大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・イスカ 真説邪気眼電波伝・44「このままやれってか!?」

2018-02-23 14:30:08 | ノベル

イスカ 真説邪気眼電波伝・44

『このままやれってか!?』

 

 

 え……だれ?

 

 野営のテントから出ると、ブスに訝しそうな目で見られた。

 見られただけじゃなくて、レイピアを喉元に突き付けられる。下手に動いたり口走ったりするとグサリとやられる。

「ダレって聞いてるのよ! 人のテントに忍び込んで、なにしてんのよ!?」

「あ、オレだよオレ、ナンシーナンシー!」

「ナンシー? IDを見せなさい!」

「え? ちゃんと頭の上に……あれ?」

 カメラをグリンと回したが、オレの頭の上にIDは見えない。こういうことになってはいけないので、ログインするときにID表示は確認したはずなのに!?

「いっぺん死ねええええ!」

 レイピアがズンと突き出される! からくも避けて万歳をする。半ば威嚇の攻撃だったので躱せたが、次に本気でやられたら死ぬ。なんせバトルスキルはレベル20だ。幻想神殿を始めて二年になるけど、ずっと47層の森で隠遁生活なのだ。それに……今日のオレは、ずっと仕舞い込んでいたサブアバターだ、20の力も無いだろう。

「タンマタンマ、オレだって、ほんとにオレだって!」

 くり出されるレイピアに地面を転げまわる。

 ズチャ! ズチャ! 二度三度耳を掠めて地面を刺突する音、もうダメだと思った瞬間!

「ID表示を迷彩柄にしないでよねー!」

「え、迷彩?」 

 カメラを回すと……確かに森林迷彩柄になっている。これでは木や草を背景にしたら見えなくなる。でも、おかしい、ログインするときに、ちゃんと赤と黄色のネオンカラーに設定したはずなのに?

「ネオンカラーって迷彩のすぐ下だから、間違えた……かな?」

 われながらドジだ。

「でも、なんで、そんなアバターなのよ!? ひょっとしたら、人間に化けたモンスターとか思っちゃうでしょ!」

「え、あ、いや、それが……」

 

 オレは、佐伯さんが幻想神殿を面白がって、アバターをつくって上書きしてしまったことを説明した。

 

「それだったら、また上書きすればいいだけの話でしょ」

 レイピアをクルクル回して鞘に納めながら、なにをくだらない! という感じで言い放った。

「それが、上書きしようとすると、HPもMPもスキルも『初期化されます』のアラームが出るんだよ」

 ネトゲの世界というのはアナーキーなもので、システムの隙間を縫うようにしてアイテムやスキルの盗難が意外にある。寝落ちしたプレイヤーのウインドウを開いて盗む奴とか、ウィルスを仕込んで盗む奴とかが存在するらしい。

 だから、異なったアバター間でのやり取りは制限がかかっている。回数なのか、設定条件なのか、アバターの切り替えなんてやったことが無かったから、よく分からない。しかし、佐伯さんのアバターに上書きできないことは確かなのだ。

「それじゃ、その上書きされたアバターに替えなさいよ。いくらなんでもデフォルトの初期アバターじゃ攻略は無理よ」

「いや、あ、でも女性アバターなんだぜ……ネカマの趣味ねーし」

 

 実は、幻想神殿を始めて間もないころ、パーティーを組んだ中に可愛い女の子が居て、結婚を申し込んだら「アハハ、おれ男だぜ!」と大恥をかいたことがある。

「あ、それが47層で隠遁しちゃった原因?」

「ち、ちがわい!」

「ま、とにかく、それじゃ話にならないから、さっさと替えてきてちょうだい!」

「わ、わーったよ!」

 コンソールウィンドウを開きながらテントの中に戻ろうとした。

「ここでやればいいでしょ」

「そ、それは」

「恥ずかしいんだ。ま、いいや、さっさとやってね、今日は山一つ超えときたいからね」

「の、覗くんじゃねーぞ!」

「だれが覗くか!」

 

 そしてテントに戻って、アバターを替えた。自分の姿を見るのが嫌で、オレは一人称視点にしてテントを出た。

 

――ど、どう?――

 口の形だけでブスに聞いた。

「……………………!」

 目を見張るばかりで声を発しない。

「なー、なんとか言えよ!」

 声を発して驚いた。佐伯さんによく似た女の声だ!?

