大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!・1『ブチッ』

2019-01-07 06:45:23 | ノベル2

 🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!・1

『ブチッ』

 ブチッと舌打ちするような音がした。

「あ~………………」
 ブレザーの前ボタンが千切れて飛んでしまっていた。
 
 いつものように身支度をして、身体を横にして部屋から出ようとしていた。
 先週までならギリギリ通れていた。
 ドアそのものには余裕があるけど、ドアの直ぐそばまで本棚がきているので、実質の出入り口の幅は40センチ余りしかない。
 で、本棚の隙間にボタンが引っかかって千切れてしまったのだ。

「え~と……あった!」

 ボタンはベッドの上に落ちていた。ボタンを拾い、階段を下りてリビングへ。
「オフクロ、また取れた」
「え~、また太ったんじゃないの?」
「んなことないよ、108キロだし」
「もう、ブレザー脱いで、ボタンもかして」
「ん……」
 嫌々そうではあるけど、オフクロは、慣れた手つきでボタンを付けにかかる。
「やだ、生地に穴が開いちゃってる……」
「え、ほんと?」
 他人事のように言いながら、冷凍庫からナポリタンの大盛りを出してレンジに放り込む。
「当て布しなきゃ縫えないよ……」
「いっそ新しいの買ってくれない? まだ一年あるし」
「これだって三着目よ。もう、身体の方を合わせなさい」
「いやあ、育ちざかりだしなあ……」
「110キロにもなってるのは、育ちざかりとは言わないの」
「だからあ、108キロだって」
「いや、110キロ!」
「108!」
「だったら、そのヘルスメーターで測ってごらんなさい!」
「いや、だからあ」
「論より証拠!」
 裁縫の手を休め、オフクロはデジタルヘルスメーターをオレの前に置く。まるでキリシタンの踏み絵だ。
「もう……」
「どれどれ……あ、やっぱし!」
 ヘルスメーターの数字は無情にも110キロを指している。
「あ、今朝はまだトイレ行ってないから」
「まだ、ナポリタンの大盛りも食べてないし……」

 で、10分後、ナポリタンの大盛りだけを食べ(いつもなら、これに焼きおにぎりが2個つく)、オフクロが直してくれたブレザーを羽織り、マフラーをグルグル巻きにして「行ってきまーす!」になった。

「百戸(ももと)オ!」

 角を二つ曲がったところで、声がかかる。中学からの悪友・八瀬竜馬。
「百戸、また太ったんじゃねえか?」
「太ってねえし」
 週に一遍はやる定型文の挨拶をかわす。
「寒いなあ」
 八瀬が、白い息を吐く。
「百戸は寒かないだろ」
「オレだって寒い。この冬一番の寒波らしいし、このマフラー見ても分かんだろ」
「体表面積広いもんな……って、マジ太ったんじゃねえのか? ブレザー、パッツンパッツン」
「しつこい、シメるぞ!」
 ヘッドロックかまそうとして伸ばした手は空振りになる。
「ハハ、今の百戸に後れは取らないぜ!」
「この、ヤセガリ!」
 じゃれ合っていると、ツィンテールが脇をかすめて行く。
「お、久々の桜子じゃん!」
 八瀬は気楽に声をかけるが、オレは元カノの姿に息をのむだけ……と思ったら、桜子が回れ右して近づいてきた。
「言っとくけど、元カノだなんて思わないでね。あたしの中では百戸桃斗なんて存在は完全不可逆的な過去なんだからね! 八瀬君も!」
 それだけ言うと、シャンプーの香りを残して駅に向かっていった。

「おい、桜子泣いてなかったか?」
「そ、そうか……」

 あいまいな返事をしたけど、桜子は、はっきり泣いていた。それに、いつもはもう一本早い電車に乗っているはずだ……。 



 🍑・主な登場人物

  百戸  桃斗……体重110キロの高校生

  百戸  佐江……桃斗の母、桃斗を連れて十六年前に信二と再婚

  百戸  信二……桃斗の父、母とは再婚なので、桃斗と血の繋がりは無い

  百戸  桃 ……信二と佐江の間に生まれた、桃斗の妹

  百戸  信子……桃斗の祖母 信二の母

  八瀬  竜馬……桃斗の親友

  外村  桜子……桃斗の元カノ 桃斗が90キロを超えた時に絶交を言い渡した

  

