大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・🍑MOMOTO🍑デブだって彼女が欲しい!・15『デブのバレンタインデー』

2019-01-21 06:58:24 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!

15『デブのバレンタインデー』  


 去年のバレンタインデーは充実していた。

 たくさんもらった訳ではない。成果は二つだった。
 一つはお袋から。神戸に本店がある洋菓子屋のエコノミークラス。
「はい、いちおう縁起物だから」
 と、デパートの紙袋から出して、登校前の俺を呼び止めて玄関先でくれた。
 紙袋の中には、同じ洋菓子屋のデラックスが覗いていた。親父にプレゼントするものであることは簡単に分かった。
 我が家でバレンタインにチョコをプレゼントするのは桃の役割であり、桃の最大の楽しみでもあった。
 桃が亡くなってからは、お袋がやっている。
 五十過ぎの母親が娘の跡を継いでバレンタイン……ちょっと引いてしまうところもあるけど、桃が亡くなったあとの我が家の絆を維持するために、親父もお袋も「子供じみている」ぐらいに懸命なんだ。
 もう一つは桜子からで手の込んだ手作りだった。
 ハートマークのチョコケーキの上に体重計が乗っていた。むろん、そのころ90キロを超えようとしていたオレへの警告の意味と、いらだちに替わりつつあった桜子の気持ちが現れている。
 二つとも、切羽詰った愛情が籠っている。

 今朝は起きると、テーブルの上にグリコのチョコとメモが置いてあった。

――グリコでごめん、お父さんの会社に行ってきます――
 
 大きな事件を抱えて動きがとれない親父のために捜査本部までチョコを届けに行ったようだ。それにしても、オレにはグリコとは……いっそ、何もない方が清々しい。

 パジャマのまま、冷凍ナポリタン大盛りをレンジにぶち込む。チンと音がして、レンジから取り出し、お皿にあける。フォークで巻き上げ、大口開けてパスタをガバガバ食べる。
 ポルコロッソだな……そう思って咀嚼していると声がかかる。
「千と千尋の、ブタになったお父さんだよ」
 テーブルの向こうで頬杖ついた桃がいる。
「敢闘精神と美意識はあるぞ」
「行動が伴わなきゃね」
「おまえさ、いいかげん成仏とかしないわけ?」
「兄ちゃんも、いいかげんダイエットとかは?」
「考えてる」
「考えてる人が、朝から大盛りナポリタン食べる? それに今日は日曜だよ?」
「だから、焼きおにぎりは止めてる」
 ウソだ、ナポリタンを平らげたら、食べるつもりでいた。
「それより、今年はチョコとか無しか?」
「夢の中のチョコなんかいらないって、去年、言ったじゃんか」
「だけど、気は心って言うじゃないか。幻のチョコならダイエットにもなるし」
「ああ言えばこう言う」
 その一言を残して桃は消えた。同時にスマホが鳴った。
「お、桜子から……」
――ハッピーバレンタイン♥心ばかりのチョコだよ♥――
 そうコメントがあって、下にスクロールすると、お袋のよりも立派なチョコの映像があった。
「お、これをくれるってか!?」
 その下に、待ち合わせ場所や時間がある……と思ったら、何もない。
 すると、間合いよく第二信! 
――リアルが欲しかったら、元の61キロに戻ってみろ!――
「くそ、桜子のやつ!」
「ハハハ、今さっき、気は心って言ったじゃんか!」
 と、桃の声がした。

 験直しに駅前のラーメン屋にでも行こうと着替えてスニーカーを履くと、ドアホンが鳴った。

 桜子がドッキリを気取って現れたか!

 勇んでドアを開けると、野呂と沙紀を真ん中に「デブの会」の諸君が立っている。

「「「「先輩、ハッピーバレンタインです!!」」」」」

 野呂は、その手に桜子の映像と同じ、でもリアルチョコが載っている。

 やっぱ、リアルに誰から頂くかということは重要だ……。 
 

🍑・主な登場人物

  百戸  桃斗……体重110キロの高校生

  百戸  佐江……桃斗の母、桃斗を連れて十六年前に信二と再婚

  百戸  信二……桃斗の父、母とは再婚なので、桃斗と血の繋がりは無い

  百戸  桃 ……信二と佐江の間に生まれた、桃斗の妹 去年の春に死んでいる

  百戸  信子……桃斗の祖母 信二の母

  八瀬  竜馬……桃斗の親友

  外村  桜子……桃斗の元カノ 桃斗が90キロを超えた時に絶交を言い渡した

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高校ライトノベル・堕天使マヤ・第三章 遍路歴程・9『「く」ちびる議会・2』 

