🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!・2
『桜子・1』
この二日、桜子は学校を休んでいる。
一昨日は、登校途中に追い越され「お、久々の桜子じゃん!」と八瀬が声をかけて、怖い顔で睨まれた。
あの時は制服を着ていたけど、学校には来ていない。
昨日は私服で、学校に行くのとは反対のホームに居たのを目撃されている。
正直気になる。
桜子は真っ当な奴だ。保守的って言ってもいい。小学校からアナウンサーになりたいという夢を持ち続け、所属している放送部のコンテストでは、二年連続県大会で個人優勝している。もちろん、それなりの大学に進む準備もしていて、成績はトップクラスだ。
よく似合っているツインテールも、オシャレという感覚じゃなくて、子どもの時のスタイルを変えられないでいると言った方がいい。
桜子の欠席は昼には分かる。この一年、昼休みの放送は、桜子がアナウンスしているからだ。
「お、今日も桜子のアナウンスじゃないぞ」
八瀬がデザートのラーメンをすすりながら言う。
「一年生を訓練のためにやらせてるのかもな」
デザートの大盛りラーメンのスープをすすりながら答える。
「いいのか、ずっと付き合ってたのに?」
八瀬はスープは飲まない。程々ということをよく分かっている。
「元カノって、思っただけで目が三角なんだぜ」
「でも、お前の気持ちは……」
「男の値打ちを目方で測る奴は、オレから願い下げだ」
去年の夏、体重が90キロを超えた時に、桜子には絶好宣言をされている。
「自分の健康管理もできない男なんてサイテー」
ニベも無かった。
もっとも、いきなりの絶好宣言だったわけじゃない。3キロ増えた時に気づかれ、2キロごとに注意され、10キロ増えたときには、いっしょにジョギングまでしてくれた。ライザップのパンフを渡されたのが最後通牒だった。
「でもさ、体力とか運動能力に衰えはないんだぜ」
「なによ、開き直って。ジムで計測したわけでもないでしょ! 気休めとか誤魔化しとかは言わないで! 90超えたら絶交だからね!」 で、二学期の始業式にオレの姿を見て、桜子に保健室に連れていかれ、体重計に載せられ、針が90を超えた時に宣告された。
「自分の健康管理もできない男なんてサイテー……絶交ね」
あれから20キロも増えたんだ、何をかいわんやだ。
終礼のチャイムが鳴るのを待って教室を飛び出した。
世界史の授業で手をあげたら、バツッ! と音がしてブレザーの脇が破れた。オフクロも修復を諦めたので、入学以来4着目の制服を買いに行く。
「いやあ……百戸君は3着目ね」
「いえ、4着目です」
制服屋の小母さんの記憶を正直に正してしまう。正直という美点も、時にはみじめだ。
採寸を終わって駅に向かう。
昨日よりはましだけど、寒いので、市役所の構内をショートカット。玄関わきの喫煙コーナーが目に入る。
「あれ……?」
腰から上をスモークされたガラスの下、見覚えのあるハイカットスニーカーが目に留まった。
「桜子のスニーカー……」
そう気が付くと、ドアが開き、桜子がビッコを引きながら煙と一緒に出てきた……。
🍑・主な登場人物
百戸 桃斗……体重110キロの高校生
百戸 佐江……桃斗の母、桃斗を連れて十六年前に信二と再婚
百戸 信二……桃斗の父、母とは再婚なので、桃斗と血の繋がりは無い
百戸 桃 ……信二と佐江の間に生まれた、桃斗の腹違いの妹
百戸 信子……桃斗の祖母 信二の母
八瀬 竜馬……桃斗の親友
外村 桜子……桃斗の元カノ 桃斗が90キロを超えた時に絶交を言い渡した