イスカ 真説邪気眼電波伝・33
『第48層 始まりの街ルベル』
赤マントが恥ずかしい……。
オンラインゲームというのは、そのモチーフのほとんどが中世ヨーロッパにある。
中世ヨーロッパは、魔法とか妖精とか錬金術とかが普通に存在している。種族も人間だけでなく、ドアーフやエルフ、ニンフ、トロルやゴーレムなんぞが多種多様に存在している。
ゲームを始める前に、そういう世界観の基礎というかデフォルトがプレイヤーの知識と憧れの中にある。だから誰でも違和感なく没入できる仕掛になっている。
当然、風俗も中世ヨーロッパ風で、刃物もダガーとかレイピアとかソードとかヨーロッパ風。鎧も粗末なレザーアーマーから、錬金術師が鍛えたメタルアーマーまで、一見すればコストやスペックの見当が付く。
目に見えて違うところと言えば女性キャラのコスの露出度が高いこと。トーガやスカートは膝上というよりは股下表記の方が早いミニばっか。アーマーも胸が強調されて、体のラインもヒョウタンか! と言いたくなるほどの凹凸だ。外国にライセンスされる時は、そういう風俗的なところは変えてあるという話だ。
それで、赤マント。
中世ヨーロッパというのはロクな染色技術がなかったので、原色の衣類というのはめったにない。赤・黄・青の原色でも、どこかくすんでいる。原色を気楽に使えるのは王侯貴族の一部だった。そういうことを、なんとなく常識として知っているので、コスに原色を使う奴はめったにいない。せいぜいチュニックやアーマーの一部にワンポイントとして使うのが常識だ。
それが、オレとブスは教室のカーテンほどの大きさの赤マントだ!
通りすがりのプレイヤーたちが一様に目を見張る。いや、NPCのキャラでさえ「ホー」とか「ウワー」とかの声を上げやがる。
でも、ま、これは愚痴な。
オレの前をルンルンで闊歩しているブスには言えない。そういう性格なんだから仕方がない。
48層の始まりはルベルという大きな街だ。
どうやら名実ともに100層あるゲームの中間にあたり、プレイヤーたちは、まとめて買い物をしたり、足りないスキルに磨きをかけたり、ギルドのメンバーを募ったりしている。
街の南側には先月のバージョンアップで実装された別荘地があり、それ相応の課金をすれば三十坪ほどのコテージから皇居ぐらいのお城まで手に入り、攻略疲れしたプレイヤーたちが長期滞在している。近々、隣接するヒルにカジノも作られるという噂だ。
オレもふんだんに課金が出来るものなら、百坪ほど買って住み着いてみたいと思う。
「ねえ、あのヒルで待っててくれる」
「なんだよ?」
オレは、一刻も早くルベルの街を出たい。さもなければ手ごろな空き家を見つけて寝っ転がりたい。それほどに赤マントは恥ずかしい。
「ちょっとね、やってみたいことがあるの🎵」
女が🎵マークを出して喜んでいる時に水を差してはいけない。オレの十六年間の人生で会得した教訓だ。
「あ、ああ、じゃ、待ってるよ」
「んじゃね♪」
赤マントをチョウチョのように翻して駆けていくブスは可愛かった。
オレに絡んでさえ来なかったら、見ている分には……と思った。
48層、始りの街ルベルは春風が木々をそよがせる午前九時だった……。