大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!・12『メゾンくにとみ』

2019-01-18 06:55:14 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!

12『メゾンくにとみ』  


 家を出て角を三つ曲がると、それがある。

 一見どこにでもある中級のマンションに見える。
――メゾンくにとみ――と看板にあって、看板の下に小さく「特別養護老人ホーム」とある。
 持参したスリッパに履き替え、靴をビニール袋に入れてエレべ-ターのボタンを押す。

 ズィーンと音がして、エレベーターのドアが開く。

「お、久しぶり百戸君」
 エレベーターには所長の野中さんが乗っていて、至近距離の挨拶になった。
「お早うございます」
 悪気はないのだろうけど、所長は苦手だ。歩いて三分の近さなのに、メゾンくにとみに来るのは間遠になりつつある。久しぶりと言われると、なんだか咎められているような気になる。

「これくらいで、ちょうどいいのよ」

 ゆっくりとベッドに腰かけて婆ちゃんが微笑みかける。
 婆ちゃん、百戸信子は親父のお母さん。親は再婚同士だから信子婆ちゃんとオレは血の繋がりは無い。
 そのせいか、婆ちゃんは、桃が亡くなった年に、このメゾンくにとみに引っ越した。洗濯ものや身の回りのものの補充などで、主にオレと母さんが足を運ぶ。オレは年末に来て以来だ。いろいろ言い訳を考えていたけど、婆ちゃんの一言が、その必要をなくした。婆ちゃんの声には、表現のしようのない温もりがあって、時に一言で和ませてくれる。オフクロが親父との再婚を決めたのも、この婆ちゃんの存在が大きいらしい。

「フフフ、ちょっと太ったわね」

 オレの部屋でエロ本を見つけた時と同じ調子で言われた。
「110キロで停まってるよ」
「ホホ、4キロ増えたんだ」
 そう言うと、婆ちゃんは、メモ帳を出して、なにやら書きつけた。
「なに書いてんの?」
「え……ああ、あたしったら!」
 めずらしく、婆ちゃんがうろたえて両手をわたわたさせる。こういう時の婆ちゃんは少女のように可愛くなる。
「だめねえ、桃君には秘密にしてたんだけど、ボケちゃったのかしら、本人の目の前で出すなんて」
 婆ちゃんは、オレの事を「桃君」 妹を「桃ちゃん」と呼ぶ。
 婆ちゃんは、あっさりと手帳を見せてくれた。
「この数字は……オレの体重?」
「そうよ、体重の変化の裏にはドラマがあるわ。それを想像するのは楽しいのよ」
 こういうことを言っても、婆ちゃんは嫌味にならない。現役の国語教師であったときも、きっといい先生だったんだろう。
「えーと、110-61は……ダメねえ、こんな暗算もできない」
 婆ちゃんは、手帳の隅で筆算を始めた。尖った口が、うっすら開いて、小学生が覚えたての算数をやってるみたいだ。
「49だ!」
「あんまり計算してほしくないなあ」
「二年足らずで49キロ……」
「だから、この二週間ほどは増えてないから」
「咎めてんじゃないのよ、この数字の意味……」
「数字に意味なんてあるの?」
「うん……48の次、50の前、約数は1と7と49、約数の合計は57……」
 婆ちゃんが冴えてきた。
「四十九日……そうだ、あたしが生まれたのが1949年、なんか因縁……信長が本能寺で死んだのが49歳、アメリカの49番目の州がアラスカ、アメリカってばフォーティーナイナーズ……遠くなっちゃった」
 こんなことで無邪気になれる婆ちゃんに、介護付き老人ホームは似合わない。婆ちゃんがここに入居したのは、婆ちゃんなりの想いがある……それを斟酌できないのは、やっぱ血の繋がりが無いからだろうか。
「血の繋がり……」
 心が読めるんだろうか、婆ちゃんの呟きには、時々ドキッとされる。
「どうでもいいんだけどね……信二は、もう半年も音沙汰なしだし」
「え、そうなんだ?」
 親父は、オレとオフクロには細々と気を配ってくれている。こないだも忙しい中、家族三人で食事の機会を作ってくれたところだ。
「ま、息子って、そんなもんだけど……えと、なにしてたんだっけ?」
「ハハ、忘れたんなら、それでいいよ」
 いつまでも体重の計算をされてはたまらない。
「桜子ちゃんは、どうしてんの?」
「え……?」
 どうして桜子のこと知ってんだ?
「いい子よ、桜子ちゃんは」
 そう言って、婆ちゃんは、オレの膝をホタホタと叩いた。
「そうだ、これあげよう」
 婆ちゃんは、戸棚の引き出しから、なにやら取り出した。
「国富駅前のレストランの食事券。お隣りさんの息子さんがオーナーで、もらっちゃった。婆ちゃんには猫に小判だから」
「あ、ありがとう」

 それから、着替えと日用品を補充してよもやま話。

「じゃ、そろそろ帰るよ」
「そうね、今日はどうもありがとう」
「佐江さんによろしくね、じゃ……」
「うん、またね、婆ちゃん」
 で、ドアを開けた時。
「思い出した、49!」
「え……?」

「……桃ちゃんの体重よ!」

 婆ちゃんのどや顔は、妹の桃に似ていた。


🍑・主な登場人物

  百戸  桃斗……体重110キロの高校生

  百戸  佐江……桃斗の母、桃斗を連れて十六年前に信二と再婚

  百戸  信二……桃斗の父、母とは再婚なので、桃斗と血の繋がりは無い

  百戸  桃 ……信二と佐江の間に生まれた、桃斗の妹 去年の春に死んでいる

  百戸  信子……桃斗の祖母 信二の母

  八瀬  竜馬……桃斗の親友

  外村  桜子……桃斗の元カノ 桃斗が90キロを超えた時に絶交を言い渡した

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・堕天使マヤ 第三章 遍路歴程・6『「か」の山 兎追いし』

2019-01-18 06:41:57 | ノベル

堕天使マヤ 第三章 遍路歴程・6
『「か」の山 兎追いし』
        


 昭和の権化のようなディーゼルカーは「か」の山駅に躊躇うように着いた。

 高原なのだろう、涼しい風が短い制服スカートの脚をヒヤヒヤと弄っていく。ふもとの町だか村だかは濃い朝靄の中に沈んでいる。
「なにも見えないね……」
 マヤが独り言のように言う。恵美は、かわいく「クシュン」と身震いした。
「ちょっと、おトイレ行ってくる」
「トイレ、あっち!」
 駅舎の中に入りかけていた恵美は改札から引き返し、マヤが示したホームの外れの「便所」に向かった。しいかし「キャ!」と声をあげると、すぐに戻って来た。
「わ、わ、和式! それも汲み取り式!」
「でも、あそこしかないわよ」
「もう……ティッシュ貸して」
「はい」
 恵美はふんだくるようにティッシュを取ると再び「便所」に突進した。
 二分ほど過ぎても恵美は出てこなかった。
「……大きいほうかな」
 そう呟くと、マヤは指を一振りした。
「間に合うといいけど……お、ああ」
 ふもとの朝靄が急速に晴れていき、素晴らしい景色が広がっていく。

 そして、完全に靄が晴れたころに恵美が爽やかな顔で戻って来た。天使の目で見ると、体重が五百グラムほど減っているのが分かった。
「おつり、大丈夫だった?」
「おつり?」
「その様子なら大丈夫だったんだ。見てごらん、靄がきれいに晴れたから」
「え……うわー、すごい、CGみたい!」
 そう感動しながら恵美はお尻をボリボリ掻きはじめた。
「あ、蚊に食われた?」
「え、あ、ほんとだ」
 マヤは、おつり除けの白魔法はかけたが、虫除けのをしなかったのを済まなく、かつ面白く思った。
「ムヒあるけど、塗る?」
「いい、それよりふもとに行ってみようよ!」
「あそこに行くのは、まだ早い」
「じゃ、いつになったら行けるのよ」
「いつの日にかね。こっち行くよ」
 マヤはさっさと歩きだしたが、恵美はふもとの景色に見とれていた。
「恵美!」
「あ、待って!」

 二人は『トトロ』の世界のような故郷に背を向けて「か」の山の峠を目指した。

「……やっぱり痒い!」
 山道を三本杉のあたりまで来て、恵美はボリボリやりながらボヤいた。
「やっぱムヒ?」
「う、うん貸して」
「塗ったげようか」
「いいよ、自分でやるから!」
 そう言って恵美は道を外れた薮の中に入って行った。そしてスカートに手を掛けたところで気配に気づいた。
「あ、兎……なんで服着て二本足で走ってる?」
 走っているだけでは無かった「忙しい、遅刻する!」と言っては立ち止まってスマホで時間を見ている。そのスマホは初々しいもぎたてイチゴみたいな赤色だった。
「兎さーん、待って、そのスマホ!」
 恵美は痒いのも忘れて兎を追いはじめた。
「あ、恵美のやつ!」
 マヤも、薮に入って追いかける。薮は森へと続き、やがて「か」の山の峰が見えてきた。

「捕まえた!」

 恵美はジャンプして兎の尻尾を掴んだ。
「あたしのスマホ、返して!」
「こ、これは、わたしのだ!」
「違う、あたしの……」
 兎の手を掴んで、スマホを見ると銀色のそれに代わっていた。
「あれえ……」
「ね、君のじゃないだろう?」
「うん……」
「初々しいもぎたてイチゴみたいな赤色のスマホを無くしたのかい?」
「うん」
「それは可哀そうに……ジャーン!」

 兎は、そう言うと上着をサッと広げた。上着の裏には沢山ポケットが付いていて、ポケット一つ一つに赤いスマホが入っている。

「うわー!」
「初々しいもぎたてイチゴみたいな赤色じゃないけど、この赤もいいだろ。よかったら一つあげるよ!」
「ほんと!?」

 恵美は、どれにしようか迷った。その迷っているところをマヤは発見した。
「ヤバイ!」
 兎はスマホを一つ恵美に渡すと、一目散に逃げ出した。
「待てえ!」
 マヤが追いかけると、兎は峰に隠していたハングライダーにつかまって山の向こうの空に飛び去ってしまった。
「くそ、ただのアリス兎じゃないな」
「ねえ、マヤ、メールがきた!」
 下の方から、恵美が嬉しそうにスマホを振りながら駆け上がってきた。
「もう蚊に食われたとこはいいの?」
「うん」
 恵美はムヒを渡しながら言った。
「スマホに比べりゃ、蚊のかゆみなんてメじゃないよ!」
 そのスマホには、こんなメールが入っていた。

――十時から、AP法案反対のデモします。いっしょに歩いてくれる人は十時に「き」広場に。拡散希望――

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする