大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・3『お屋敷街の100円自販機』

2018-02-24 06:48:10 | 小説3

高校ライトノベル
通学道中膝栗毛・3『お屋敷街の100円自販機』
        


 駅までのルートは三つある。

 遠、中、近の三種類。
 
 朝は近。


 もちろん時間の関係。遅刻ギリギリにに出ているということじゃないけど、鈴夏もあたしも余裕が無いってのは嫌だ。
 朝の寄り道とか道草って楽しくないもんね。
 ポストの所で落ち合うと、駅まではまっしぐら。

 でも、帰り道は中とか遠になる。
  
「これ発見した時は嬉しかったね」

 そう言いながら自販機に100円玉を投入。普通なら続いて10円玉を三つ入れなきゃならないんだけど、この自販機は100円ポッキリでいい。
 自販機も大型のが二台並んでいて、どちらも100円均一。
「賞味期限が迫ってるんじゃないかな?」
 最初は、そう思って、缶にプリントされている製造年月日を見たりするんだけど、そんなに古いというわけでもない。
「ま、安いんだからオッケーオッケー」
 深く考えるのはよして、遠回りの帰り道を楽しむ。

 遠回りの道はお屋敷街だ。

 あたしたちは地元民だから、このあたりがお屋敷街だということは知っている。
 中学校までは、あまり立ち入らなかった。
 あたしも鈴夏も下町人間というカテゴリーに入ると思っている。
 スカイツリーができた明くる年、ここいらをうろついたことがあった。

「固定資産税たかそー」

 鈴夏は、掛け始めた眼鏡をクイっと上げて、難しい感想を言った。
 あたしは、どのお屋敷も落ち着いた感じなのが気に入った。なんたって、どの家にも庭とか門がある。ゴルフの練習スペースのある家もあるし、ピアノの音がする家もある。うちの近所でもピアノの音はするけども、このへんは格別だ。なんで格別なのかというと……。
「音源が遠いからよ」
 鈴夏が一発で答える。
 そうなんだ、うちらへんは防音とかで小さな音になっていても壁一枚向こう。どうかすると、ピアノまでの距離は一メートルもないことがある。
 ほどよい隔たりがあると言うのはゆかしいものなんだね。

 ある時、ハナミズキがオシャレに咲いているお屋敷から、とても上手なピアノの音が漏れてきた。

 音楽の良し悪しなんてわからない二人だけど、思わず立ち止まって聞きほれてしまった。
「色が白くて髪の長い女の人だね……」
 鈴夏が言うと、あたしもそんな気がしてきた。
 しばらくすると背中に視線を感じた。
「え……」
 振り返ると、お向かいの勝手口の所でオバサンが、あたしたちを見ていた。うさんくさそーに。
「い、いこ」
 鈴夏の袖をつまんで、その場を離れた。

 ご町内で小学生の泥棒でも入ったんじゃないかと思うくらいの人の目があった。前からあって、あたしたちが気づかないだけだったのかもしれない。それを最後に足を踏み入れなかった。
 そんなお屋敷町、今は平気だ。
 高校に入って、気づいたら足を踏み入れていた。下校途中にペチャクチャ喋っていたら、このお屋敷街だったのだ。

「人の目がしないね」

 そう、人の気配は感じるんだけど棘が無い。
 今は深く考えることも無く、100円自販機につられて散策するようになったんだよね。
「それはね……」
 そう言いかけて、鈴夏は100%果汁を飲み干す。
「ま、いいじゃん」
 自販機の傍にゴミ箱がないので、空の缶を握りながら歩くのでした。
 
 

