大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!・9『新しい制服』

2019-01-15 06:49:22 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!・9
『新しい制服』
 

 今日から新しい制服だ。

 新しいと言っても、新入生だとか転校生というわけじゃない。
 このデブ物語を最初から読んでくれている人には分かると思うんだけど、先週、部屋から出ようとしてブレザーのボタンが吹っ飛んだ。
 ブレザーが小さくなった……へいへい、正直に言うと、増える体重が110キロの大台に突入した。
「横綱はれる貫録だわね」
 オフクロがデリカシーのない誉め方をしながら写真を撮る。
「せめて、ラグビーの日本代表ぐらいにならない?」
「相撲は日本の国技よ」
 フォローになっていない。
「あ、ハンカチ……」
 ハンカチを忘れたふりをして桃の部屋に行く。姿見で自分のナリを確認するためだとは言えない。

 桃の部屋は桃が生きていたころのままにしてある。

 淡いアイボリーをベースにした部屋は、ちょっと大人びていると言っていい落ち着きがある。中学の入学祝に、桃が買ってもらった姿見のカバーを取る。二歩下がって、姿がおさまらないので、もう一歩下がる。
「う~ん……ラグビーの日本代表には見えないか」
 腹を引っ込めて胸を張ってみる。
「これならいいか……」
 ヌフフ、ちょっと目の垂れたところなんか五郎丸に似ていなくもない。目方が増えたといっても、滲み出る男の魅力ではある。

「どうかなあ……」

 姿見に映った桃が、ため息とともに言う。
「そんな息吸ったままじゃ、いられないでしょ」
「そんなことないぞ」
 言葉とともに息が漏れると、もとの横綱にもどってしまう。
「アハハ、でしょ?」
「笑うな!」
 振り返ると、桃の姿がない。
「あたし、ここ」
「なんで鏡の中にいるんだよ」
「だって、兄ちゃん邪魔なんだもん」
 なるほど、六畳の部屋に二人はきつそうだ。
「普通の二人なら、いけるんだよ。でも、その体格じゃね」
「幽霊なら、なんとかしろよ」
「無茶言わないで、幽霊でも部屋を広げたりはできないよ。自分のデブをなんとかしなさいよ」
「殺すぞ」
「ハハ、もう死んでるもん!」
「…………」

 返す言葉も無く、ハンカチを持ってリビングに下りる。

「お父さんから写メだわよ」
 オフクロがスマホを見せる。画面にはデブの警官が写っていた。
――警視総監賞五回の堂本巡査部長!――と書いてある。警察にも優秀なデブがいるという慰めなんだろう。
 親父は捜査一課長という大変忙しい職務についている。けれど、こまめにオフクロとオレとの時間を作ってくれたり、折に触れてメールをくれたりする。
 でも、この堂本巡査部長はいただけない。

 これはドラマに出てきたデブタレントだ。堂本という優秀なデブ警官は実在するんだろうけど、急には画像が見つからなかったんだろう、適当にデブ警官で検索して送ってきたようだ。

 ちょっとフレッシュな気持ちで学校に行ったが、新しいブレザーに気づいたのは八瀬竜馬だけだった。
 廊下で桜子に出会ったので声を掛けてみた。
「桜子!」
「なに?」
「あ……特に用はないんだけどな」
「用が無きゃ、声かけないで。これから体育なんだから」
 迷惑そうに言うと、プイと顔を背けて行ってしまった。

 どうにも凹んでしまう月曜日だった。 
 

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高校ライトノベル・堕天使マヤ 第三章 遍路歴程・3『「う」の海から』

2019-01-15 06:35:59 | ノベル

堕天使マヤ 第三章 遍路歴程・3
『「う」の海から』
        



 気が付いたら海の駅のホームに立っていた。

 電車に乗っていた間の記憶が無い。堕の字が付いても天使、これではいけないと思い記憶をたどるが、前の駅で電車に乗った時から今までの記憶が抜けている。

「どうしたんだろ、あたし……」

 思い出そうとすると、圧倒的な海の圧力に気おされた。圧力は潮風であり、磯臭さであり、潮騒である。
 そして、それを超えて迫ってくる圧倒的な海の存在感。
 それは、視覚や嗅覚、聴覚以外の魂に直接響いてくる圧であった。
 駅は海に面して建っているので、首を九十度捻れば、その圧倒的な海を全身で感じられるのだが、あまりの「圧」の強さに、マヤは一瞥しただけで、海に背を向けて、陸の町を目指した。

