大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・イスカ 真説邪気眼電波伝・42「万事休す!」

2018-02-20 16:53:50 | ノベル

イスカ 真説邪気眼電波伝・42

『万事休す!』

 

 

 玄関とトイレのドアが開くのが同時だった。

 

 そして、トイレから出てきた優姫が息をのんで目を丸くした。トイレからはくぐもった流水の音が響いている。

 こないだと同じパターンなので、また一悶着あるかとヒヤッとする。水音の猛々しさと長さから大きい方であると推測されるのだ。

 しかし、今日の優姫は鼻を鳴らして不貞腐れることはしない。それどころか、大文字のDを丸い方を上にして横倒しにしたような目になって、母親譲りの愛想笑いをするではないか!

 前回と違う豹変ぶりには理由がある。

 オレの後ろには、学校で三本の指には入る美人の佐伯さんが控えているのだ。

「お邪魔します、わたし、北斗君と同じクラスの佐伯といいます。いっしょに勉強することになって、前触れもなくすみません」

「いいえ、不甲斐ない兄ですけど、よろしくお願いします! ト、トイレ掃除の途中なので、あ、あとでお茶とかお持ちしますね!」

 佐伯さんの「あ、おかまいなく」も聞かずにトイレに引き返す愚妹、ハハハ、掃除はこまめにやってくれるんだ……とフォローしておく。

 学習塾のCMに「分かった!」「じゃ、分かったら説明してごらん!」という生徒と講師の掛け合いがあった。本当に理解できるというのは、人に筋道を立てて説明できることだとオレも頷いたもんだ。ただ、なんで塾の講師がバク転とか鞍馬をしているのかは理解に苦しんだが。

 佐伯さんは、そのCM真っ青というくらいに教えるのが上手い。

 イスカの西田さんもなかなかだったんだけど、佐伯さんは胸時めかせながら教えてくれる。オレの横、丸椅子に腰掛け「どれどれ……」という感じで三十センチまで接近、肩なんか、時々触れてしまうんだ。体温は感じるし、シャンプーの香りはするし、ここはね……とか、そうそう……とか言うたびに、いい匂いがする。

「あの……もしもし」と数回注意されたけど、え、あ、うん、ゴメン……と答えるたびにコロコロ笑う佐伯さん。

 佐伯さんと言うのは、オレみたいなパンピー男子にとってはチョー高嶺の花で、高嶺の花というのは文字通りの花、それも遠くから眺めるだけの富士の高嶺にこそ咲く花。せいぜい五合目あたりから気配を感じるだけでありがたい。それが、こんな息のかかる距離で……オーーー、いま、ノートを覗き込もうとした佐伯さんの髪がハラリと頬っぺたに掛かって百万ボルトの電気が流れた。

 あやうく気絶してしまいそうになったとき愚妹の優姫がお茶を持ってくる、お菓子を持ってくる。暖房の具合を聞いてくる。

 ありがとうとコノヤローを等量に感じる。

「はい、きょうはこんなところかな」

 佐伯さんが、明るく爽やかに終了を宣言した時、スリープにしていたパソコンの画面が点いた。ヤバイ、幻想神殿のタイトルがパチンコ屋のディスプレーのようにデモを流し始めたではないか!

「うわー、きれいな動画!」

 万事休す! 佐伯さんが淹れ直したお茶をすすりながら興味を持ってしまった!

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・新 時かける少女・2〈美奈子との惜別〉

2018-02-20 07:06:16 | 時かける少女

新 かける少女・2
〈美奈子との惜別〉 



「愛ちゃん……愛ちゃん……」

 その声が近づいてきて目が覚めた。
 バカな話だけど、一瞬、ここは誰? わたしは、どこ? になってしまった。
「ハハ、ホッペに畳の跡が付いてるよ!」
「え、ほんと!?」

 荷物はほとんど片づけたので、あたしはベランダのガラス戸に顔を映してみた。

「あら、やだ。ちょっとハズイね。あたしトラックの助手席に乗るのに……これじゃ、運転手さんから丸見えだ」
「まあ、お婆さんじゃないんだから、十分もすれば消えるわよ」
「そっかなあ……」
 あたしは、ホッペを揉んでみた。
「大丈夫だって」
「だよね……」
「寂しくなるね……」

 縁側に腰掛けながら、美奈子が言った。

「主語が不明ね。あたしが? 美奈子が?」
「両方よ、日本語の機微が分からないんだから」
「でも、せめてお互いにぐらい言ってよ」
「……これ、お別れのしるし。さよならじゃないからね」
「うん、お互い親が、こんな仕事だから、どこ行くかわかんないもん。また、どこかであえるっしょ」
「ハハ、北海道弁が混じってる」
「ハハ、一番長かったからね……お、お守りだ」
「かさばらないものって、それで心のこもったもの。で、これになった」
「お、護国神社……遠かったんじゃない?」
「朝の一番に、自転車で行ってきた。運動兼ねてね。事情言ったら宮司さんが特別なのくれた。重いよ」

 手のひらに載せられたそれは、予想の三倍ぐらい重かった。

「なんだろ、これ、普通のお守りの三倍は重いよ」
「ばか、開けて見るんじゃないわよ」
「ヘヘ、好奇心だけは旺盛だから」

 そのとき、玄関でお母さんの声がした。

「愛、そろそろ出るよ……あ、美奈子ちゃん、見送りにきてくれたの?」
「ええ、この官舎で、東京からいっしょなのは愛ちゃんだけでしたから」
「そうね、今度の移動がなかったら、中学高校といっしょに卒業できたかもしれないわね」
「それを言っちゃあいけません、小林連隊長夫人」
「そうよね、そういうの承知でいっしょになったんだもんね」

「奥さん、そろそろ……」

 玄関から、運送屋さんが呼んだ。

「はい、いま行きます!」

 玄関に回ると、大きな4トントラックと、お母さんのパッソが親子のように並んでいた。

「じゃ、お母さんたち、ご近所にご挨拶してから出るから」
「うん、じゃ、お先」
「ごめんね、お姉ちゃん。トラックに乗せて」
 進が、済まなさそうに言った。進は人見知りってか、そういう年頃なので、見知らぬ運送屋のオニイサンとたちといっしょにトラックに乗るのを嫌がっていた。
「いいよ、姉ちゃん、大きい自動車好きだから」
「今のトラックは快適ですから、大丈夫ですよ」

 そして、あたしは、4トンの助手席に収まった。

 自衛隊の幹部の家族は全国を回らされる。うちのお父さんは一佐になって、すぐに連隊長になった。
 陸上自衛隊、南西方面遊撃特化連隊……分かり易く言うと、日本版海兵隊。
 本土での訓練が終わり、石垣島に駐屯する。ただし、安全の確保と危機の分散のため、家族は沖縄本島の官舎に入ることになっている。

 長崎から一泊二日の小旅行だ。

 トラックが動き出し、お母さんやみんなが小さくなっていく。美奈子ちゃんが追いかけて手を振っている。涙が出てきた……そして、美奈子ちゃんから、なにかを引き継いだような気がした。

「畳の上で寝てたでしょ?」
 真ん中の席に座った助手の女の人がバックミラーごしに言った。
「え……まだ残ってます?」
 サイドミラーに映したホッペは、ほんのり赤いだけだ、畳の目まではついていない。
「シチュエーション考えたら、畳の上。だって、テーブルもベッドもないんだから。でしょ?」

 なかなか洞察力のある人だ。横を向くと人なつっこい笑顔が返ってきた……。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする