イスカ 真説邪気眼電波伝・30
『爆発した優姫』
ボン!
首のない優姫は二三歩歩いたかと思うと、くぐもった音をさせて爆発した!
「な、なんなんだ!?」
電柱一本分離れているとはいえ、肉やら内蔵やら血やらの飛沫や破片がビチャビチャと飛んでくる。
憎ったらしい妹だけど、これはないだろ……う! 血のニオイがたまらん!
オレは口を押えて後ずさる。
「い、いまの、イスカが……」
オレの言うことを半分も聞かずに、イスカは優姫の残骸に駆け寄っていく。せめて、避けて行けばいいのに肉片やら血だまりをビチャビチャ踏みながら……で、オイデオイデをする。
「なんてことするんだ……」
「ちゃんと見ておくのよ」
「……………」
「見るのよ、ほら!」
「や、やめろ!」
イスカは、血みどろの首を掴むとバレーボールかなんぞのように投げてくる。
ベチョ!
「ヒエーーーーー!」
我ながら情けない声を上げて尻餅をつく。
「目を開けて、しっかり見るのよ」
数秒かかって薄目を開けると、妹の首は半開きになった口から舌をのぞかせ、目は驚愕のまま見開かれて……あれ?
首は、見る見るうちに色彩を失い、土人形のようになったかと思うと、ボロリと崩れて洗面器一杯ほどの土くれになってしまった。恐るおそるイスカの足元に目をやると、グロテスクに飛び散ったとはずの肉片は撒き散らした土に変わっていた。
「な、なんなんだよ、これは!?」
「ルシファーの仕業よ、土くれで優姫を作って安心させて……家に入ったところで……ほら、耳を澄ますと聞こえるでしょ」
地面の奥底深くで地下鉄が走り去っていくような音がした。
「土属性の魔法ね、油断していたら、この地響きがせり上がってきて山一つ分くらいの土砂で生き埋めにされるところだった」
「本物の優姫は?」
「まだ学校か……」
意に反して、優姫はドアから顔を覗かせた。
「……なにかあったの?」
「通りすがりのダンプが土砂をこぼしていってね、危うく土まみれになるところだった」
「あーほんとだ、あ、今日も勉強でしょ、寒いから中に入って」
日差しは残照だけになり、晩春の寒さが大気に満ち始めていた。
「ち」
「んだよ」
舌打ちした優姫に条件反射的に反応してしまうが、イスカも居ることもあって、シカトしてイスカに愛想を振りまく。
「バカ相手じゃ人生の無駄になるでしょうけど、よろしくお願いしますね西田さん」
「まかしといて」
この豹変ぶりはまごうこと無き愚妹である。
「いま、お茶持ってきます、時分時だから虫やしないにブタまんつけますね♪」
「おかまいなく……いい妹さんじゃない」
感想なのかオチョクリなのか分からないイスカと階段を上がる。まだ暖房などはしていないのだけど、家の中は人肌を思わせる温もりだ。これで優姫がいなければ……と思っても口に出さないオレであった。