🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!・8
『桃のママチャリ』
冷蔵庫が申し訳なさそうに警告音を発した。
「チ、わかったよ」
オレは諦めて冷蔵庫を閉じた。うちの冷蔵庫は一分開けているとアラームが鳴る。一分も開けていた自覚は無いんだけど、機械は正直、いじましくマヨネーズを探していたんだろう。
「一分じゃない、二分だよ」
頬杖ついた桃が訂正する。
「一分だよ」
「ううん、アラームは二回鳴ったでしょ。一分は一回だよ……あ、最初に鳴ったの気づいてないんだ、そのマヨネーズへの執着心、病気だよ」
「うっせー!」
そう言って、二階へ上がる。財布を取ってマヨネーズを買いに行くためだ。
休みの朝はナポリタンの大盛りは食べない。いくらデブでも気にはかけている。
休みの朝は、食パンにマヨネーズをかけてトーストする。マヨトーストにはベーコンと目玉焼きを載っけ、もう一枚マヨトーストを載せてホットサンドイッチ。ナポリタンの大盛りよりはカロリーオフだ。
「四つ切トーストに厚切りベーコンじゃねえ」
桃は蔑むが、オレは、これでいいと思っている。デブは、何を食べても非難される。いちいち気にはしていられない。
桃の形見のオレンジ色のママチャリに打ち跨る。自分の自転車は100キロの時に壊れた。中国製の安物だったから仕方ない。
「……自転車って案外キツイ。けっこう運動になるかもな」
朝から運動したので、コンビニではカロリーオフではないほうの濃厚マヨをカゴに入れる。
「痩せる気ないんだ」
「う……」
振り向くと、スポーツドリンクを手にした桜子が、ジョギングの出で立ちで立っている。
「……というぐあいに、日曜はカロリー控えめにしてるんだぞ」
休日の朝食メニューを言うと、桜子は「フーン」とだけ言った。ただ目つきは、桃と同じジト目。
「じゃあな……」
レジをすますと会話が続かず、レジ袋ぶら下げてママチャリに跨る。3メートルほどいくと段差。
グシャ! と音がして、尻に衝撃が来た。
「アハハハ……!」桜子の爆笑が背中でした。
「信じらんない! 自転車乗りつぶす!?」
桃子のママチャリは、シートポストがくの字に折れ曲がっていた。
自転車屋に行く道すがら、桜子は付いて来てくれた。
「桜子……」
「うん?」
「学校には復帰したみたいだけど、その……お父さんとのことは、ケリついたのか?」
「つくわけないじゃん」
「……じゃあ?」
「桃斗見て思ったのよ。グズグズ言ってたら、いっしょになっちゃうって」
「桜子もデブに?」
「まさか。でも、精神的にね……嫌だとか憎いとかだけ思っていたら醜くなるだけ。お父さんのこと許したわけじゃないけどね、逃げてばかりじゃね」
「そうなんだ」
桜子はエライと思った。同時にシャクに触って、足元の小石を蹴る。
フギャー!
横丁から飛び出してきた猫にヒットする。
「ドジな猫」
「ほんと、桃斗に似てる」
言い返そうとしたけど、100倍返ってきそうなので、口をつぐむ。
「おじさん、これ、中国製のパチモンだよね」
シートポストを取り換えている自転車屋の親父に確認する。桃は国産と言っていたけど、こんな簡単にクラッシュする国産はないだろう。
「いや、日本製だよ」
「やっぱ、乗る人間が重すぎるんですよね?」
桜子が言わずもがなのツッコミをする。親父は手を休めて、オレを見る。
「はずみってこともあるんだろうけど、まあ……お相撲さん用のシートポストに……」
親父は手にしたシートポストを交換した。
桜子は、何度目かの爆笑になった。