの様子なんて18禁のエロエロで――あれはチャージなんだ!――と正直に言って理解してもらうなんて不可能だ。
――もういい――
そんな目つきをして、イスカは一歩踏み出した。
「わたし、西田佐知子ってことになってるけど、それは仮初めの名で、真名……ほんとうは堕天使イスカ、暗黒魔王サタンの娘。この地上に蔓延ろうとしているダーク魔王ルシファーを封じ込めるためにやってきているの。未熟な堕天使だからエネルギーのチャージは、この北斗勇馬に頼っている、つまり、さっきのはバトルで使ったエネルギーの急速チャージをやっている最中だったのよ……」
イスカは、ゆっくりと横顔を見せながらベンチに座る。正対して話すには荒唐無稽すぎ、素直に佐伯さんに入らないだろうと思ったようだ。
「佐伯さんと接触するのは、これで二度目……トラブルやバトルは時間を止めて亜空間でやるものなんだけど、状況が悪くなってきて、リアルで戦わざるを得なくなってきたの」
「……三宅先生ね」
「ルシファーは……って、今は、その下のマスティマというのが相手なんだけど、人の心を汚染しつつある……リアルの人間相手じゃ亜空間に移る余裕は無いの……」
「つまり……佐伯さんを巻き込むことになってしまったようなんだ、そうだろ?」
「そういうことだから、理解してほしいの」
いつのまのにかイスカの傍に寄っていた佐伯さんは、しずかにイスカの手をとった。
「おもしろい冬になりそう……これからもよろしく。ね、北斗君も」
「これからも苦労をかけることになるかもしれないけど……その、よろしく。二人のことは全力で護るから」
「えと……オレからもよろしく」
自然に三人で手をとりあった。まるで新しいギルドを結成してボス戦に臨むときのようだ。ネトゲなら、新ギルド結成を祝してファンファーレでも鳴り響くところだ。
キ~ンコンカンコ~ン キンコ~ンカ~コ~ン
鳴り響いたのは下校時間を告げるチャイムの音だ。
あれだけのバトルがあったというのに中庭以外は平穏な様子……嵐の前の静けさというフレーズが浮かんできた。