大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・アーケード・2《七人の幼なじみ》

2018-02-26 16:40:30 | 小説

・2
《七人の幼なじみ》



 江戸の昔、相賀は八万石の城下町で戦国時代から続く相賀氏が治めていた。

 相賀氏は尚武の気風高く、空高くなる秋に家臣打ち揃い相賀原で馬揃(うまぞろえ)をやることが慣わしになっていた。

 馬揃とは、家臣一同が家伝の鎧兜に身を固め騎乗行進し、お城で藩主の閲兵を受け、閲兵の後は騎乗のまま相賀八幡に参拝。お家と天下の弥栄(いやさか)を祈念した後、相賀原で勇壮に旗絡(はたからめ)を競い合う。
 旗絡とは、相賀八幡の御神旗を花火のように打ち上げ、騎乗の鎧武者たちが、落下してくる御神旗を競い合って馬の鞭で絡めとるという合戦さながらの祭りで、県の重要無形文化財にもなっている。
 相賀の若者は、18歳前後で鎧の着用を許され、許された日には家伝の鎧兜を身に着けてお城まで早駆けすることになっていた。これを具足駆けといい、相賀の街では男子の成人式のようになっていた。

 主人公の岩見甲は、一昨日具足駆けを果たし、商店街の幼なじみ達から具足祝いをしてもらうことになった。

「やっぱ、鎧屋の具足は違うねえ」

 料理を配膳しながらマスターのお祖父ちゃんが賞賛する。カウンターの上には50インチのモニターが甲の具足駆けを写している。
「いやあ、実質は商売もの検品ですよ。たまたまオレのサイズだったんで、親父のアイデアで具足駆けにしちゃったんです。秋の馬揃には、みんなといっしょにやりますよ」
 21世紀の今日、交通事情や経費安全性などの観点から個人で具足けは廃れてしまい、秋の馬揃の前夜祭的に有志の若者たちでイベントとして行われる。具足もレンタルで、お城の大手門から本丸まで駆けるだけである。

「今年からは、鎧じゃなくてコスプレとかでもいいそうね」
「女子にはヨロイ重いもんね」
 花屋のあやめが芽衣といっしょに料理を取り分ける。
「ぜったいコスプレの方がいいよ。あたしももクロのコスがいい!」
「鎧屋の娘が、そんなこと言っていいのかあ」
 こざねの発言を肉屋の遼太郎が咎める。
「まあ、コスプレが出てきても鎧武者は廃れないわよ。伝統行事だもん」
「うんうん」
 靴屋の文香と家具屋のみなみがフォローする。

「みんな見てごらんよ」
 お祖父ちゃんがモニターの動画を停めた。

「こうちゃん、いい武者っぷりじゃないか」
「そうね、停止にしてもさまになってるっていいよね」
 孫の芽衣が賛同する。
「甲は体育のランニングじゃイマイチなのにな」
「こうちゃん、やっぱり腰なのかい?」
「はい、腰を落として、あまり大股で走らないことです。長距離は、それでなきゃもちませんから」
「なるほどねえ」
「みんな、お料理とカップ行き渡った?」
「ああ、いいんじゃないか。芽衣、そのまま乾杯の音頭とってくれよ」
「え、あたしでいいの?」
「立ってるからついで」
「む~、ついでってね……」
「いいじゃないか芽衣」
 お祖父ちゃんの賛同に、みんなも倣う。
「それじゃあ、こうちゃんの具足駆けを祝って……」

 その時、喫茶ロンドンのドアベルがカランコロンと鳴った。

「遅れてごめん、急に月参り入っちゃって!」
「あ、はなちゃん忘れてた!」
「もう、忘れてたはないでしょ」

 衣姿の花子は、ごく自然に上座の甲の向かいに座った。みんなと同い年の女子高生にも関わらず西慶寺の花子には僧侶としての貫禄があった。

「じゃ、もっかいいくわね!」

 鎧屋岩見甲の具足祝いは、幼なじみ6人と妹に囲まれて賑やかに始まった。

 相賀の春は、白虎通り商店街でたけなわになろうとしていた……。
 
 


※ アーケード(白虎通り商店街の幼なじみたち) アーケードの西側からの順 こざねを除いて同い年

 岩見   甲(こうちゃん)    鎧屋の息子 甲冑師岩見甲太郎の息子

 岩見 こざね(こざねちゃん)   鎧屋の娘 甲の妹

 沓脱  文香(ふーちゃん)    近江屋靴店の娘

 室井 遼太郎(りょうちゃん)   室井精肉店の息子

 百地  芽衣(めいちゃん)    喫茶ロンドンの孫娘

 上野 みなみ(みーちゃん)    上野家具店の娘

 咲花 あやめ(あーちゃん)    フラワーショップ花の娘

 藤谷  花子(はなちゃん)    西慶寺の娘

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・5『近ルートは刺激的』

2018-02-26 06:40:55 | 小説3

高校ライトノベル
通学道中膝栗毛・5『近ルートは刺激的』
        


 ときどき鈴夏と目配せをする。

 なんの目配せかというと――今日は近ルートで行こう!――という合図。
 なんでこうなるかというと、どちらかが待ち合わせの時間に遅れて近ルートでなきゃ間に合わなくなった時。
 親しき中にも礼儀ありなんで、目配せのあとは「ごめん」と「ドンマイ」をやりとりする。

 近ルートはブッチャケ斜めコースなんだ。

 斜めと言っても、駅まで斜めの道があるわけじゃない。

 斜めに行けるのは公園とコンビニの駐車場と神社の境内。この三つを有効に使うのには、地元民ならではの土地勘がなくてはならない。
 お地蔵さんの裏側に幅一メートルほどの路地があることや、養楽園という介護施設の横っちょが商店街に繋がっていることなどを熟知していなければならない。神社の境内を通る時は走ってはいけないし、拝殿の前では瞬間だけど、立ち止まって神さまに頭を下げる。
 それから養楽園のお年寄りと目が合った時は、ニッコリして軽く頭を下げる。お年寄りの中には、このニッコリ会釈を楽しみにしている人もいるので、敷地を通ることを黙認してもらっている。朝、あたしたちと会釈をかわすと、その日は一日元気でいられたり、いいことがあるというジンクスまであるそうだ。きっとあたしたちが、制服をビシッときめていることが大きいと思う。いいかげんなナリだと、もうとっくにお出入り禁止になっていただろう。

 今日は年が明けて初めての近ルート。

「ごめん」と「ドンマイ」を合言葉みたくして、歩幅を5センチ長くして歩き出した。

 コンビニの駐車場に入ったところで「コラー!」という声が聞こえた。
 一瞬斜め横断を叱られたのかとギクッとしたが、お爺さんがレジ袋振り回し、高校生の二人乗り自転車追いかけているのを見て――これは事件だ!――と理解した。
 お爺さんは、自転車の鍵をかけないで買い物をしたんだ。忘れていたのか、ほんのちょっとだからと思ってのことなのかは分からない。
 お爺さんは、少し足が悪いようで、走って追いかけることができないようだ。
「栞」
「うん」
「「待てー自転車泥棒!」」
 あたしたちは二人乗りを追いかけた。
 まさか、駐車場の斜め向こうから人が現れて追いかけてくるとは思わなかったんだろう、ハンドルを握っている方が立漕ぎになってスピードを上げ始めた。

 グゥアッシャン!

「「うそ!」」

 なんと自転車のフレームが真ん中から折れて、自転車泥棒二人は前のめりに道路に投げ出された。
「イテー!」
「イタイイタイ!」

 立漕ぎは顔から落ちて、鼻からドバドバと血を流している。もう一人は左手の肘から先が変な方向に曲がっている、たぶん骨折。
「あら、可愛そう……」
「いま電話してあげるから」
「た、頼むよ救急車ぁ~」
 鈴夏は、スマホを出してタッチし始める。
――事件ですか? 事故ですか?――スマホのむこうで声がしている。
「ふたり怪我してますけど、命には別条ないようです。自転車泥棒なんでパトカーに来てもらってください」
「お、おい」
「頼むよおおおおおお」

 パトカーと救急車が同時に来た。

「お爺さんが乗ってる時でなくてよかったですね」
 鈴夏は、優しい笑顔でお爺さんを労わった。
「お爺さん、自転車は、すこし高くてもJIS規格にあったのにした方がいいですよ。最近は乗ってる時に急に壊れてしまう自爆自転車の事故が多いからね」
 お巡りさんが、優しく意見する。
 自爆自転車とはうまく言ったもんだと感心。

