イスカ 真説邪気眼電波伝・28
『三宅先生の突然死』
本館二階の職員室はこんな具合だ。
独立した準備室を持たない、国語・英語・数学の三教科の先生たちと教務の先生たちの島が四つあり、真ん中に教頭先生のデスク。これが職員室の中核で、それを挟むようにしてパーテーションで区切られた情報処理のコーナーと、作業用の共同の長テーブルがある。
長テーブルの向こうには隣接して放送室と印刷室と給湯室があって、長テーブルは印刷物の仕分けや小会議に使われるほかは、先生たちの休憩コーナーになっている。
その長テーブルに突っ伏すようにして三宅先生は亡くなっていた。
「寝ていらっしゃるんだと思いました」
第一発見者である数学の野崎先生の弁……て、おかしいだろ!?
三宅先生は、佐伯さんが様子を見に行った直後に職員室に移動し、発見されるまでの四時間、ずっと職員室に居た。
印刷室に入ろうとした野崎先生が突っ伏している三宅先生の椅子をひっかけ、先生は、そのまま床に倒れ伏してしまった。「こんなとこで寝てちゃ風邪ひきますよ……」と声をかけて、そのまま印刷室へ。
いつまでたっても起き上がらない先生をおかしいと思った、わが担任の香奈ちゃんが起こしに行って「キャー!救急車!」ということになったらしい。
警察が来て、死後四時間と判断された。
「わ、わたしじゃないですよ! わたしは引っかかっただけで、ちゃんと『こんなとこで寝てちゃ風邪ひきますよ』って声もかけたし!」
野崎先生はブンブン手を振って、厄払いするように否定した。
「それは分かってます。でも、なぜ助け起こさなかったんですか? 居ねむっているのと亡くなっているのとでは違うと思うんですが」
「い、いや、だって、わたしが引っかけた時は、もう死後四時間だったんでしょうが!」
警察の質問にワタワタするばかりの野崎先生だ。
「すみません、背中合わせだとは言え、すぐ近くに居たのに気付かなくって……」
香奈ちゃん先生は、大変ショックを受けた様子で、消えてしまいそうに肩を震わせていた。
この学校はおかしい! いかれてる!
オレと佐伯さんはため息をつきながら職員室を後にして階段を下りる。イスカは無言だ。
同僚が、すぐ近くで突然死し、死後硬直が始まるまで気づかないって、この学校の先生たちはどんな神経してるんだ?
こんなんじゃ、普段からの生徒の異変やらシグナルに気づけるわけないよ。イジメとか問題行動がほとんどない学校だけど、なんだか背筋が寒くなる。オレみたいな奴が、とりたてて文句言われたり指導されたりってことがないのは、寛容な学校だと思っていたけど、それは単なる鈍感とか無関心というカテゴリーの問題だったのか?
いろいろ思いながら校門を出たところでイスカが言う。
「パラレルは三宅先生だったんだ」
「「え?」」
「意地悪な三宅先生はルシファーに浸食されてモンスターになって、わたしたちにやっつけられ、それを埋めるようにしてパラレルワールドから別の三宅先生が、本人も気づかないうちに移動したんだ」
「え? でも、パラレルから移動してきたとしても、なんで死んじゃうの?」
「空気が合わないのよ。こちらの世界では、先生というのは……」
イスカは言葉を濁したけど、さっきの職員室の様子から察せられる。オレ一人だけだったら口汚く学校やら先生やらの悪口を言うところだろうが、すぐ横を歩いている佐伯さんは、そんな言葉を言わせない雰囲気がある。
「佐伯さん」
三人が分かれる三叉路まで来たところで、イスカが声をかけた。
「はい?」
「あなたも清い人だから、魔法をかけておくわ」
「魔法?」
「うん、三宅先生みたいに突然死しない魔法……」
イスカは、ごく小さな声で呪文を唱え始めた……。