イスカ 真説邪気眼電波伝・25
『中庭のバトル・2』
ア……腕(かいな)の中で佐伯さんが小さく叫んだ。
つられて、そっちに目をやる……イスカが制服をはためかせ、仁王立ちになってモンスターに対峙している!
ユーチューブでチラ見した『キングコング』を連想した。
むろんキングコングはモンスターだ。あんなに貧弱な三宅先生が、こんなモンスターになるなんて、変身するところをマザマザと見ていなければ信じられない。絵としてイスカはキングコングに助けられる美女という塩梅……そう感じた瞬間イスカは跳び上がり、モンスターの頭を跳躍台にして後ろに回り込んだ。オレが感じた背中の衝撃は、いまみたいにオレの背中を跳躍台にした時のショックだったんだと合点がいく。
モンスターには、一瞬でイスカが消えたように見えたようで、マスクメロンのようにただれた体を振り回して探している。
「一寸法師みたい」
佐伯さんが呟くが、オレには分かる。イスカは跳躍しながらチャージしているんだ。
本来なら、オレがくっ付いてジェネレーターになってやらなければならないんだけど、佐伯さんを庇っているのでできないんだ。
「フォールンエンジェルブロウ!」
イスカが、そう叫んで最初の一撃を食らわすまでに、イスカは五回跳躍した。瞬間モンスターはのけ反るがすぐに回復。ネトゲのようにHPバーが見えるとしたら、やっと七パーセントほどのダメージを与えたのに過ぎないだろう。オレの乏しいバトル経験でも、そのくらいのことは分かる。
モンスターも元々は優男の三宅先生なので、翻弄されているだけでもダメージはあるようで息が荒くなってきている。
「フォールンエンジェルパーーンチ!」「フォールンエンジェルキーーーック!」「フォールンエンジェルチョーーーップ!!」
ノックダウンさせるのに、プラス三つの技を決めるイスカだったが、その間チャージのための跳躍を十回以上やるので決め技の割には時間がかかった。
グギャオーーーーーーーーン…………!
断末魔の叫びをあげモンスターが消滅するのを見届けて、やっとイスカは俺たちの前に降り立った。
「西田さん……」
佐伯さんが心配そうに声をかける。イスカは朝礼でぶっ倒れる寸前の低血圧の子のように見えた。
「ちょっと来て……」
それだけ言うと、イスカはフラフラと校舎の陰に向かう。
「イ……西田さん!」
危うく真名を言いそうになって後を追う。
「フグッ」
中央花壇まで来た時、イスカはオレを引っ張って大蘇鉄の陰にオレを引きずり込んだ。
「待てない!」
手足を絡めながらイスカは抱き付いてきた。反動でタタラを踏みながらも姿勢を崩さない。先週までのオレなら蹴飛ばして逃げるだろう。だが、これは堕天使イスカの緊急チャージだということが分かっているので、声を出さないようにして持ちこたえる。
「……西田さん? 北斗君?」
二分ほどもたっただろうか、佐伯さんが心配そうに近づいてくる。
「ヤ、ヤバイ、ここまでだ!」
イスカを突き放す。大蘇鉄の左右から出てきたオレたちは、服装が乱れ赤く上気している……これって誤解されるよなあ。
「あ、え、えと……」
案の定、佐伯さんはモジモジして俯いてしまった……。