「ちょっと待て、いま、声の設定変えるから!」

「あーーそのままそのまま! その姿で男の声は犯罪的に気持ち悪いから、じゃ、行くよ!」

「えーー、じゃ、このままやれってか!?」

 数歩先に歩き出していたブスは、回れ右をすると、真面目な顔で寄って来た。

 

「その姿かたちで男っぽいのは、わたしの美意識が許さないの!」

 

 オレは、初めて本気でネトゲを止めようかと思った。

 

 

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高校ライトノベル・高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・2『スカイツリーと東京タワーの間に』

2018-02-23 06:50:28 | 小説3

高校ライトノベル
通学道中膝栗毛・2『スカイツリーと東京タワーの間に』
        


 東京タワーとスカイツリーの両方が見える。

 どこからでも見えるというんじゃないけど、駅に向かう途中で見えるポイントがある。
 むろん、このポイントが特別じゃなくて、我が街のあちこちで見える。
 スカイツリーが出来た時こそ珍しく、親友の足立鈴夏といっしょに眺めたもんだけど、いまは、ほとんど街の景色の背景になっている。

 スカイツリーは「すごいんだぞ!」と言われていた。

 だから、完成するまではワクワクしていた。
「え、あれでおしまい?」
 完成した日に買ってもらったばかりの携帯を構えて拍子抜けがした。
「なんかねー」
 鈴夏もつまらなさそうだった。
「東京タワーとかわんないじゃない」
「だよねー」

 あたしは、完成した時の感動をマックスにしたかったので、二か月ほどは建築中のスカイツリーは見なかった。
 だから、琴吹公園のジャングルジムのてっぺんで、満を持して見た時はガックリきた。

「634メートルって、ほんとかなあ」
「うんとね……」

 鈴夏は腕組みをして考えたってか、考えをまとめている。
 鈴夏はかしこいってか、大人びた小学生で、感動したり発見したことは腕組みして、なにがしかの結論を出す子なんだ。
 むろん、いつも正しい結論が出るわけじゃない。「ね、なんでドーナツには穴があるの?」と、ミスドのフレンチクルーラー食べながら聞いたことがある。
 しばし腕組みした鈴夏は、オールドファッションを咀嚼してから、こう答えた「それは、ドーナツの誇りなんだよ」「え、誇り?」
「そだよ、穴が無きゃ、砂糖まぶした揚げパンとかわんないじゃない。ぼくはドーナツなんだという誇りの穴なんだ。ぼんやり食べていると、それに気づかない。だから、いま、わたしはドーナツの誇りを食べているんだという気持ちで食べてあげなきゃいけないんだ」
 そう言って、半分残っていたオールドファッションの穴の所を「ハム」って食べた。で、とてもおいしそうな顔をしたので、あたしもフレンチクルーラーの穴を「ハム」って食べた。なんだか、それまでの倍くらいおいしく感じた。

「スカイツリーはね、墨田区なんだよ。東京タワーの倍くらい遠いところにあるから小さく見えるんだよ」

 正解なんだろうけどね。
「ドーナツの穴とは違うんだね」
「……それはね、後輩のスカイツリーが先輩の東京タワーをリスペクトしてるからなんだよ」
 小三のあたしには「リスペクト」はむつかしかったけど、先輩後輩の理屈はしっくりきた。
「なるほどねー」

 その六年後の学校の帰り道。

 ホームから見える先輩後輩のタワー見て、こう言った。
「あの間にロープ張って、綱渡りする人がいたら偉いよね、やってみる!?」

 親友は、あのころのように腕組みをして言った。

 こういうぶっ飛び方をする鈴夏が、あたしは好きです。

  

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高校ライトノベル・新 時かける少女・5〈宇土さん……!?〉

2018-02-23 06:41:58 | 時かける少女

新 かける少女・5
〈宇土さん……!?〉 



「愛ちゃん、眠れないの?」

 二段ベッドの上から、囁くような宇土さんの声がした。
「うん。船だからしら、なんだか目が冴えちゃって……」

 あたしは、寝付きはいいほうだ。子供じみているかもしれないけど、今夜はどんな夢が見られるんだろうと、さっさと眠りに落ちていく。時々こわい夢をみることもあるけど、たいていは、訳の分からない夢で、それが楽しみで早く眠ってしまうのだ。
 
 一度だけ、人を助けようとして川に飛び込んで、溺れていた女の子は助け、自分は死んでしまう夢をみたことがある。

 とても怖くて、しばらくは眠るのが恐ろしい時期があった。でも、それは一回ぽっきりで……って、夢だから、忘れているのかもしれないけど。
 とにかく、そういうことで、あたしは寝付きがいい。
 ところが、今夜は、どうにも眠れない。隣の二段ベッドでは、お母さんと進がスヤスヤと眠っている。

「新しい生活が始まるんだもん。無理ないわよ」
 あたしは宇土さんに促されて、夜のデッキに出た。就寝時間以降デッキに出ちゃいけないんだけど、宇土さんは、そんなことには頓着しない。
「……もう沖縄が近い。風が少し暖かいわ」
「ほんとだ、これで靄が出てなきゃ、素敵な夜空なんでしょうね……」
「こういうときは、いっそ起きといたほうがいい。こんな素敵な景色が見られるんだから……そして……」

 宇土さんの次の言葉を待っているうちに世界がでんぐり返った。

「あ……」

 一瞬わけが分からなかったけど、ジャージが脇の下までめくれ上がり、脇が痛かった。
 で、気が付いた。あたしはデッキから足をすくわれて海へ落とされそうになった。ところが下のデッキでだれかが、あたしのジャージの裾を掴んで落ちないように助けてくれたんだ。
「腕を組んで。このままだとジャージが脱げて、海に落ちてしまう」
 どこかで聞いたことのある声が、そう言って、あたしをデッキに引き上げてくれた。ブラを外した胸があらわになってしまっていたけど、それどころじゃない。頭上で気合いの入った息の音がしたかと思うと、あたしはデッキに引き上げられていた。

「う、運転手さん……」

 あたしを助けてくれたのは、長崎でトラックを降りた運転手さんだった。
「わたしの後ろに回って!」
 運転手さんの肩越しに、上のデッキから降りてきた宇土さんが見えた。
「君がエージェントだったとはな。長崎港で愛ちゃんの替え玉が海に落とされたところで、一件落着だと思ったんだけどね。調べ上げて分かった。君は二年前に本物の宇土君が除隊したときから入れ替わって、なりすましていたんだ。昨日北摂の山の中から、宇土君の骨が出てきた。で、オレは急いでヘリで奄美大島に飛んで、この船に乗り込んだんだ」
「ち、あんたが自衛隊のシークレットだったとわね……」
「どうして……」
「自分が狙われるか……それは、愛ちゃんが総理大臣の娘だからよ」
「え……!?」
「聞くんじゃない。隙ができる」

 瞬間、運転手さんと「宇土」さんが激しくぶつかって入れ違い。気づくと「宇土」さんに羽交い締めにされていた。
「あなたはね、総理が安全保障会議のメンバーだったころに奥さんではない女性に生ませた子。で、出向していたお父さんが、自分の子どもとして届けた。戸籍上も実子としてね。愛ちゃんは、総理のアキレス腱だったのよ。だから人質にしようと思ったんだけど、次善の策をとるしかなさそうね……」

 あたしは、左胸に軽い圧迫感を感じた。

「くそ!」
 一瞬の間に、再び「宇土」さんと運転手さんが入れ違い。あたしは運転手さんの背後に回されていた。
「宇土」さんの胸に太めの針のようなものが刺さっていて、「宇土」さんは、そのまま空を掴むように手を伸ばすと、最後の力を振り絞って海に飛び込んだ。

「危ないところだった。胸のポケットに何か入れていたのかい?」

 あたしは、胸のポケットから、それを出した。美奈子ちゃんからもらったお守りだった。
「護国神社の特製だ。お守りの中は、戦時中の銃弾をプレスした金属片が入っている。これが無ければ、海に落ちて死んでいたのは、愛ちゃんだよ」
「こ、これって……」
「愛ちゃんのスペクタクルな夢さ」

 そこで意識が無くなった。

 明くる日、目が覚めると宇土さんの姿がなかった。
「夕べ、急病になりましてね。医務室にいます。たまたま自分達が乗っていましたんで、那覇に着いたら、自分が官舎まで運転させてもらいます」
 ビッグダディーのような運転手さんがやってきて、そう言った。
「愛、寝過ごしちゃった。もう那覇に着くわよ。急いで用意して!」

 そうして、あたしたちは無事に那覇の官舎に着くことができた。

 夕べのことは夢……じゃないと思う。お守りには小さな穴が開いていたんだもの……。 

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