大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・堕天使マヤ・第三章 遍路歴程・13『「さ」すけ村・2』

2019-01-25 11:46:11 | ノベル

堕天使マヤ・第三章 遍路歴程・13
『「さ」すけ村・2』
        

 

 

 無理です……

 

 恵美が怖気づいてしまった。

 仕方がないだろう、SASUKEのフルコースをコンプリートしなければ先へ進めないのだから。

「まあ、しばらく眺めていようよ」

 マヤは傍らの岩に腰掛け、すぐ横の岩をトンと叩いた。横に座れと言うことだ。

 座ってどうするんだという気持ちはあったが、マヤの圧に負けて、とりあえず腰を掛ける。

「えと……眺めて、どうするのかな……」

「座ってりゃ分かる」

「……ですか」

 

 しばらくすると、峠を越えてくる何人かの声が聞こえてきた。

 

「ほら、やってきた」

 声の主は、虚空蔵菩薩さんのところで十三参りを済ませた中坊たちだ。ほとんどの中坊はお参りしたことで満足したり納得したりしているが、やはり個性なんだろう。何パーセントかの中坊はさすけ村への道に気づいてやってきたのだ。「これは無理だ」と引き返す者がほとんどだが、数名の中坊が腕まくりをして靴ひもを締め直してチャレンジすることになった。

「知恵の信奉者が、なんで、こんな筋肉バカみたいなことを……」

「見ていれば分かるわ」

 体格の良い十人ほどがスタート台に並んだ。

 後から続いてきた者たちは、あちこちで見物を決め込んだり自分もやってみようかと並んだりする。

 MCをかって出る者も出てきて、ちょっとしたお祭り騒ぎになってしまった。

 

 ヨーーーーイ……スタート!

 

 お祭りが始まった。

 二人だけが難関の『そそり立つ壁』までこぎつけて、一人が成功して第二ステージへ進んだがクリフハンガーで失敗した。

 ギャラリーが悲鳴とも歓声ともつかぬ声をあげる。すると、その声に酔ったように次の十人がスタート台を目指した。

 結果的に百人近い中坊たちがチャレンジして、数人が怪我をして二人が救急車で搬送され、お祭りは終わった。

「だれもクリアーできなかったね」

「勢いでやっただけだからね」

「知恵の勢い?」

「うん、文殊菩薩さんは、こういうのが嫌だったんだよね……さ、行こうか」

「どこへ?」

「決まってる、さすけ村」

「無理だよ、こんなの」

「そこ、見てみ」

 マヤが指差した方にはスタッフオンリーと札とプラスチックのチェーンで通せんぼされた小道があった。

「いくよ」

「あ、だって」

 マヤはチェーンを外して入っていく、恵美はおっかなびっくりで続いた。

 

 小道を進んでいくと、SASUKEのコースを横に見ながら進むことになる。

 そしてビックリした!

 あれこれのコース設備が消えていくのだ。

 しまいには、SASUKEの設備は全部消えてしまって、ただの田舎道に変わってしまった。

「フフ、ただの3Dだったのよ」

「バーチャルだったの!?」

 

 小道がおしまいになると、前方に人の気配がした……。

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🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!・19『最新の鞄やろー!・3』

2019-01-25 06:06:14 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!

19『最新の鞄やろー!・3』  

 デブの演劇部員は妻鹿悦子という名前であることが分かった。

 一言コーナーの模造紙には、大山満世という役の名前でしか書かれていなかったので、日誌を読んで初めて分かった。
――三人……嗚呼、国富高校始まって以来の最少人数の演劇部! でも、だからこそ、きっと出来ることもあるはず!――
 日付を見ると二十年前。廃部寸前の心細さと、諦めないファイトが読み取れた。
――一人芝居でやるしかない。半葉(なかば)も小夜も役者で出て欲しいけど、無理は言えない。やっるっきゃないか!――
 悦子は苦労していたようだ。どうやら、いろんな苦労を一人でしょい込むタイプのようだ。
――あたしが一人芝居をやるしかない。デブ女の一人芝居……探せばきっとあるだろう! 探すぞ!――
 悦子は、ポジティブなデブのようだ。ガンバレという気持ちになってきた。
――そんな都合のいい本は、なかなか見つからない。でも希望は捨てない――
 がんばれ悦子! という気になる。
――『夕鶴』をデブのあたしがやる! ってどーよ?『まあ、こんなに痩せてしまって……』この台詞はウケると思う!――
 アイデアだ、捨て身で笑いを取ろうという気持ちは大絶賛されていい。
――やっぱ、半葉も小夜ものってこない。いろいろ理由は言うけど、『夕鶴』をやったら、二人とも役者で出なくちゃならない。役者で出るのが嫌なんだろう。無理は言えない、考えよう――
 こうまでして芝居をやりたいというのは、オレの理解を超えている。でも、悦子の頑張りで、先を読んでしまう。
――もう二週間探した。デブの一人芝居ってなかなかない。「一本刀土俵入り」なんてのはあったけど、男の芝居だ。それに、やっぱ高校生の心情とか問題を感じる芝居がしたいし――
 単にやりたいというだけではなくて、悦子さんにはコンセプトがあるようだ。

 それからは、しばらく日付だけで中身のないペ-ジが続く。

――デブでなきゃ、一人でもやれる芝居はある……デブであることが恨めしい。半葉も小夜も分かっているのか、昨日からクラブに来ない。なんときゃしなきゃ――
――ネットで同じような悩みの子を発見。長文だけど面白かった。まるで自分の事のよう……そっか! 自分のことを書けばいいんだ!――
 
 悦子さんは閃いたんだ!

――あたしには早合点なところと鈍いところが同居している。イイコちゃんブッテいるけど自分でも嫌になるところもある。デブなのに神経は細い。そういうところをありのままに……でも、単なる告白劇じゃ独りよがり、エンタメ性がいる。これは難問だ――

 それからの部活の様子は専門的すぎるので読み飛ばした。
 でも、苦労の末に『山のようなインナー(取り扱い注意)』が生まれたことは確かなようだ。

 稽古中は忙しいようで、稽古の内容など事務的なことしか書かれていなかった。
 ただ、県大会の日に一言だけ。

 最新の鞄やろー! とだけあった。

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