2019-01-21 06:44:44 | ノベル

堕天使マヤ・第三章 遍路歴程・9
『「く」ちびる議会・2』
         

 ドローンなら通報されるがチョウチョはだれも気づかない。

 アメリカなどでは昆虫型のスパイロボットも実現の段階とか、「く」ちびる議会の警備は、ちょっと心もとない。
 AP法案は下院を通過し上院での審議に入っている。
「AP法案は戦争法案だ!」
「徴兵制復活に道を付ける危険な火遊びだ!」
「いったい、どこの国が我が国を攻めるというのか!」
「世界中どこへでもGA隊を出すなんて軍国主義だ!」
「総理と与党の被害妄想!」
「ファシズム復活に反対!」
 野党はレッテル貼りレベルのボキャ貧で「そうだ、そうだ!」「廃案、廃案!」のヤジは議会構内の蝉しぐれのように耳につくが、中身が無い。
「この法案は戦争抑止が第一の狙いであります。徴兵制復活の論は妄想です、高度に専門化した現代のGA隊は徴兵という士気においても能力においても時間と金のかかる方法はとりません。また、具体的な脅威はC国であります。C国は南C海、東C海への進出は我が国の脅威……」
 総理は、一歩踏み込んで具体的な脅威について述べ始めた。
「そういう考えこそ危険だ!」
「C国をますます頑なにするだけだ!」
「外交でやれ!」
「話し合いだ!」
 野党はあいかわらずやじりたおすだけだ。

「野党は、完全に聞く耳ないのね」
 傍聴席で人間の姿にもどって恵美がイラついたように言った。
「下院じゃ、野党の質問に八割の時間を割いたらしいけど、幼稚で感情的だよね」
 マヤが額の汗をぬぐいながらため息まじりで呟く。
「議会の中って暑いのね」
 恵美もブラウスの第二ボタンまで外して胸に風を入れた。すぐそばの記者が二人の方を向いた。向いた顔は左目が大きかったが、恵美を見ると鼻が大きくなり、目一回り大きくなった。
「……やな感じ」
 恵美は胸元を押え、スカートの裾を伸ばした。
「A新聞のエッチ!」
 マヤがそう言うと、記者は元のチグハグな顔になり、議場の演壇に目を戻した。見まわすと傍聴席の大半のマスコミ関係者がいびつな顔になっていた。
「ちょっと、マヤ!」
 恵美が指した議場を見ると、議員たちもメタモルフォーゼし始めていた。
「みんなくちびるだけになっていく……」
 議員たちのほとんどが大きなくちびるになりつつあり、それが答弁したり質問したりヤジったりしている。
「あ、こけた」
 体がリカちゃん人形ほどに小さくなり、大きなくちびるを支えきれず倒れる議員が出始めた。それでもくちびるたちはヤジることを止めなかった。

 自分たちまでおかしくなりそうなので、二人は再びチョウチョになって議会の外に出た。

「あ、デモ隊が……」
 デモ隊のみんなは全員くちびるになってしまっていた。大きなくちびるたちは汗の代わりによだれを垂らし、照り付ける日差しにカサカサになるのを防いでいた。そしてつばきを飛ばしながら歌い続けている。
「寄り添い始めてる……」
「融合して巨大な一つのくちびるになっていく……恵美、もう行こう」

 二人はチョウチョのまま「き」の街のはずれまで飛んだ。照り付ける太陽は小さなチョウチョの二人の水分を奪っていく。

「……もうだめ」
「がんばって、このままこの街にいたら、あたしたちまで変になる」
 マヤは、くじけそうな恵美を励ましながら街はずれまで飛んだ。しばらく飛ぶと眼下に神社が見えた。水の匂い、境内に泉があるようだ。
「ああ、生き返った!」
 人間の姿にもどり、備え付けの柄杓で気のすむまで水を飲んだ。
「この神社を抜けたら国境、「け」の町だよ」
「よし、行こうか!」

 国境にはアリス兎の着ぐるみが落ちていた。脱ぎ捨てて間が無い、中は汗で湿っていた。不思議に汗臭くはない。
「ファブリーズしてある」
「行儀のいい兎ね」
「ちがう、臭いで見つからないため……いや、その割にはすぐに目の付くところにある」
 マヤも着ぐるみの中身の意図は測りかねた。
「マヤ、国境で音がする」
「あ、国境が閉じる。急ぐよ!」

 着ぐるみの細工は足止めのためだったのかもしれない。
 二人は、ギリギリ国境の時空のゲートをくぐることができた。夏は盛りに向かおうとしていた。

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