大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!・4『桜子・3』

2019-01-10 07:05:38 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!・4
『桜子・3』



「定年を前に、欲が出たんだよ」

 クリニックの待合で、桜子はポツリと言った。
 診察の結果は捻挫だった。歩いては帰れないので、桜子は、ためらった末に父親に電話した。「多分ダメ」と言いながら電話すると、意外に「直ぐ迎えに行く」との返事だった。

 桜子は待合で父親の話をし始めた。

「いまさら転勤しても退職金が増えるわけでも給料が上がるわけでもないの……肩書が課長になるだけ。そんな見栄の為に、高三を目前に転校、やってらんないわよ」
「それで、ちょっと変だったんだな……」
 桜子の唇がわなないた。取り返しのつかない毒を吐きそうなので、ロビーの自販機に向かう。
「ビターあるかなあ……」
 うまい具合に、B社のビターコーヒーがあった。桜子の定番だ。
「……ありがと……こういう気配りはできるのにね」
 ビターコーヒーを受け取りながら横目でオレを見る。別の毒を吐かれそうだ。
「無理かもしれないけど、体重落としなよ。そんなんじゃ、彼女なんかできないわよ」
 缶コーヒーを飲みだすと、マフラーに隠れていた喉があらわになる。桜子のチャームポイントの一つ。
「なに見惚れてんのよ」
「見惚れてなんかねーよ……」
「そんなグビグビ飲まないでよ。桃斗の喉って変態ブタみたいだよ」
 変態ブタはないだろ。
「さっきオンブしてた時は、そんなにヤラシクなかったのに、今のヤラシ過ぎ。彼女だけじゃなくて友だちとかも無くすよ」
「うっせ。八瀬とかちゃんと友だちだし」
「八瀬も変態だし……」
 桜子は、マフラーをずり上げて、コーヒーを飲む。横目で睨みながら。
「こんどの学校、女子高なんだよね……」
「なんで女子高?」
「あたしって、成績いいから。絞ると、そうなっちゃうの。県で二番目の進学校。一番は共学だけど下宿しなきゃいけないから」
「……そうなんだ」
 それっきり、二人とも黙った。

 待合の鳩時計が5時を知らせはじめた。

「あ、鳩時計なんだ」
「ちょっと太り過ぎの鳩ね」
 鳩は、5つ目のパッポを鳴いて、ポロッっと落ちた。
「「あ……」」
 二人の声が揃って、看護師さんが出てきた。
「院長先生、また鳩が落ちました……やっぱ、この代用品のブタ鳩だめです、ちゃんと修理に出さないと……」
 あろうことか、看護師のオネエサンは、鳩をごみ箱に捨てた。
「可哀そう……!」
 そう言う割には、桜子の目は笑っている。女って無慈悲だ。
「ブタでもさ、紅の豚のポルコロッソみたいなのもいるぞ」
「開き直るんだ……すみませーん、このブタ鳩もらってもいいですか?」
――どーぞ――
「そんなもん、どーすんだよ?」
「今日の記念」
「記念?」
「捻挫したの初めてだから。戒めよ」
 桜子がポーチにブタ鳩を入れたところで自動ドアが開いた。

「あ、お父さん」

 桜子のお父さんは、オレに礼を言って、こう続けた。
「今日はありがとう。よかったら車で家まで送るけど?」
「あ、どうも……」
「いいよ、桃斗とは、そういう付き合いじゃないから」
「桜子、救けてもらっておいて……」
「いいですお父さん、ボクこれから行くとこありますから」
「そう、じゃまた。ほんとうにありがとう。桜子、肩に掴まりなさい」
「あ、うん、ありがと」
 父娘は、玄関のドアから出て行った。

 一呼吸おいてクリニックを出る。これから行くとこなんかないのに……。

 ブレザーの襟を立てて駅に向かう。

 スマホが鳴った……親父からだ。

――仕事が早く終わった、駅前まで出てこい。お母さんと3人で飯を喰おう――
 少し気が重いけど――了解――と、返事を打つ。

 信号を渡ったところで、またスマホ。桜子からだ!

――100キロ以下になれ、友だちぐらいには戻ってやるぞ――


 

🍑・主な登場人物

  百戸  桃斗……体重110キロの高校生

  百戸  佐江……桃斗の母、桃斗を連れて十六年前に信二と再婚

  百戸  信二……桃斗の父、母とは再婚なので、桃斗と血の繋がりは無い

  百戸  桃 ……信二と佐江の間に生まれた、桃斗の妹

  百戸  信子……桃斗の祖母 信二の母

  八瀬  竜馬……桃斗の親友

  外村  桜子……桃斗の元カノ 桃斗が90キロを超えた時に絶交を言い渡した

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高校ライトノベル・堕天使マヤ 第二章・クオバディス ドミネ・3『海軍鹿屋航空基地・3』

2019-01-10 06:45:09 | ノベル

堕天使マヤ 第二章・クオバディス ドミネ・3
『海軍鹿屋航空基地・3』
          


 一万機の紙飛行機のゼロ戦は、三十分ほどで九州沖を西へ欺瞞進路をとっている戦艦大和らに追いついた。

「どこに、あれだけのゼロ戦があったんだ……!?」
 有賀艦長以下三千名の乗組員たちは、頼もしくも、夢をみるような思いだった。
 一万機のゼロ戦は、さすがに壮観で、まるで雲の塊のように見えた。
「長官、艦長、あのゼロ戦の編隊は電探に映っていません……」
 電測室から報告をうけた参謀が不思議そうに言った。
「発光信号で質してみましょうか」
 通信参謀が、ため息交じりに意見具申した。
「あれは、神が我々を励ますために見せてくださっている幻だろう。ありがたく拝見していれば、それでいい」

 一万機のゼロ戦は、あっという間に南南東方向に消えていった。その十分後には米軍の哨戒機に大和は第二艦隊もろともに発見された。大和は三式対空弾で対抗したが、二機の哨戒機は主砲の動きを察知して、悠然とかわしていった。
「発見されたな。欺瞞進路を止め、真っ直ぐ沖縄を目指そう。艦長、進路を南へ」
「進路を沖縄に向けます。各艦に連絡、進路南南東、取り舵八十!」
「昼前には米軍の攻撃を受けるだろう……」
「はい……」
 艦橋での会話は、伊藤長官と有賀艦長の諦観した会話でしめくくられた。

 ニミッツ太平洋艦隊長官は、大和との戦闘が最後の日本艦隊との戦闘になることと絶対的な勝利を確信していた。
「勝利は確実だろうが、極力攻撃隊の損失を押えるように、各攻撃隊に伝達」
 ニミッツの落ち着いた命令は、余裕からではなかった。沖縄を包囲してからの神風攻撃による被害がバカにならないので、抑制的ではあるが、真剣であった。

「敵編隊、直上!」

 空母エセックスの見張り員が発見した時は手遅れだった。
 一万機の爆装ゼロ戦はレーダーに映らないので、千五百隻に及ぶ米英艦隊は、ほとんどの艦艇が自分が攻撃に晒されるまで気が付かなかった。
 ゼロ戦隊は、空母や戦艦などの大型艦には九機、駆逐艦や揚陸艦などの小型艦艇には一機ずつが同時に、突入角八十という迎撃不能な角度で突っ込んできた。

 沖縄の海が燃えたように見えた。

 特に大和を始めとする日本艦隊への攻撃のため甲板上に攻撃隊の準備をしていた空母たちは三十分余りで小型艦艇らとともに全艦撃沈された。
 一時間後、海に浮いていた戦闘艦艇は十隻に満たない大破した戦艦だけだった。
 ニミッツは戦死。スプルーアンスは辛うじて輸送船に移り指揮を継承した。継承はしたものの戦闘艦艇は完全にやられてしまった。残った千機あまりのゼロ戦が、大破漂流している戦艦にとどめを刺し、海に浮いているのは戦闘力のない輸送船五百隻あまりに過ぎなかった。

「敵の海上戦闘力は壊滅しました。これで大和以下第二艦隊は無傷で沖縄に到達できます」
 マヤは鹿屋基地司令に天気予報が的中した程度の気楽さで言った。
「君たちは、いったい……」
 基地司令は、あとの言葉が続かなかった。
「わたしたちは、この戦争を終わらせるために来たんです」

 この半日に満たない戦闘で、米英海軍は十万人以上の戦死傷者を出していた。
 だが、マヤの仕事は、まだ、ほんの入り口に差し掛かっただけであった……。

 

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