大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・イスカ 真説邪気眼電波伝・35「ブスのクラブサンドイッチ・2」

2018-02-13 14:50:57 | ノベル

イスカ 真説邪気眼電波伝・35

『ブスのクラブサンドイッチ・2』

 

 

 お、おいしい……かな? から始まった。

 

 一個目を食べて二個目に手を出すまでに、ブスは十回くらい感想をせがんだ。

 オレはグルメでもなきゃ、料理評論家でもない。美味しいものは美味しいとしか言いようがないんだけど、そんなもんじゃ許さない気迫があった。

「端っこまで具が入ってるぜ、グー!」「洒落てないで」「マヨネーズの酸味がいい」「ワインビネガーが入ってるの」「んなもん入れたらビチャビチャになるだろ?」「かき回して水分飛ばしてるの」「そうなんだ」「ハムの味がしっかりしてる」「それはボローニャソーセージ」「ボ、ボロ?」「豚肉を細かくひき肉にしたものに塩・コショウなどの調味料やピスタチオやパプリカなどと脂身が入っていて、柔らかくて美味しいのよ」「レタスがシャッキリ」「氷水で締めたから」「玉子焼きの味が……」「焼き加減と溶かしバターね」「パセリが……」「叩いて香りを出してるの!」「パンが……」「焼きたて!」

 

 これだけの会話をしながら食べてるオレも偉いと思うぜ。

 

「ブスは料理が好きなのか?」

「これだけのもの作って嫌いなわけないでしょ」

「サンドイッチの店が開けるぜ、これだけ美味しんだから」

「う……うん」

 ブスは少し言いよどんだ。あれ? と思ったけど聞けなかった。

 

 なぜって……とんでもないことに気づいたからだ。

 

「え……なんで味がしたんだ?」

「そりゃ食べたからじゃん」

「だって、これってゲームだぜ。食べる真似はできても味なんかするはずないだろ……?」

「フフ、味だけ?」

「……え? あ、あ? あ?」

 首を巡らせて驚いた。360度全てが見渡せて、景色もブスの姿も立体の3Dだ!

 オレは32インチのモニターを一メートルくらいの距離で使っているので、没入感はすごいけど、VRではない。

 そういや、風のそよぎも肌で感じるし、傍に寄ったブスの温もりも感じる。よくできたゲームは時々五感を錯覚させるが、あれは錯覚であって、こんなに生々しいものではない。

 オレの脳みそは混乱しながら思い出していた。

 ブスと出会ったころは普通のオンラインゲームだった。コーヒー飲みながらキーボド叩いていても、コーヒーもキーボードもディスプレイのこっち側のものだと認識していた……そうだ、今夜ログインしてルベルの街に来て……ブスに振り回されっぱなしだったから気が付かなかったけど、すでにVR以上のリアリティーと没入感だった。

「それはね……わたしのせいなんだけど、ま、いいじゃん。リアリティーある方がいいでしょ。さ、食べ終わったら、さっさと48層の攻略に行くわよ、迷子にならないように付いてきなさい!」

 ブスは立ち上がるとランチセットを消してスタスタと歩きはじめる。

 ここで置いてけぼりを食ったら、二度とログオフできないような気がして、我ながら情けなくもアタフタしながら赤いマントを追いかけるオレ様だった。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・ライトノベルベスト〝そして 誰かいなくなった〟

2018-02-13 06:57:26 | ライトノベルベスト

ライトノベルベスト
〝そして 誰かいなくなった〟
 


「へへ、どの面下げてやって来ちゃった!」

「キャー、恭子!」
「来てくれたのね!」
「嬉しいわ!」
 などなど、予想に反して歓待の声があがったので、あたしはホッとした。

 正直、今朝まで同窓会に行くつもりは無かった。
 あたしは、高校時代、みんなに顔向けできないようなことをしている。

 校外学習の朝、あたしは集合場所には行かずに、そのまま家出した。
 FBで知り合った男の子と、メルアドの交換をやって、話がトントン拍子に進んで家出の実行にいたるのに二か月ほどだった。

 校外学習の朝に家出するのは彼のアイデアだった。

「なに来ていこうかな~♪」
 てな感じで服を探したり、バッグに詰め込んでも親は不審には思わない。
「帰りにお茶するの」
 そう言うと、お父さんは樋口一葉を一枚くれた。同じことを兄貴に言うと一葉が二葉になった。
「行ってきまーす!」
 そして担任の新井先生には「体調が悪いので休みます」とメールを打つ。

 これで、あたしの行動は、10時間ぐらいは自由だ。

 彼は品川まで迎えに来てくれていた。それまでに、たった二回しか会ったことはなかったけど、ホームで彼の顔を見たときは涙が流れて、思わず彼の胸に飛び込んだ。携帯は、その場で捨てて、彼が用意してくれた別の携帯に替えた。

 二人揃って山梨のペンションで働くことは決めていた。でも、一日だけ彼と二人でいたくって、甲府のホテルに泊まった。ホテルのフロントで二人共通の偽の苗字。下の名前はお互いに付け合った。あたしは美保。彼は進一。なんだか、とっても前からの恋人のような気になった。部屋に入ったときは、新婚旅行のような気分だった。

 そして、その夜は新婚旅行のようにして一晩をすごした……。

 彼の正体は一カ月で分かった。

 同じペンションで働いている女の子と親しくなり、お給料が振り込まれた夜に二人はペンションから姿を消した。
 あたしはペンションのオーナーに諭されて、一カ月ぶりに家に帰った。

  捜索願は出されていたが、学校の籍は残っていた。

 学校に戻ると、細部はともかく男と駆け落ちした噂は広がっていた。表面はともかく学校の名前に泥を塗ったから、駆け落ちの憧れも含めた好奇や非難の目で見られるのは辛かったが、年が変わり三学期になると、みんな、当たり前に対応してくれるようになった。

 そして、卒業して五年ぶりに同窓会の通知が来た。

 家出の件があったので、正直ためらわれたが、夕べの彼……むろん五年前のあいつとは違うけど、ちょっとこじれて「おまえみたいなヤツ存在自体ウザイんだよ!」と言われ、急に高校の同窓生たちが懐かしくなり、飛び込みでやってきた。

 来て正解だった。昔のことは、みんな懐かしい思い出として記憶にとどめていてくれた。

「みんな、心の底じゃ恭子のこと羨ましかったのよ」
「あんな冒険、十代じゃなきゃできないもんね」
「もう、冷やかさないでよ」

 そのうち、幹事の内野さんがクビをひねっているのに気づいた。

「ウッチー、どうかした?」
 委員長をやっていた杉野さんが聞いた。
「うちのクラスって、34人だったじゃない。欠席連絡が4人、出席の子が29人。で、連絡無しの恭子が来て、30人いなきゃ勘定があわないでしょ?」
「そうね……」
「会費は恭子ももらって30人分あるんだけどね」
「だったら、いいじゃない」
「でも、ここ29人しかいないのよ」
「だれか、トイレか、タバコじゃないの?」
「だれも出入りしてないわ」
「じゃ、名前呼んで確認しようか?」
「うん、気持ち悪いから、そうしてくれる」

 で、浅野さんから始まって出席表を読み上げられた。あたしを含んで全員が返事した。

「ちゃんと全員いるじゃない」
「でも、数えて。この部屋29人しかいないから」
「え……」
「名簿、きちんと見た?」
「見たわよ、きっかり30人。集めた会費も30人分あるし」
「……もっかい、名前呼ぼう。あたし人数数えるから」

 杉野さんの提案で、もう一度名前が呼ばれた。

「うん、30人返事したわよ」
「でも、頭数は29人しかいないわよ」
「そんな……」

 今度は全員が部屋の隅に寄り、名前を呼ばれた者から、部屋の反対側に移った。

「で、あたしが入って……29人」
 内野さんが入って29人。名簿は30人。同姓の者もいないし、二度呼ばれた者もいない。

「だれか一人居なくなってる……」
 一瞬シンとなったが、すぐに明るく笑い出した。
「酔ってるのよ。あとで数え直せばいいじゃん」
 で、宴会は再び盛り上がった。

「ちょっと用足しに行ってくるわ」

 あたしは、そう言ってトイレにいった。

 で、帰ってみると、宴会場には誰もいなかった。

「あの、ここで同窓会してるN学院なんですけど……」
 係の人に聞くと、意外な答えがかえってきた。
「N学院さまのご宴会は承っておりませんが」
「ええ!?」

 ホテルの玄関まで行って「本日のご宴会」と書かれたボードを見て回った。N学院の名前は、どこにもなかった。

 それどころか、自分のワンルームマンションに戻ると、マンションごと、あたしの部屋が無くなっていた。
 スマホを出して、連絡先を出すと、出した尻から、アドレスも名前も消えていく。そして連絡先のフォルダーは空になってしまった。

「そんなばかな……」

 すると、自分の手足が透け始め、下半身と手足が無くなり、やがて体全体が消えてしまった。

 こうやって、今夜も、そして誰かいなくなった……。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする