イスカ 真説邪気眼電波伝・39
『dakishimete』
保健の先生探してくる!
宣言するように言うと、佐伯さんは保健室を飛び出した。
ベッドのイスカ……西田さんは無言だが、顔が青ざめて脂汗が浮かんでいる、そうとう痛いんだ。
西田さんモードの時は、無口でどんくさい女の子なんだ。で、我慢強い。オレだったら転げまわって泣き叫んでるぞ。
せめて「痛いよおおお」くらいの弱みは見せてほしい。どうしていいか分からずに横に居るのは心が折れる。
ス………マ………ホ……
西田さんが苦しい息の中、口の形だけで言う。
「スマホ? 西田さんのか? オレの?」」
「……うん」
「あ、えと……体育の時間だからロッカーにしまって……取ってくる!」
ポロローン
ドアに急ぐと、保健室のパソコンがメール着信の音がした。
教職員用のパソコンなんで躊躇われたが、なんだか大事なことのように思えて、パソコンのデスクに寄った。
――dakishimete isuka――
え、なんだろう?
da ki shi me te ……ダ キ シ メ テ……抱きしめて イスカ……気づくのに三十秒ほどかかった。
口に出して言えないから、オレのスマホに、それも間の合わないから手近のパソコンにメッセージを送ったんだ、変換する余裕もないんだ。
ひどく背徳的な気持ちがしたが、オレはイスカのジェネレーターだ。ゲームで言えばヒーラーでリペアの機能もあるに違いない。
オレは、ベッドに上がった。体操服に泥が付いているのが気になったが、事は急を要するんだろう。西田さんの横に寝ると覆いかぶさるようにして……でも体重をかけるわけにはいかないから、手足を踏ん張って重なった。大丈夫な右手がオレの背中に回されてしがみ付いてくる。
「つ……よ……く……」
「あ、ああ」
リペアのためだとは分かっていても、ベッドの上の女の子に被さるというのは、なんとも具合が悪い。
くっついた胸からは西田さんの胸のふくらみを感じてしまう……ヤバいぜ……。
オレは腰を浮かせた……だって、まずいだろ? 分かるだろ?
すると、西田さんの右手が腰の上に下りてきて、思いのほか強い力で抑えてきた!
ヌグ!?
心臓が飛び出しそうになった!
二三分そうしていただろうか……西田さんの呼吸が穏やかになって顔色も戻って来た。
目を骨折した左腕にやると、反対方向に曲がっていたのが普通に戻って来た。わずかに逆方向だが、女の子の腕というのは、くつろげた状態でも、わずかに反っているものだ。にくそい妹が、まだ「お兄ちゃん」と慕ってくれていたころの様子を思い出す。
もういいかな……そう思って身を起こそうとすると、右手でグッと抑え込まれる。左手が添えられないというのは、まだ具合は悪いのだろう。
そうこうしていると、廊下の向こうから二人分の急ぎ足が聞こえてくる。佐伯さんと先生だ……ヤベー!