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高校ライトノベル・新 時かける少女・6〈那覇中央高校〉

2018-02-24 06:39:53 | 時かける少女

新 かける少女・5
〈那覇中央高校〉
 



 沖縄に越してからの一カ月は、あっという間に過ぎた。

 官舎は、今度の南西方面遊撃特化連隊の創設に合わせて作られた新築で、新しいというだけで嬉しくなった。ただ長崎に居るときとは違って、官舎なので他の隊員の人と同じく3LDK。まあ、お父さんは連隊長で、ほとんど石垣島に貼り付きなので、うちの家族は、お母さんと弟の三人家族のようなもの、そう手狭には感じない。

 フェリーでの出来事は、今では夢か現実か分からなくなっていた。運転手さんや助手の宇土さんが変わったのは会社の都合で、いっしょにフェリーに乗っていた他の隊員さんのところでも似たようなものだった。唯一の物理的な証拠であるお守り袋の穴も、官舎に入ったころには塞がっていた。で、忙しさもあって、あたしはほとんど忘れかけていた。

 いや、忘れようとしていた。あたしが総理大臣の隠し子……ぶっとんだ話だけど、心に刺さっている。

 学校は、那覇中央高校への転入になった。

 隊員の家族には、二十人ほどの高校生がいたけど、学力に応じて中央高校と東高校に振り分けられた。他の高校に行った者はいない。中学と小学校、幼稚園は、みんな同じところにいれられた。みんな同じ官舎にいるんだから、当たり前のように思えたけど、セキュリティーの問題があると、高校生ぐらいになると分かっていた。南西方面遊撃特化連隊というのは、それほど日本の安全保障には重要な部隊なんだ。

「ゲ、体重計に目隠しがない!」

 発育測定で、ぶったまげた。今まで行った学校では、発育測定の時は測定する先生の側だけ見えるようになっていて、本人にも周りのクラスメートにも見えないようになっていた。ところが、中央高校では平気で一般公開だ。

「みーかー、また増えてるよ!」
「あーねー変わらんねえ!」
 などとやっている。ちなみに「みーかー」は美加のこと「アーネー」は茜のこと。名前の呼び方が独特。
「へえ、あーいーは50キロ。やっぱヤマトンチューの子はスマートやね!」
 測定の先生までが、平気で言う。でも、小林じゃなく、みんなと同じように「あーいー」と呼ばれるのは嬉しい。

「エリーは、食うとるんか?」

 あたしの次の、比嘉恵里が言われている。恵里は漢字で書くと「恵里」だけど、読みは「エリー」だ。
 他の子が、方言で「みーかー」や「あーねー」になっているようなんじゃなくて、元々の読みがエリーなのだ。いわゆるハーフで、お父さんがアメリカ人。ビックリするほど可愛いんだけど、本人も周りも全然意識していない。で、出席番号が隣りなんで、すぐに仲良しになってしまった。

 ちなみに、エリーは大食いだ。何度も学校の帰りにファストフードの店になんかいくけど、あたしがMのところなら、LとかLLとかを食べている。

「いいねえ、エリーは太らなくて」
「ハハ、お父さんなんか『エリーはフィシーズメーカー』だって言うよ」
「フィ……なにそれ?」
「ウンコ製造機!」
 さすがに、店の人まで笑ったが、あくまでも明るい。本人もハンバーガーを持ったまま大口で笑っている。

 あたしは、この明るさが大好きになった。

 笑いながらお店を出ると、曲がり角からバイクがやってきて、危うく跳ねられそうになった。エリーは一瞬早く気づいて、あたしを抱えて地面を転がった。

「しなさりんど!」

 エリーは、バイクのアンチャンに悪態をついた。アンチャンは一瞬ムッとしたが、直ぐに照れた顔で、こう言った。
「ガチマヤーのエリーには、かなわんね!」
 で、二人は大笑いしておしまい。
「あの、今の翻訳してくれる?」
「あ、『しなりさりんど!』は『シバキ倒すぞ!』で『ガチマヤー』ってのは『大飯食い』てな意味」
 そう説明をうけたころ、周囲はごく当たり前の日常に戻っていた。

 那覇中央高校での生活は、驚きと発見のうちに楽しく始まった。

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