大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・イスカ 真説邪気眼電波伝・39「dakishimete」

2018-02-17 14:16:03 | ノベル

イスカ 真説邪気眼電波伝・39

『dakishimete』

 

 

 保健の先生探してくる!

 

 宣言するように言うと、佐伯さんは保健室を飛び出した。

 ベッドのイスカ……西田さんは無言だが、顔が青ざめて脂汗が浮かんでいる、そうとう痛いんだ。

 西田さんモードの時は、無口でどんくさい女の子なんだ。で、我慢強い。オレだったら転げまわって泣き叫んでるぞ。

 せめて「痛いよおおお」くらいの弱みは見せてほしい。どうしていいか分からずに横に居るのは心が折れる。

 

 ス………マ………ホ……

 

 西田さんが苦しい息の中、口の形だけで言う。

「スマホ? 西田さんのか? オレの?」」

「……うん」

「あ、えと……体育の時間だからロッカーにしまって……取ってくる!」

 

 ポロローン

 

 ドアに急ぐと、保健室のパソコンがメール着信の音がした。

 教職員用のパソコンなんで躊躇われたが、なんだか大事なことのように思えて、パソコンのデスクに寄った。

 

――dakishimete isuka――

 

 え、なんだろう?

 

 da  ki  shi  me  te  ……ダ キ シ メ テ……抱きしめて イスカ……気づくのに三十秒ほどかかった。

 口に出して言えないから、オレのスマホに、それも間の合わないから手近のパソコンにメッセージを送ったんだ、変換する余裕もないんだ。

 

 ひどく背徳的な気持ちがしたが、オレはイスカのジェネレーターだ。ゲームで言えばヒーラーでリペアの機能もあるに違いない。

 オレは、ベッドに上がった。体操服に泥が付いているのが気になったが、事は急を要するんだろう。西田さんの横に寝ると覆いかぶさるようにして……でも体重をかけるわけにはいかないから、手足を踏ん張って重なった。大丈夫な右手がオレの背中に回されてしがみ付いてくる。

「つ……よ……く……」

「あ、ああ」

 リペアのためだとは分かっていても、ベッドの上の女の子に被さるというのは、なんとも具合が悪い。

 くっついた胸からは西田さんの胸のふくらみを感じてしまう……ヤバいぜ……。

 オレは腰を浮かせた……だって、まずいだろ? 分かるだろ?

 すると、西田さんの右手が腰の上に下りてきて、思いのほか強い力で抑えてきた!

 ヌグ!?

 心臓が飛び出しそうになった!

 

 二三分そうしていただろうか……西田さんの呼吸が穏やかになって顔色も戻って来た。

 

 目を骨折した左腕にやると、反対方向に曲がっていたのが普通に戻って来た。わずかに逆方向だが、女の子の腕というのは、くつろげた状態でも、わずかに反っているものだ。にくそい妹が、まだ「お兄ちゃん」と慕ってくれていたころの様子を思い出す。

 もういいかな……そう思って身を起こそうとすると、右手でグッと抑え込まれる。左手が添えられないというのは、まだ具合は悪いのだろう。

 

 そうこうしていると、廊下の向こうから二人分の急ぎ足が聞こえてくる。佐伯さんと先生だ……ヤベー!

 

 

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高校ライトノベル・ライトノベルベスト『ロストアンブレラ』

2018-02-17 07:13:01 | ライトノベルベスト

ライトノベルベスト
『ロストアンブレラ』
         


 日本の南に台風が三つもある。それが複雑に絡み合って、今週の天気は、かなり気まぐれだ。

 俊介は、小学校のころは台風というものに意思があると思っていた。だから元寇で神風が吹いたのは、日蓮上人の強烈な祈りに台風が呼応したんだと、日本の歴史を習ったころは思った。
 思い続けていれば、俊介は今ごろ熱心な日蓮宗の信者になっていただろう。
 今は、台風と言うのは、意思など無く、赤道付近で生まれた低気圧が発達し、太平洋高気圧と偏西風によって動くものだということが分かっている。

 でも、感覚的には、ふと意思があるような気がするようなことがある。

 一昨日は、天気図を見ても予報を聞いても雨は降らないと判断し、傘を持たずに家を出た。三講時目の心理学概論が終わって、B棟の講義室を出ると見事に雨が降っていた。仕方なく購買部でビニール傘を買って、正門を目指した。

 途中にA棟の前を通る。

 視線を感じた。

 チラ見すると、A棟の前で屯している学生の中に千衣子がいるのが分かった。
「駅までいっしょに行こか?」
 気のいい俊介は、気楽に千衣子に声を掛けた。千衣子は、当たり前のように俊介の傘の中に潜り込んできた。
「俊介、雨降らへんと思てたやろ」
「うん?」
「そやかて、購買のビニール傘や」
「ああ……」

 千衣子自身傘を持っていないので、人の事を言えた義理ではないのだが、千衣子の自己中は入学以来分かっていたので、俊介は言い返しもしない。駅まで、ただ千衣子を濡らしてはいけないと思い、駅に着くころには俊介の右半身はずぶ濡れだった。

「どーも」

 千衣子は猫が尻尾を振る程度のお愛想で反対側のホームに向かった。
――明日は傘持ってこなあかんな――
 人のいい俊介は、千衣子の身勝手に呆れるよりも自分の不用意を反省した。

 で、昨日は入学の時、父からのささやかな入学祝の黒い傘を持っていった。皮肉なことに雨には遭わなかった。代わりに千衣子の正直で、ちょっと毒のある言葉が飛んできた。
「アハハ、俊介、あんたホンマに間ぁ悪いな!」
――そうやなあ――
 そう思ったころには、千衣子はスキップしながら正門を出ていくところだった。
「ティンカーベルみたいなやっちゃなあ……」
 かすかに不満の混じった詠嘆が口から漏れただけだった。

 そして今日、講義が終わって講義室を出ると、傘立ての傘が無くなっていた。

 千衣子は、高橋を発見して、とっくに、その傘に潜り込んでいた。高橋は俊介と違って気の利いたお喋りをしてくれる。傘は一昨日のビニール傘と違って、二人をなんとか収めるだけの大きさがあった。千衣子は雨よけを利用して身を寄せてくる高橋の温もりが疎ましかったが、さすがに文句は言わない。
 だが、駅の庇に入ると、千衣子は高橋を一刺しにした。
「その傘、人のん盗ってきたでしょ」
「え……」
「柄のとこにプレートがぶら下がってる。SYUNSUKEて」
「あ、これ、弟の傘だよ」
「あ、そう……高橋君て、下は妹やったと……ま、あたしの思い違いかもね」
「やるよ、帰り濡れるといけないから」
「あ、そ、ありがとう」

 ビニール傘を買うお金も無かったので、俊介は、駅までずぶ濡れになって行った。駅に着くと千衣子からメールが着ていた。

――俊介の傘ゲット。四時まで梅田の改札出たとこで待ってる。千衣子――

「梅田……方向逆やのに」

 ま、千衣子も梅田になにか用事があるんだろう……そう思って準急に乗った。

 気まぐれな雨は十三(じゅうそう)を過ぎたころには上がっていた。

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