大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!・8『桃のママチャリ』

2019-01-14 07:02:18 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!・8
『桃のママチャリ』
          


 冷蔵庫が申し訳なさそうに警告音を発した。

「チ、わかったよ」
 オレは諦めて冷蔵庫を閉じた。うちの冷蔵庫は一分開けているとアラームが鳴る。一分も開けていた自覚は無いんだけど、機械は正直、いじましくマヨネーズを探していたんだろう。
「一分じゃない、二分だよ」
 頬杖ついた桃が訂正する。
「一分だよ」
「ううん、アラームは二回鳴ったでしょ。一分は一回だよ……あ、最初に鳴ったの気づいてないんだ、そのマヨネーズへの執着心、病気だよ」
「うっせー!」
 そう言って、二階へ上がる。財布を取ってマヨネーズを買いに行くためだ。

 休みの朝はナポリタンの大盛りは食べない。いくらデブでも気にはかけている。

 休みの朝は、食パンにマヨネーズをかけてトーストする。マヨトーストにはベーコンと目玉焼きを載っけ、もう一枚マヨトーストを載せてホットサンドイッチ。ナポリタンの大盛りよりはカロリーオフだ。
「四つ切トーストに厚切りベーコンじゃねえ」
 桃は蔑むが、オレは、これでいいと思っている。デブは、何を食べても非難される。いちいち気にはしていられない。

 桃の形見のオレンジ色のママチャリに打ち跨る。自分の自転車は100キロの時に壊れた。中国製の安物だったから仕方ない。

「……自転車って案外キツイ。けっこう運動になるかもな」
 朝から運動したので、コンビニではカロリーオフではないほうの濃厚マヨをカゴに入れる。
「痩せる気ないんだ」
「う……」
 振り向くと、スポーツドリンクを手にした桜子が、ジョギングの出で立ちで立っている。
「……というぐあいに、日曜はカロリー控えめにしてるんだぞ」
 休日の朝食メニューを言うと、桜子は「フーン」とだけ言った。ただ目つきは、桃と同じジト目。

「じゃあな……」

 レジをすますと会話が続かず、レジ袋ぶら下げてママチャリに跨る。3メートルほどいくと段差。

 グシャ! と音がして、尻に衝撃が来た。
「アハハハ……!」桜子の爆笑が背中でした。
「信じらんない! 自転車乗りつぶす!?」
 桃子のママチャリは、シートポストがくの字に折れ曲がっていた。

 自転車屋に行く道すがら、桜子は付いて来てくれた。

「桜子……」
「うん?」
「学校には復帰したみたいだけど、その……お父さんとのことは、ケリついたのか?」
「つくわけないじゃん」
「……じゃあ?」
「桃斗見て思ったのよ。グズグズ言ってたら、いっしょになっちゃうって」
「桜子もデブに?」
「まさか。でも、精神的にね……嫌だとか憎いとかだけ思っていたら醜くなるだけ。お父さんのこと許したわけじゃないけどね、逃げてばかりじゃね」
「そうなんだ」
 桜子はエライと思った。同時にシャクに触って、足元の小石を蹴る。
 フギャー!
 横丁から飛び出してきた猫にヒットする。
「ドジな猫」
「ほんと、桃斗に似てる」
 言い返そうとしたけど、100倍返ってきそうなので、口をつぐむ。

「おじさん、これ、中国製のパチモンだよね」
 シートポストを取り換えている自転車屋の親父に確認する。桃は国産と言っていたけど、こんな簡単にクラッシュする国産はないだろう。
「いや、日本製だよ」
「やっぱ、乗る人間が重すぎるんですよね?」
 桜子が言わずもがなのツッコミをする。親父は手を休めて、オレを見る。
「はずみってこともあるんだろうけど、まあ……お相撲さん用のシートポストに……」
 親父は手にしたシートポストを交換した。

 桜子は、何度目かの爆笑になった。

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高校ライトノベル・堕天使マヤ 第三章 遍路歴程・2『「い」の里より』

2019-01-14 06:45:05 | ノベル

堕天使マヤ 第三章 遍路歴程・2
『「い」の里より』



 「あ」の町から各停に乗って「い」の里駅に着いた。

 駅は平凡なアイランド型のホームで跨道橋から見える風景は一面の竹林だった。その先は跨道橋からは見えない。思えば「あ」の町を出てからは、ずっと竹林であったような気がした。
 駅前に案内板があったが、竹林の向こうに矢印があって「里に続く」とあるだけで、里そのものは描かれていなかった。

「しかたない、とりあえず歩くか……」

 竹林の道は、人がやっとすれ違えるほどの幅しかなく、道以外は大仏さんの背丈ほどに伸びた竹林が、どこまでも続いている。
 道は緩やかなカーブが不規則に続いて先も見通せない。鳥の声や小動物の気配はするが人がいるような気配はしない。
 やがて水の匂いがした、もう少しいくと、かすかに水の流れる音もしだした。

 堕天使どの、少し寄っていかれんか。

 後ろから声がしたので、マヤはびっくりした。
 振り返ると、通り過ぎた道に小さな枝道があり、声は、その枝道の向こうからしている。枝道の奥に小さな庵があった。
「こんにちは……」
 開けっ放しの縁からマヤは声をかけた「あれ?」っと思った。庵の中は六畳ほどの部屋で、真ん中に囲炉裏がある。自在鍵にかかった鉄瓶からは、ゆっくり湯気が上っていて、今まで人がいた気配がする。
「こっちじゃよ」

 振り向くと、無精ひげに渋柿色の衣、手には髑髏がカシラに付いた杖の坊主が立っていた。

「一休和尚……」
「まあ、お上がんなさい、茶など進ぜよう」
 一休和尚に促されて庵に入って炉辺に座ると、軽い目眩がし、マヤは一瞬目をつぶった。
 目を開けると、庵は果てしも無い広さになってしまい、開け放しだった障子さえおぼろの彼方になっている。ただ竹林の気配だけは変わらない。
「どうぞ」
「いただきます」
 無骨な手が差し出したお茶は、とても美味しかった。
「水がいいんじゃよ「い」の里で湧いた清水じゃでな」
「それが、この竹林に……」
「ああ、それが途方もない竹林を育てておる。あまりに途方もない竹林なんで、水は川になることもなく竹林の中で消え果てしまうがの。まあ、こうして堕天使どのに誉めていただければ冥加じゃな」
 それからマヤは、今までのあれこれを一休和尚と語り合った。
 日が中天に差し掛かった。
「あら、もうこんな時間。お邪魔しました……」
 マヤは失礼しようと思ったが、庵が広大無辺になってしまったので出口が分からなくなった。
「造作もない、立ち上がればよろしい」
 言われた通り立ち上がると、すぐ目の前が縁側だった。
「なるほど」
 納得して振り返ると、もうそこには一休和尚の姿も庵も無く、ただ竹林の中の空き地になっていた。

 竹林の道に戻り、一時間ほど行くと「い」の里にたどり着いた。

「おお、これは珍しい客人じゃ」
 里人たちは喜んでマヤを里長のところに連れていってくれた。里長は、マヤを「い」の泉に連れて行ってくれた。
「これが、この里の命の泉です」
「ああ、命の「い」の字なんですか」
「もう少し深い意味があります「い」はアルファベットでは「I」です「I」は変換すれば「愛」になります。わが里の清水は、竹林を通って川となり、それを世界中に流しているのです。この里と世界が平和なのは、この「い」の泉のお蔭だと、誇りに思っています」

 マヤは一瞬口を開きかけたが、あまりに平和そうで楽しげな里長の顔に言う意欲を失った。
 

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