イスカ 真説邪気眼電波伝・40
『イスカからのメール』
転がり落ちるようにしてベッドを下りて丸椅子に座った。
「先生呼んできた! 大丈夫!?」
オレの顔を見るなり、佐伯さんは心配げに聞いた。オレはベッドから降りる時に右の脛をしたたかに打って涙目なのだ。
「に……西田さん、顔色すこし良くなったみたい……」
「どれどれ……」
保健室の正木先生が白衣を翻してベッドのこっち側に寄ってイスカの左腕をとった。
「……打撲はしているようだけど……骨に異常はないようね」
「あ……もうだいじょうぶです」
イスカの声もしっかりしている。どうやら、オレの身を挺してのリペアが効いたようだ。
「でも、大事を取ってくれてよかったわ、打撲のショックが大きいようだから……これで汗を拭きなさい」
正木先生は、ショ-ケースみたいな滅菌箱から清潔なタオルを出して手渡した。
「北斗君、ほんとに、だいじょうぶ?」
佐伯さんが、オレのやせ我慢に気づく。
「え、あ、アハハハ……脛を打ったみたいで……」
「ん? あ、あんたも……湿布しとこうか」
「先生、わたしがやります」
「あ、そう。じゃ、お願い。わたし、担任の先生に連絡してくるから」
正木先生は職員室に向かい、佐伯さんは薬品箱から湿布と包帯を出して手当てに掛かってくれる。なんだか畏れ多いし、後ろ手は西田さんが汗を拭く衣擦れの音がする。
「佐伯さん、手際がいいね」
「去年は保健委員だったし……こういうの好きなのよ。でも、いつ打ったの?」
「あ、知らないうちに打ってたみたいで……」
イスカに抱き付いてリペアしていたとは言えない。なんだか気まずくて顔を背けると、汗を拭くためにはだけた西田さんの背中が見えてドギマギする。
その後、香奈ちゃん先生が心配な顔でやってきて、西田さんのお母さんが迎えに来ると言ったけど、イスカは、素っ気なく「ハイ」と答えただけだった。佐伯さんが心配したようにイスカの西田さんは、ちょっとおかしい。
「西田さんの鞄とかとってきます」
「じゃ、わたしは更衣室の制服を」
佐伯さんと分担して、イスカが帰れる支度にかかった。
四時間目が移動教室だったので教室には誰も居なかった。イスカの鞄を持って出ようとしたら、聞き覚えのある着信音。
「あ、俺のか」
自分の机からスマホを出すとメールが入っていた。イスカからだ。
――昨日のバトル、思いのほかきつくて、しばらく動けない。学校に来ているのは、ただのアバターの西田佐知子。敵のルシファーにも相当なダメージを与えたから当分は平穏。勉強は見てあげられないけどサボるんじゃないわよ――
読み終わると、四時間目終了のチャイムと共にメールは滲むように消えいった……。