 昼前というハンパな時間のせいだろうか、町にはほとんど人影が無かった。

 家の窓ガラスに映る自分を見て、いつの間にか最初に擬態した摩耶のセーラー服姿になっていることに気づいた。
「いつから、この姿に……」
 遍歴が始まった時からか、この窓ガラスに映る寸前か、はっきりしない。

 不意に潮風が強くなり、セーラーの襟がセミロングの髪といっしょに翻った。
 襟をもどす寸前に、人の声がした。襟をもどすと聞こえなくなったので、もう一度襟を立てて耳を澄ませてみた……もう声は聞こえなかったが、海岸通りの向こうの町はずれに声の残響がしていた。
 左半身に海の圧を受けながら海岸通りを歩き、そこを目指した。途中から数人の町の人とすれ違ったが、マヤには無関心だ。

 小さな岬の向こう側に、それはあった。

 それは平屋の貧しい漁師の家なのだが、偏屈者の老人の孤独の家のようにも、小さな漁師町の鎮守のようにも見えた。
 海側のバルコニーに回ると、その老人がいる。天使のマヤには分かっている。
 躊躇したが、一つ深呼吸してバルコニーに回った。
「こんにちは」
 返事が無いのは分かっていながら、マヤは挨拶した。老人はロッキングチェアーに揺られながら眠っている。

 ライオンの夢……みてるんだ

 一瞬目をつぶった。

 夢の深さと大きさに圧倒されたからだ。

 しばらくすると人の気配がした。中年の男がナースを連れてやってきた。

「あのう」
 声を掛けたが、途中で止めた。男にもナースにも自分のことが見えていないと分かったから。
「今日も起きている姿は見られないな」
「お爺ちゃんが起きているところを見た人っていないんでしょ」
「ああ、脈と血圧を測って……おれが子どものころは、まだ起きていることもあったんだけどな」
「日に何時間かは起きてるはず、でなきゃ、この健康は保てないもの……」
「そうだよな。飯も食うだろうしトイレにも行かなきゃならんだろうし、それに、この体は今朝まで漁に行ってたように壮健だ」
「血圧も脈拍も正常、でも、もう放置できないんですね」
「ああ、こう寝たきりじゃな……福祉課に連絡しよう」
 男はスマホを取り出したが繋がらない様子だった。
「繋がりませんか……あらいやだ、あたしのも」
「いつも、こんなことはないんだけど……すまん、通じるとこまで出て福祉課に連絡してくれないか」
「はい」

 ナースが出ていくと、男は老人の足許に座った。

「……昔は漁から帰って、こんな風にして海を見ていたもんだよな……ん、キミは?」
 男はマヤの姿に気が付いた。
「さっきから、ずっと居るわ。あたし、お爺ちゃんの曾孫」
 マヤも不思議だったが、とぼけて上から言った。
「そう、だったら……」
 男は、言葉を言い切る前に少年の姿になっていた。
「お爺ちゃんの言うこと、少しは分かる?」
「うん、漁に行っているときは良く分かる。まあ、漁の話しかしないけど。陸に上がったら、こんな調子で、ほとんど寝言だけどね」
「どんな寝言?」
「戦争のことや若い日のこと……おいらにゃ、よく分からないけどね」
「そうなんだ……もう何十年かすると、夢はライオンの姿になっちゃうけどね」
「ライオン?」
「うん、ライオン……」
 少年は、どう受け止めていいか分からずに、老人の方を見た。
「あ……!」

 なんと老人の姿は急速に薄くなり、一瞬光ったかと思うと、無数の光の粒になって消えてしまった。
 同時に、マヤの姿も少年には見えなくなり、少年は元の男の姿にもどっていった。

 マヤは人気(ひとけ)がしない町にもどり、電車に乗った。
 漁師町の人たちは、廃線になった駅で電車の音がするので、びっくりして駅の方を見ていた……。

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