イスカ 真説邪気眼電波伝・32
『やっと我が家に』
ハックション!!
唐突にクシャミが出ると、それがスイッチだったかのように景色が元に戻った。
切通も、その向こうに広がっていた街や海や空やも見慣れたご近所の住宅群になり、巨大な子宮のようなマトリックスも三十坪に満たない我が家に戻っていた。
「ただいま~」
家族としての最低の仁義である挨拶をするのと、廊下の左っかわのトイレの水が流れるのが同時だった。
一瞬外に出ようかと思ったけど、すでに「ただいま~」を口にしている。
怒ったような顔をして優姫がトイレから出てくる、一瞥すると「フン」と鼻を鳴らしてリビングへ。この態度の悪さは紛うかたなき我が妹。なんだかホッとする。
ホッとしてトイレのドアノブに手をかける。
この日一日の緊張が解けて、脳みそを経由することなく排尿の衝動に駆られるたのだ。
「入んなああああああああああああああああああ!」
リビングから飛び出してきて優姫が怒鳴る。
「いや、あ、すまん……」
「さっさと部屋に消えろ!」
「あ、ああ……」
ナタクソと階段を上がる、その背後でトイレのタンクに水が入る音がまだしている。少し振り返ると、上がり框のところに学校カバンと体操服の袋が行儀よく置かれている。その向こうのローファーも揃っていている。どんなに急いでいても、こいいうところは行儀がいい。ただ、自分の家に帰ったら真っ先に自分の部屋に行く奴なんで、玄関にカバンをオキッパにしていることがイレギュラーだ。
――大であったか……――
さぞ我慢していたんだろうな……換気扇は回っているようなので、五分ほどあけてから来ようと決める。
上着だけ脱いでベッドに横たわる。ベッドに癒着することはなさそうだ。
体内時計で五分カウントして起き上がりパソコンのスイッチを入れ再び階下へ。ドアを閉めるとリビングのドアが開いてパタパタと足音が頭上を上っていく。普段はウザイ妹で、妹は、それ以上にウザく思っていて、その双方のウザさがなんとも心地い。
いつも通りというのはありがたいもんだな……
用を足して二階に戻ると、パソコンのスタンバイが完了している。
オレは、悠然と『幻想神殿』のアイコンをクリックしたのだった。