大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・堕天使マヤ・第三章 遍路歴程・11『「こ」の寺町』

2019-01-23 08:38:28 | ノベル

堕天使マヤ・第三章 遍路歴程・11
『「こ」の寺町』
        

 

 列車は静かに「こ」の寺町駅についた。

 

「……なんか重い」

 恵美の呟きには「?」だったが、ホームに滑り込んで停車するまでの時間が長いので合点がいった。

 二両連結にしては停車するまでに時間がかかりすぎるのだ。なんだか、十両以上も連結されているようで、長いホームを目いっぱい使って、やっと停車した。それをブレーキがかかる前に読み取ったんだから恵美の感覚は鋭すぎるのかもしれない……思ったが、指摘すれば落ち込ませるだけなのだろうと、あいまいな微笑みを返すだけで済ませた。

 車内放送がされているようだが、マヤの車両には必要がないのかスピーカーは沈黙している。くぐもった車内放送は意味までは分からないが、なんだか注意事項を言っているように思えた。

 車内放送が終わって、やっとドアが開いた。

 連結した車両からどよめきが起こって、信じられないくらいの人たちが下りてくる。

 連結されていたのは十両以上もあって、全部で二十を超えるドアから一斉に出てくる……みんな若い……というか中学生だ!

「中坊列車?」

 恵美も小柄な女子高生だが、恵美よりも幼い制服姿の中坊たちがゾロゾロと改札に向かっていく。

「高校の入試でもあるのかなあ?」

「この子たち中三には見えないよ」

「ちょっと君たち、どこへ行くの?」

 赤いホッペの女子に聞く。赤ホッペは立ち止まりはしないが、それでも答えてくれた。

「十三参りです」

「十三参り?」

「はい、十三歳になったら虚空蔵菩薩さまにお参りに行くんです、虚空蔵菩薩さまは知恵とか記憶力を高めてくださって、勉強できるようにしてくださるんです。じゃ、いいですか」

 急いでいるんだろう、ペコリとお辞儀すると、急いで十三参りの行進の列に混じっていった。

 ほんの三十秒ほどでホームは人気が無くなり、喧騒は駅舎の向こうの参詣道に移っていった。

 

 プシューーー

 

 列車が一息ついたような音をさせて、最後尾の車両から車掌さんが下りてきた。

「あなたたちは、十三参りにはいかないんですか?」

「ハハ、十三歳はとっくに過ぎちゃったから」

「ああ、そうですか」

 声にピンときた。

「車内放送してたのは車掌さんですね?」

「ええ、お参りに着いての注意事項をね……」

「注意事項?」

「え、まあ、よく考えてからお参りしてください的な」

 あいまいな言い方には、なんだか諦めの響きがあるように感じる。

「次の列車は三時間後です。では、じぶんはこれで」

 車掌さんは制服に相応しい実直な足どりで行ってしまった。

 

 出発まで「こ」の寺町を歩く。

 

 一休さんのような小僧さんと目が合った。

「あなたは……」

 一発で正体が分かるマヤだ。

「ハハ、堕天使さんにかかっては仕方がないですね」

「えと、ハナマルキのCMキャラ?」

 恵美が指を立てる。恵美が得意になった時のポーズだ。トンチンカンな答えだが無理もない、小僧さんは味噌屋の前に立っていたのだから。

「虚空蔵菩薩さんよ」

「え、あ、失礼しました!」

「持て余してるんですね」

「ハハ、知恵とか記憶力とかだけ伸びてもねえ……しかし、授けないわけにもいかなくて……仕事は分身に任せてあります。そうだ、ここで会ったのも何かの縁です、この店でお味噌汁でもいかがですか」

 味噌屋さんにはイートインがあって、お味噌汁がいただけるようだ。

「九州の味噌天神さんが出していらっしゃるんですよ、なかなかの味です」

 

 店内には優しそうなおじさんが店番、一杯のお味噌汁にホッとしたマヤと恵美。

 ふと、おじさんの横顔が菅原道真さんに見えたが、黙って微笑むだけにしておいたマヤでありました。

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高校ライトノベル・🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!・17『最新の鞄やろー!・1』

2019-01-23 06:36:28 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!

