大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・イスカ 真説邪気眼電波伝・41「人生最大の拍動」

2018-02-19 12:53:53 | ノベル

イスカ 真説邪気眼電波伝・41

『人生最大の拍動』

 

 

 移動教室の四限が終わって渡り廊下を食堂に急いでいると、眼下の車寄せに西田さんと年配の女性が見えた。

 続いて香奈ちゃん先生の後姿が見えたので、お母さんが迎えに来たところだろうと見当が付く。

 五十代前半みたいだけど、襟を立てた白っぽいスーツに青いスカーフ、足許はスーツよりもトーンを落としたパンプスで、なんだかイカシテる。西田さんはイスカのアバターなんで、そのお母さんもNPCみたいなもんで、いかにもお母さんという感じだと思っていたので意外だ。

 香奈ちゃん先生とお母さんがお辞儀のエンカウント、先生の方がずっと若いはずなんだけど、気品と貫録でお母さんの勝利になって車に収まった。収まる時は運転手が出てきてドアを開けた、お辞儀をしているところを見るとお父さんではない。なんちゅうかお抱え運転手? 

「民自党の西田しほり……?」

 オレの横で佐伯さんが呟いた。

「知ってるの?」

「うん、ここんとこ張り切りまくってる女性議員、民自党の女性議員じゃ一番総理大臣の椅子に近いって噂よ。お母さんも何度かパーティーに呼ばれたの」

 そうなんだ、佐伯さんのお母さんは有名な女優さんで、政治家のパーティーなんかにも顔を出すらしい。

 でも、小学校のころのイスカは籾井って苗字だった、いや、アバターだから……考えたらこんぐらがりそうなので、車が校門を出て行くのを見送って思考を停止した。「お昼いっしょに食べよ!」と佐伯さんに言われては、オレのナマクラな脳みそは活動を停止せざるを得ない。

 きのうの修羅場をいっしょに潜ったことで、距離が縮まり、ちょっとした同志の気持ちを持ってくれているのなら嬉しすぎる。

「やっぱり平和なのがいいわよね……」

 A定食のライス少な目を口に運びながら佐伯さんが呟く。白身魚のフライを箸で挟んだまま、ちょっと遠くを見る目になって、半開きになった口から白い歯が覗いている。オレがやったら妹の優姫に「死ね!」と言われるような間抜け面になる自信がある。でも、佐伯さんがやると、美しさに親しみやすい奥行きができるというか、そういう呆けた表情を間近で見せてくれることがなんとも嬉しい!

 オレ、きっと間抜けな顔になってる……オレは不器用承知で顔を引き締めた。

「あら、真剣な顔……昨日のこと思い出したり?」

 労わりを含んだ声で聞いてくれる。オレ如きに……やっぱ、佐伯さんはいい人だ。

「激戦だったけど、イスカが頑張ってくれて、しばらくは大丈夫だと思うよ」

 安心してもらおうと笑顔を作ろうとするが、五十センチまで顔を寄せられ、オレは俯いてしまう。

「ひょっとして……成績?」

 言われて愕然となった。

 イスカが面倒見てくれて、なんとか人並みにやれそうな雰囲気になったけど、イスカが倒れた今、オレの成績は失速? いや、急降下? いや、真っ逆さまに地獄に激突間違いなし!

「大丈夫?」

 佐伯さんの顔がさらに十センチ近くなった。

「え、あ、あ……」

 パニクっていると、さらに五センチ近くなって、佐伯さんは、スゴイことを言った。

「そうだ、わたしがカテキしてあげようか!?」

 

 ドッキン!!

 

 オレの心臓は人生最大の拍動を記録した。

 

 

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高校ライトノベル・新 時かける少女・1〈その始まり〉

2018-02-19 06:39:34 | 時かける少女

新 かける少女・1
〈その始まり〉


「じゃ、また明日!」

「ハハ、明日は日曜だよ!」

 そう言って三叉路で別れたのが最後の記憶。

 それから、川沿いの道を歩いた。

 いつもとは違っていたような気がする。

 いつもは、もう一本向こうの道まで行って川を渡る。

 少し遠くなるけど、向こうの道が安全なんだ。お喋りも長くできるし。

 でも、その日は、なにか特別なことがあって、少しでも早く帰りたかった。

 川沿いをしばらく行くと、川の中で女の子が溺れているのが目に飛び込んできた。

 この寒さ、この流れの速さ、あたしが助けなければ、その子は確実に死んでいただろう。

 あたしは、パーカーの袖口、裾、首もとを絞った。短時間でも浮力を得るために。スカートは脱いだ。足にまといつくし、水を吸って重くなる。ハーパンを穿いているので恥ずかしくもない。
 川に飛び込むと、冷たいよりも痛かった。胸回りは、パーカーに溜まった空気で幾分暖かい。浮力もある。

「がんばって!」

 声を掛けると、弱々しいながら、その子は、あたしの方に顔を向けた。大丈夫、これなら助かる!
 そして、川の中程で女の子を掴まえ抱きかかえ、橋桁に掴まった。

「だれか、助けて下さい!」

 十回までは覚えている、次第に体温が奪われて意識がもうろうとしてくる。
 ああ、ダメかな……そう思って目を閉じかけると、川岸の人影が何か言いながら、スマホで……119番に電話してくれている様子。
 救急車の音がかすかにした……救急隊員の人が、女の子を確保したようだ……。

 で、気づいたら、ここにいた。

 真っ白い空間。床はないけどちゃんと立っていられる。寒くはなかった。体も無事なよう……。

 でも記憶がなかった。三叉路で曲がったところは鮮明に覚えている。でも、だれと別れたのか思い出せない。なんで、あの道を通ったのかも……なにか楽しいことが待っていたような……女の子が溺れていた。で、あたしは冬の川に飛び込んだ。女の子は助かったよう……でも、あたしは助かったんだろうか……実感がない。

 あたしは……自分の名前さえ思い出せなかった。

「余計なことをしてくれたな」

 目の前五メートルほどのところに男が現れた。周りの白に溶け込みそうな白い服で、カタチも定かではない。まるで白の中に首と手が出ているようなものだ。
「われわれは、積み木細工のように条件を組み合わせ、やっとあの子の命を取る寸前まできていたんだ。もう二度と、あの子には手が出せない」
「……悪魔なの、あなた?」
「なんとでも呼べばいい。それより下を見ろ」

 男が言うと、白い床が透き通って、はるか下にチューブだらけのあたしが機械に取り巻かれて眠っていた。

「あれ、あたし……」
「そうさ、ただ脳の大半は死んでいる。名前さえ思い出せないだろう……おれたちの仕事をダメにした報いだ。これからは時の狭間でさまようがいい!」
 恨みの籠もった声でそう言うと、男の姿は消えてしまった。床の下に見えていたあたしの姿は、どんどん遠くなり、グラリとしたかと思うと上下左右の感覚も無くなった。
 どこかへ上っていくような感じでもあるし、落ちていくような感じでもある。なにがなんだか分からない。

 ただ、どこかに連れて行かれるんだ。

「時の狭間……それって、なに? どこ? あたしは……」

 そして体の感覚が無くなり、意識も無くなった。無くなったことが全ての始まりだった……。

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