大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!・6『4274は死になよ』

2019-01-12 06:43:54 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!・6
『4274は死になよ』



「ちょっと、百戸くんも休んでいきなさい!」

 春奈先生の声を聞こえないふりして保健室を飛び出した。
 真っ直ぐ階段下の旧演劇部の部室に向かう。シリンダー錠はあらかじめ外してある。
「ドワアッ、ゼイ、ゼイ、ゼイ、ゼイ……」
 衣装の山にドッと倒れこみ、正直に荒い息を吐く……いかん、視野の縁が霞んできた……こんなとこで死ぬのかなあ……。
 嘔吐したら窒息する……なけなしの力を振り絞って横向きになる。
 苦し紛れに、手に触ったものを掴む……この感触?
 視界の端、右手の中にあったものは……ボーダー柄のショーツ!
 そのショックで気絶することを免れた。こんなものを握って死ぬわけにはいかない。

 体育の持久走で、前を走っていた女子が倒れた。で、ラッキーと思った。

 この女子を救けてやれば、持久走をパスできる。そんな浅ましい考えだけで、三好という女子をお姫様抱っこして保健室に駆け込んだ。
 駆け込む途中で自分の具合も悪くなってきた。110キロの体重で人並みに走ることも無謀だが、女子とはいえ、人一人担いで保健室までの100メートル余りを小走りに走ることは自殺行為だ。
 で、三好をベッドに横たえると、ほとんど限界。でも、みっともなくへたれこむことはできない。

 デブにも矜持というものがある。

 太っていても、平均的な男子がやれることはやらなくちゃ。
 で、見栄を張って、階段下の旧演劇部の部室までたどりついた。なんで演劇部の部室かというと、大掃除の時に階段下の掃除があたり、古びたシリンダー錠で閉めきられていた部室を発見。ダメもとで数字を合わせていたら三回目でヒットした。番号は4274だった。それを暗記して部室を閉めた。で、体育の授業の前に開けておいて、持久走を中抜けするのに使っていた。

 4274……死になよ……これは悪魔の罠だったか!?

「ハハハ、お兄ちゃん、見栄の張りすぎ! あーおっかしい! ( ̄∇ ̄;)ハッハッハ……」
 桃は仰向けになり、脚をバタバタさせながら笑っている。
「パンツが見えるぞ」
「お兄ちゃんのエッチ!」
 一言はっきり言うと、桃は再び笑い転げる。桃は一定以上の笑いのレベルになると、しばらく止まらない。オレはたこ焼きを頬張りながら、妹の発作が止むのを待つ。
「ヒー、ヒー、ヒー……お腹痛い……あ、あたしの分ないよ~ヽ(`Д´)ノプンプン!」
「桃が、いつまでも笑っているからだろ」
「笑わせるお兄が悪い、もっかいチンしてきてよ」
「もう、しかたねえなあ」
 そう言いながら、オレはキッチンに向かう。
 冷凍庫の中に冷凍たこ焼きの大袋が入っている。
「10個……いや、20個にしよ」
 コロコロと、凍ったたこ焼きを皿に移す。
「多すぎ! また太るよ!」
 いきなり桃が現れる。慣れてはいるが反則だ。
「壁とか床を素通しで来るんじゃないよ」
「お兄ちゃんをブタにしないため」
 オレの手から皿は浮かび上がり、たこ焼きの半分は冷凍パックに戻り、残りがレンジの中に収まった。
「そういう手ぇつかうか?」
 桃はどこ吹く風。テーブルに頬杖ついて、たこ焼きが温まるのを待っている。

 えと、言い遅れたけど、桃は幽霊なんだよな……。
 


🍑・主な登場人物

  百戸  桃斗……体重110キロの高校生

  百戸  佐江……桃斗の母、桃斗を連れて十六年前に信二と再婚

  百戸  信二……桃斗の父、母とは再婚なので、桃斗と血の繋がりは無い

  百戸  桃 ……信二と佐江の間に生まれた、桃斗の妹 去年の春に死んでいる

  百戸  信子……桃斗の祖母 信二の母

  八瀬  竜馬……桃斗の親友

  外村  桜子……桃斗の元カノ 桃斗が90キロを超えた時に絶交を言い渡した

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高校ライトノベル・堕天使マヤ 第二章・クオバディス ドミネ・5『沖縄戦終結とマヤ②』 

2019-01-12 06:28:59 | ノベル

堕天使マヤ 第二章・クオバディス ドミネ・5
『沖縄戦終結とマヤ②』
        


 アメリカ軍は沖縄を去ることになった。

 五十四万の兵力を投入し、十五万を失い、戦闘艦艇は壊滅。残ったのは十三万の陸上兵力を収容する輸送船団だけであった。
「この戦争を続ける意味が無い」
 スプルーアンスとバックナーの海陸の米軍司令官は、今次の戦いを、そう表現した。事実上の敗北宣言であった。
「米軍の速やかな撤収を若干の条件を付けて希望します」
 海軍の伊藤長官は、陸軍の牛島中将の目を見てから発言した
「条件とは?」
「油送船の半分の接収、むろん積載している重油・ガソリンともども」
「いいでしょう」
「撤収までの期間は一か月後の五月八日とする」
「おお、それだけあれば計画的に秩序だった撤収ができる」
「それから、これは希望……というよりは、ご協力願いたいのだが」
「協力……?」
 米軍の二人の司令官は身を乗り出した。
「協力とは?」
「この対日戦争そのものの停止にご尽力いただけないだろうか」
「それは、わたし達に与えられた権限を越えることになる。約束はできかねる」
「われわれは、これからテニアンと硫黄島の奪還を目指します。今回と同様の兵器と攻撃方法で」
「日本には、まだ特攻機が残っているのか?」
「マヤ中佐、あれを」
 伊藤中将が言うと、マヤはゼロ戦を一機垂直に着陸させた。
「おお、こんなこともできるのか……」
「よおくご覧いただきたい。あのゼロ戦にはパイロットは乗っていません」
「なんと、無人機!?」
 米軍の参謀が、マヤの許可を得てコックピットを点検、無人機であることを確認し、次に促されて車輪の格納庫を見てみると、意外なものを発見した。
「何を見つけた?」
「長官、星条旗です」
「なに……」
 参謀は、その星条旗を二人の司令官に手渡した。

「これは……!?」
 
「お気づきですか、ホワイトハウスの掲揚旗です」
 マヤはシラっと言いのけた。
「なぜ、こんなものが?」
「二日前に、単機でアメリカまで飛ばしました。このゼロ戦はレーダーには映りません。ホワイトハウスの上空で脚を出して、引っかけて格納してきたものです」
「そんな……」

 スプルーアンスは、輸送船経由で、ホワイトハウスに問い合わせた。すると、前夜レーダーに映らないままホワイトハウスに接近した単発機があり、朝になって掲揚していた星条旗が無くなっていることに気づいた。ということであった。

 あくる日、千機あまりのゼロ戦が沖縄の米軍船隊の上空に現れ、数々のアクロバット飛行を披露した。スプルーアンス、バックナー以下四十万近い米兵たちはあっけに呑まれた。

 こうして、沖縄の米軍は五月八日、ドイツの降伏と日を同じくして撤退を完了した。その一か月間米軍は日本への攻撃を停止している。

 歴史が変わろうとしていた……。        

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