🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!・6
『4274は死になよ』
「ちょっと、百戸くんも休んでいきなさい!」
春奈先生の声を聞こえないふりして保健室を飛び出した。
真っ直ぐ階段下の旧演劇部の部室に向かう。シリンダー錠はあらかじめ外してある。
「ドワアッ、ゼイ、ゼイ、ゼイ、ゼイ……」
衣装の山にドッと倒れこみ、正直に荒い息を吐く……いかん、視野の縁が霞んできた……こんなとこで死ぬのかなあ……。
嘔吐したら窒息する……なけなしの力を振り絞って横向きになる。
苦し紛れに、手に触ったものを掴む……この感触?
視界の端、右手の中にあったものは……ボーダー柄のショーツ!
そのショックで気絶することを免れた。こんなものを握って死ぬわけにはいかない。
体育の持久走で、前を走っていた女子が倒れた。で、ラッキーと思った。
この女子を救けてやれば、持久走をパスできる。そんな浅ましい考えだけで、三好という女子をお姫様抱っこして保健室に駆け込んだ。
駆け込む途中で自分の具合も悪くなってきた。110キロの体重で人並みに走ることも無謀だが、女子とはいえ、人一人担いで保健室までの100メートル余りを小走りに走ることは自殺行為だ。
で、三好をベッドに横たえると、ほとんど限界。でも、みっともなくへたれこむことはできない。
デブにも矜持というものがある。
太っていても、平均的な男子がやれることはやらなくちゃ。
で、見栄を張って、階段下の旧演劇部の部室までたどりついた。なんで演劇部の部室かというと、大掃除の時に階段下の掃除があたり、古びたシリンダー錠で閉めきられていた部室を発見。ダメもとで数字を合わせていたら三回目でヒットした。番号は4274だった。それを暗記して部室を閉めた。で、体育の授業の前に開けておいて、持久走を中抜けするのに使っていた。
4274……死になよ……これは悪魔の罠だったか!?
「ハハハ、お兄ちゃん、見栄の張りすぎ! あーおっかしい! ( ̄∇ ̄;)ハッハッハ……」
桃は仰向けになり、脚をバタバタさせながら笑っている。
「パンツが見えるぞ」
「お兄ちゃんのエッチ!」
一言はっきり言うと、桃は再び笑い転げる。桃は一定以上の笑いのレベルになると、しばらく止まらない。オレはたこ焼きを頬張りながら、妹の発作が止むのを待つ。
「ヒー、ヒー、ヒー……お腹痛い……あ、あたしの分ないよ~ヽ(`Д´)ノプンプン!」
「桃が、いつまでも笑っているからだろ」
「笑わせるお兄が悪い、もっかいチンしてきてよ」
「もう、しかたねえなあ」
そう言いながら、オレはキッチンに向かう。
冷凍庫の中に冷凍たこ焼きの大袋が入っている。
「10個……いや、20個にしよ」
コロコロと、凍ったたこ焼きを皿に移す。
「多すぎ! また太るよ!」
いきなり桃が現れる。慣れてはいるが反則だ。
「壁とか床を素通しで来るんじゃないよ」
「お兄ちゃんをブタにしないため」
オレの手から皿は浮かび上がり、たこ焼きの半分は冷凍パックに戻り、残りがレンジの中に収まった。
「そういう手ぇつかうか?」
桃はどこ吹く風。テーブルに頬杖ついて、たこ焼きが温まるのを待っている。
えと、言い遅れたけど、桃は幽霊なんだよな……。
🍑・主な登場人物
百戸 桃斗……体重110キロの高校生
百戸 佐江……桃斗の母、桃斗を連れて十六年前に信二と再婚
百戸 信二……桃斗の父、母とは再婚なので、桃斗と血の繋がりは無い
百戸 桃 ……信二と佐江の間に生まれた、桃斗の妹 去年の春に死んでいる
百戸 信子……桃斗の祖母 信二の母
八瀬 竜馬……桃斗の親友
外村 桜子……桃斗の元カノ 桃斗が90キロを超えた時に絶交を言い渡した