 で、二人そろって遅刻してしまったのでした。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・新 時かける少女・8〈オスプレイ緊急試乗〉

2018-02-26 06:35:34 | 時かける少女

新 かける少女・8
〈オスプレイ緊急試乗〉
 



「じゃあ、一発乗って確かめてみるか!」

 エリ-の提案は、なかなか実現しなかった。あたりまえっちゃ、あたりまえ。あんなのに簡単に試乗できるわけがない。

 大きなのと小さなのと、二つの気がかりがあった。

 大きな気がかりは、那覇に来るときの宇土さん。この人は正体不明だけど、あたしの命を狙っていた。そして、海に飛び込む寸前に言った言葉「……それは、愛ちゃんが総理大臣の娘だからよ」
 あたしを守ってくれた運転手さんは「あれは、注意をそらすためのブラフだよ」って言った。その通りの状況だったけど。あたしが南方方面遊撃特殊部隊の連隊長の娘であっても大げさなんじゃ……という気がする。

 小さな気がかりは、あたしの真似をする子が出てきたこと。

 あたしは、長崎の前は東京に長くいた。だから、言葉や、なんとなくの雰囲気に東京の匂いがするらしい。スカートの丈は、みんなより微妙に長い。ブラウスの第一ボタンは外すけど、リボンは、そんなにルーズにはしない。俯いたときに人から胸の谷間が見えないための工夫。で、前髪は少し切っておでこの前でヒラヒラさせている。これは、単に暑いから。汗でおでこに前髪が貼り付くのヤだもん。ブラウスの袖は七分にまくり上げる。暑い戸外と冷房の効いた教室の両方に間に合うようとの合理性だけ。

 でも、二組の愛はイケテルってウワサになった。

 あたしはブスってほどじゃないけど、特別可愛くもない。東京弁を喋ることと、単に東京の子というだけのこと。連休明けになると、あたしが見ても驚くようなそっくりな子が現れ始めた。

「フフ、あの子も愛のこと真似してる」

 エリーが、電柱一本分前を歩いている子を見て言った。あたしは、暑さに耐えきれず、髪をアップにしてお団子にしていた。
 その時、一台のスモークを張ったクーペが静かにあたし達の横を通った……と、思う間もなくアクセルをふかし急加速して、前を歩いていた、あたしのソックリさんを跳ね上げた!
 その子は悲鳴を上げる間もなく十メートルほど跳ねられ、歩道に落ちて二回転ほどして動かなくなった。クーペは一目散に逃げていった。

 道路はパニック状態になった。

「愛、ヤバイ!」
 エリーに突き飛ばされると、あたしのすぐ横をナイフを腰ダメにした男子生徒が走り抜けていった。
「チ」と、舌打ちをすると、その男子生徒は器用にナイフをしまい込むと、生徒達の群れの中に溶け込んでしまった。
 歩道に転がった子の頭からは、どんどん血が流れて、あたりを血の池にしていた。
「なんとかしてあげなくっちゃ!」
「なんとかしなきゃならないのは、あんたよ。こっち来て!」

 エリーは、大通りまであたしを引っ張っていくと、生徒手帳を振りかざして、通り合わせた米軍の四駆を停めた。そして流ちょうな英語で二言ほど喋ると、四駆の後ろのドアが開き、エリーはあたしを押し込んだ。

 四駆は、猛スピードで走り始め、その間、あたしはエリーに覆い被されてシートに貼り付いていた。

 止まったのは米軍基地のゲートの前。運ちゃんと門衛の兵隊さんが言葉を交わすと、車は基地の奥深くに入っていった。
 
「さあ、オスプレイの試乗をするわよ!」

 エリーは、そう言うと裸になって、米軍の戦闘服に着替え始めた。
「ボーっとしてないで、愛も着替えるの!」
 特殊な服なので、ノロノロ着替えていると、同じような体格の女性兵士が、リカちゃん人形のように着替えさせてくれて、あろうことか、あたしの制服を着だした。

「あの、これって……」

 二機のオスプレイが待機していた。両方に八人ほどの米兵が乗り込み、あたしたちも、その中に紛れた。

 驚いたことに、エリ-とあたしの制服を着たソックリさんが、それぞれのオスプレイに乗り込んだ。

 そして、二機のオスプレイは、どこともなく飛び立ち始めた……。
 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする