イスカ 真説邪気眼電波伝・35
『ブスのクラブサンドイッチ・2』
お、おいしい……かな? から始まった。
一個目を食べて二個目に手を出すまでに、ブスは十回くらい感想をせがんだ。
オレはグルメでもなきゃ、料理評論家でもない。美味しいものは美味しいとしか言いようがないんだけど、そんなもんじゃ許さない気迫があった。
「端っこまで具が入ってるぜ、グー!」「洒落てないで」「マヨネーズの酸味がいい」「ワインビネガーが入ってるの」「んなもん入れたらビチャビチャになるだろ?」「かき回して水分飛ばしてるの」「そうなんだ」「ハムの味がしっかりしてる」「それはボローニャソーセージ」「ボ、ボロ?」「豚肉を細かくひき肉にしたものに塩・コショウなどの調味料やピスタチオやパプリカなどと脂身が入っていて、柔らかくて美味しいのよ」「レタスがシャッキリ」「氷水で締めたから」「玉子焼きの味が……」「焼き加減と溶かしバターね」「パセリが……」「叩いて香りを出してるの!」「パンが……」「焼きたて!」
これだけの会話をしながら食べてるオレも偉いと思うぜ。
「ブスは料理が好きなのか?」
「これだけのもの作って嫌いなわけないでしょ」
「サンドイッチの店が開けるぜ、これだけ美味しんだから」
「う……うん」
ブスは少し言いよどんだ。あれ? と思ったけど聞けなかった。
なぜって……とんでもないことに気づいたからだ。
「え……なんで味がしたんだ?」
「そりゃ食べたからじゃん」
「だって、これってゲームだぜ。食べる真似はできても味なんかするはずないだろ……?」
「フフ、味だけ?」
「……え? あ、あ? あ?」
首を巡らせて驚いた。360度全てが見渡せて、景色もブスの姿も立体の3Dだ!
オレは32インチのモニターを一メートルくらいの距離で使っているので、没入感はすごいけど、VRではない。
そういや、風のそよぎも肌で感じるし、傍に寄ったブスの温もりも感じる。よくできたゲームは時々五感を錯覚させるが、あれは錯覚であって、こんなに生々しいものではない。
オレの脳みそは混乱しながら思い出していた。
ブスと出会ったころは普通のオンラインゲームだった。コーヒー飲みながらキーボド叩いていても、コーヒーもキーボードもディスプレイのこっち側のものだと認識していた……そうだ、今夜ログインしてルベルの街に来て……ブスに振り回されっぱなしだったから気が付かなかったけど、すでにVR以上のリアリティーと没入感だった。
「それはね……わたしのせいなんだけど、ま、いいじゃん。リアリティーある方がいいでしょ。さ、食べ終わったら、さっさと48層の攻略に行くわよ、迷子にならないように付いてきなさい!」
ブスは立ち上がるとランチセットを消してスタスタと歩きはじめる。
ここで置いてけぼりを食ったら、二度とログオフできないような気がして、我ながら情けなくもアタフタしながら赤いマントを追いかけるオレ様だった。