イスカ 真説邪気眼電波伝・37
『朝の七時には目が覚める』
どんなに疲れていても朝の七時には目が覚める。
いい子だからじゃない。
一種の強迫観念と言っていい。
もし七時を過ぎると、ズルズルと二度寝三度寝してしまい、学校に間に合わない時間になってしまうと、あっさり休んでしまうことが分かっているからだ。一度休んでしまうと、あくる日はさらに行きにくい。二日休むと、もっと行きにくい。三日も休むと、おそらく不登校になる。
「北斗君は、入学以来休んだことが無いんだ。えらいと思いますよ!」
三者懇談の時、香奈ちゃん先生は、そう言って誉めてくれた。
成績も人間関係も褒められると一つもないもんだから、そう言って、まず誉めてくれたんだ。教師になって、まだ三年目だけど、こういう気配りの出来る香奈ちゃんは好きだ。でも、オレの無欠席が不登校寸前の弱っちい気持ちから来ていることは分からないだろう。
殺人とかのとんでもない事件をしでかすやつが、クラスでも目立たない大人しい奴っているじゃん。
「真面目な子でしたよ」「そんなことをするようには見えなかった」「いつも通りでしたよ」とか、事件の後で言われたりするじゃん。それって、ふとしたことでリズムが狂ったからなんじゃないかと思うんだ。たとえば、目が覚めたら七時一分で、そのために休んでしまって、ズルズルになり、不登校になって、いろんなことが閉鎖的になり、そのあげく、いろんなことがチグハグになって人を殺しちゃったりな。
だからオレは七時には目を覚まして起きるんだ。
でも、めちゃくちゃ体が重い。
分かってるんだ、昨日あれだけのことがあって、その上『幻想神殿』には律儀にログオンして午前一時までブスの相手をしていた。あいつのお蔭で三年ぶりのバトル。なんとかピーボスはやっつけたけど、急所を外したため、ピーボスはソードが刺さったまま逃げやがった。今度ログインしたらナイフ同然の初期装備のダガーしかないぞ。
セイ!
ゲームの中みたいな掛け声かけると、手早く着替えて一階に降りる。
すでに起きて、出かけるばかりの優姫が罵声を浴びせてくるが割愛する。いつものことだし、いちいち思い出してははらわたが煮えくり返って憤死しそうなので、学校に行ったところまで巻きとする。
教室に入ると、みんな生きて動いているので安心する。
ほら、昨日は、みんなの時間が停まっていてさ、イスカ一人が起きてて、ルシファーのドラゴンとバトルになった。
クラスは半分くらいが登校していて、イスカも席に着いていた。よしよし、全て世は事も無し……安心して席に着こうとしたら「北斗君……」と声をかけられる。
「佐伯さん?」
「ちょっと来て……」
互いに「おはよう」の挨拶も交わさずに階段の踊り場に向かう。
三十センチくらいに顔を寄せる佐伯さん。夕べのブスと同じ間合いだ……と思ったら、眉根を寄せてヒソヒソと言う。
「ちょっと、イスカさんの様子がおかしいの……」