17『最新の鞄やろー!・1』  


「だから、これは違うんだって……」

 何度言っても通じない。
 仕方がない、夕方の人気のない校舎。その廊下で意味ありげなゴミ袋とブラジャーを持っていたら変質者と思われる。
 だから桜子は逃げた。で、駆け下りた一階でつまづいて、追いかけたオレもつまづいて、倒れた桜子を襲うような格好で覆いかぶさってしまった。
 桜子一人の誤解を解くのも大変なのに、通りがかった八瀬にも見られて、大誤解されてしまう。
 やっと撚りが戻りかけている彼女と親友を一度に失うところだ。

「とにかく! とにかく! とにかく! 現場を見てくれよ!!」

 目玉が飛び出しそうに、喉がひっくりかりそうなぐらいに叫んで、なんとか階段下の旧演劇部の部室まで、二人を連れて行く。
「ほら、こんな状態なんだ!」
「そうだったのか………」
「そうだったのね………」
 期待していた反応だが、トーンが違う。
「重症だぜ、百戸……」
 桜子は、ショックで声も出ないようだ。
「下着泥棒やって、こんなところに隠していたのか……」
 親友の目は、もう怒ってはいなかったが、覚せい剤使用の現場を見たような情けなさだった。
「違うって、これは、昔の演劇部の……」
 そこまで言って気が付いた。押し花のようにペッタンコになった下着は、どれも新品だ。
「新品フェチなの…………?」
「違うって!」
「ちょっと様子が変だ……」
 八瀬は、やっとおかしいと思い始め、自分で下着の地層を発掘しだした。
「これは……」
 段ボールに貼られたメモに気づいた。

――第48回コンクール用小道具・山のようなインナー(取り扱い注意)――と書かれている。

 さらに発掘すると、袋に入った写真が出てきた。
「舞台いっぱいに下着を吊るしてる……」
「おお……タイトルそのものが『山のようなインナー(取り扱い注意)』なんだ」
「変なタイトル」
「……でも、これって県大会で優勝してるんだ……」
 写真の一枚は、優勝のトロフィーと賞状を持った三人の演劇部員。三人とも女子だということを除けば、デブとホドホドとヤセッポチという点で、オレたちと似ている。
「このおデブさん、主役だったんだ……」
 桜子が写真を繰っていて結論付けた。確かに、どの写真にも下着の山の中で熱演するデブ子が写っている。
「……おい、これ」
 八瀬が、折りたたんだ模造紙を取り上げた。

 模造紙は会場の一言コーナーに貼られたもののようで、カラフルなマジックでいろんな感想が書かれている。

「評判よかったみたいね、誉め言葉ばっかり」
 自分の事のように、桜子の目が優しくなった。こういう桜子が好きだ。
「感想のところどころに、赤丸がしてあるなあ……」
「ほんとだ……」
 赤丸は、言葉ではなく、文字に付けてある。
「普通、重要な言葉にアンダーラインとかするわよね……」
 数分眺めていて、気が付いた。赤丸の字を繋げると、こう読める。

 さ・い・し・ん・の・か・ば・ん・や・ろ・ー!

「最新の鞄やろー!」ってなんだろう?……三人は顔を見合わせた。 
 


🍑・主な登場人物

  百戸  桃斗……体重110キロの高校生

  百戸  佐江……桃斗の母、桃斗を連れて十六年前に信二と再婚

  百戸  信二……桃斗の父、母とは再婚なので、桃斗と血の繋がりは無い

  百戸  桃 ……信二と佐江の間に生まれた、桃斗の妹 去年の春に死んでいる

  百戸  信子……桃斗の祖母 信二の母

  八瀬  竜馬……桃斗の親友

  外村  桜子……桃斗の元カノ 桃斗が90キロを超えた時に絶交を言い渡した

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