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高校ライトノベル・堕天使マヤ 第一章・遍歴・12《試行錯誤⑨エクボの証人・2》

2019-01-07 06:27:43 | ノベル

堕天使マヤ 第一章・遍歴・12
《試行錯誤⑨エクボの証人・2》



 三日のち、また、あのエクボの二人がやってきた。

 マヤが玄関に出た時、すでに一人のお爺ちゃんが、作務衣姿でベテランとルーキーと話しをしていた。
「ようこそお出でなさいました」
 お爺ちゃんは良く禿げた頭を下げ、ニコニコと話し始めた。
「お時間があれば、いろんなお話ができるんじゃが、あなたがたには時間が無い。これをごらんなさい」
 お爺ちゃんは、作務衣のポケットから木のボールを出した。
「これは、なにかな?」
「ボールです」
 ルーキーが答えた。
「あの、今日は聖書の話をさせていただきたいんですけど」
 ベテランが遮る。
「聖書と申されても、これだけあるがのう」
 お爺ちゃんが、納戸を開けると、百冊以上の……正確には百種類以上の聖書があった。
「古いものは死海文書の原典から、2000余りの言語に訳された新約・旧約の聖書があります。これらについて全て語らなければ、聖書を語ったことにはなりません」
「とりあえず、わたしの聖書で」
「それは聖書ではない……というのがキリスト教社会の常識ですが、それは申しますまい。英語でGOD、日本語で神と言っただけで、もう別のものになります。日本の神は仏の化身です、例えば大日如来は天照大神の姿をお持ちです。ですから、お伊勢さんをお参りしたら、大日如来を拝んだことと同じになります。まあまあ、お聞きなさい。わたしの知人に荒仕事を辞めて坊主になった者がおります。私同様無知な奴ですが、お伊勢さんで、こんな和歌を詠みました『なにごとのおはしますかは知らねどもかたじけなさに涙こぼるる』 これが、日本人の宗教観です。今の言葉で申せば、スピリチュアルと感じたら、そこには、もう神がおわしますのです。ごらんなさい……」

 お爺ちゃんは、上がり框に一つまみの塩を置いた。

「もう、ここに神がおわします。わたしの身に引きつけて申せば、全てのものに仏性があります。仏性あるものは必ず往生……この言葉に抵抗がおありならゼロと申し上げてもいい。このゼロは必然です。貴方たちがおっしゃる、人は死ねば無になるに通じます。ならば今を生きれば良いではありませんか。それぞれの道から山の頂を目指せばよろしいのではと、この年寄りは思います。お若い方のかた、力が入りすぎてはおられんか。信心に全てをなげうつべきではありませんよ、そのエクボが似合っておられるうちに、切れた親御さんとの絆を取り戻しなされ。大きなところで認め合えば、親子の縁はもどります。その上で、ご自分の信仰を見つめなさればよろしかろう」

 そこまで言うと、お爺ちゃんは合掌した。二人は、硬いお辞儀して出て行った。

「やれやれ……わたしも修行が足らんわい」 そう言って、禿げた頭をつるりと撫でた。
「お爺ちゃん、あなたは……?」
 やっとマヤは声を掛けることができた。
「わたしか……わたしは親鸞です。と言っても幽霊じゃない、生きていたころに考えすぎましてな。時の流れに影が焼き付いた。ま、言ってみれば、歴史の日焼けのようなものです。マヤさん、あんたの苦行は続きそうじゃが、ゆるりと頑張りなされ。そのうち大きな壁が見えてきますからな……」

 お爺さんの姿が薄くなりかけたころに、ルーキーの方が戻って来た。

「わたし、一度親の所に戻ります!」
「おお、それがいい」
「信仰は……」
「そのままでいいでしょう。ただ疑問は素直にぶつけられるがいい。間違っていると思ったら一歩引けばよろしい、キリスト教という大きな場所に。それでも見えなければ、もう一歩引く」
「それは、どこなんですか?」
「塩の一つまみでも置けば見えてくるものがありますよ。さ、とりあえずは親御さんのところに戻ることからおやりなさい」
「は、はい!」

 ルーキーは、かわいいエクボでお辞儀して出て行った。

 ルーキーはなにか吹っ切れたようだった。お爺ちゃんに目を向けると、もう、その姿はなかった。
「影に負けちゃったか……」

 マヤは、家を、元の売り家に戻すと、梅雨空の下を歩きはじめた。

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