大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!・10『百戸先輩!』

2019-01-16 06:56:26 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!

10『百戸先輩!』  


 うっかり眠ってしまった。

 放課後は、たいてい真っ直ぐに下校している。
 しかし、体重が増えるに従って、満員電車が億劫になってきて、この頃は時間を潰してから校門を出る。
 今日は、階段下の旧演劇部の部室で横になっているうちに上と下の目蓋が講和条約を結んでしまった。

「殺すぞ、デブ!」

 びっくりして目が覚めた。
 桜子などから眉をひそめられることはあったが、デブが原因で「殺すぞ!」と言われたことは無い。続く「デブはキモイんだ!」というフレーズで、罵倒がガラスの向こうから聞こえてくるのが分かった。どうやらオレにかけられた言葉じゃない。
 ガラスの向こうには、どうやらアベックが居る。アベックは当然うちの生徒で、男がデブ(オレほどじゃないけど)、女は、ちょっと目には可愛いが、どうも人柄はイマイチ。

 バシッ!

 デブが張り倒される音がした。自分が張り倒されたような気になって、思わず目をつぶる。

 女の気配が消えてから、外に出てみた。オレほどではないデブが悄然と立ち尽くしていた。
「ほら、ティッシュ。唇切れてっから」
 オレほどではないデブは、ティッシュを渡されて初めて怪我に気が付いた。
「すみません……」
 オレほどではないデブは、ノロノロと唇を拭くと、少し迷ってからティッシュをポケットに詰め込んだ。

「デブ同士のヨシミだ、話を聞かせろよ」

 昼休みでもないのに一人で食堂に行くのは躊躇われるが、デブ二人になると平気になり、ソバの大盛りをトレーに載せて席に着いた。
「あんなDV別れちまいなよ、ズルズル……」
「はあ、ズルズル……ぼく一年B組の野呂っていいます。ズルズル……」
 オレほどではないデブ、いや野呂は、開口一番のアドバイスには反応しないで、自己紹介を始めた。むろんデブらしくソバを啜りながら。
「沙紀は悪くないんです。ズルズル……」
 野呂の食べ方は勢いがありすぎ、ソバの汁が盛んに飛び散る。
「もうちょっと穏やかに食えよ。ズルズル……ズー……」
「デブになったぼくが悪いんです。デブは犯罪ですよ。ズルズル……ズー……」
 ソバを食べるペースは同じで、いっしょに出汁を飲み干す。二人の啜る音が食堂一杯にこだまする。
「デブは感心しないけど、うまくいかないことを、全部デブのせいにするのは間違ってるぞ」
「沙紀はいい娘なんです。ああやって、ぼくを励ましてくれているんです」
「それは違うぞ」
「百戸先輩。先輩は希望の星です」
 話がかみ合わない。で、二つびっくりした。オレの名前を知っていることとオレを希望の星などと言うことだ。
「先輩は有名人です。デブでありながら気後れしたところがありません。沙紀も百戸さんのデブは別格だと言っています」
「そんなことはない。デブはオレ自身気にしてるし、周りの人間からも、いろいろ言われてる」
「先週も、持久走で倒れた女子を救けていたでしょ。その前は市役所で放送部の外村さんを救けていたし」
「そんなことまで知ってんのか?」
「百戸さんをデブ会の会長にしようって話もあったんですけど、ぼくらは、とても先輩の真似はできませんから、先輩を希望の星に仰いで、ダイエットに励みます! で、ぼくを弟子にしてください!」
「で、弟子!?」
「お願いします!」
「弟子ってのは……」
「じゃ、とりあえず身近な後輩……それではどうでしょう?」
「あ、ま、それくらいなら」
「よかった!」
 そう言うと、野呂は大きく手を振った。なんぞやと振り返ると、先ほどの沙紀が三人の女生徒を引き連れて食堂の入り口に立っていた。
「沙紀、百戸さんとお近づきになれたよ!」
「よかった、体張っただけのことはあったね!」
 野呂は、沙紀と取り巻きがキャーキャー言う中に加わって、合格発表のようになった。
「それじゃあ、これからもよろしく!」
 沙紀が音頭をとると、みんなの声が揃った。

「「「「「「「「百戸先輩!」」」」」」」」

 いったい何が起こっているんだ!!?? 

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高校ライトノベル・堕天使マヤ 第三章 遍路歴程・4『「え」の電に乗って』

2019-01-16 06:36:17 | ノベル

堕天使マヤ 第三章 遍路歴程・4
『「え」の電に乗って』
            


 海の駅からは支線の「え」の電に乗った。

 「え」の電は昔の江ノ電に似た緑と薄緑のツートンカラーの二両連結、ゆっくり海沿いを走っていたかと思うと、すぐにトンネルに入る。車内が一瞬暗くなり、チカチカと車内灯が点滅しながら点いた。

――江ノ電なら極楽寺のトンネルだな、抜けたら長谷かな……――

 極楽寺のトンネルなら、ほんの数十秒で抜けてしまう。しかし、そのトンネルは一向に抜ける気配が無かった。

 微かに人のため息が聞こえる。

 車両の前の方にマヤと同じセーラー服を着たセミロングの子が座っている。
――この子は……――
 思った時には目が合っていた。電車の揺れがひどくなったが、マヤは立ち上がって車両の前の方に行った。
「あたしマヤ、あなたは?」
「あたしは…………あたし」
 少し面倒な子のようだ。電車の揺れがさらにひどくなった。
「同じセーラー服、あなたもお遍路さんなんだ」
「同じ……胸のワッペンが少し違う」
「あなたは人間、あたしは天使だもの」
「天使?」
 揺れが少し収まった。
「堕天使だけどね」
「そうなんだ……」
 収まった揺れが戻ってきて、マヤは、揺れにことよせて向かいの席に座った。
「分かっていると思うけど、このトンネルは、あなたの心のトンネル。あなたが決心しなきゃ永遠に抜けられないわよ」
「わたしのトンネル?」
「怖がっていないで、トンネルの外に出よう。あたしが付いていてあげるから、ね、恵美ちゃん」
「……どうして、あたし、まだ名前言ってないのに」
「堕が付いても天使だから……あ!」
「キャ!」
 電車が大きくカーブを切ったので、マヤは振り飛ばされて恵美に抱き付く形になってしまった。
「ご、ごめんね」
「ううん、いいの……しばらくこうしていて」
「う、うん」
「マヤさん温かい……」
「恵美ちゃん、こんなに冷たくなっていたんだね……」

 いつの間にか、車内は不用意に開けた冷凍庫のように凍り付いて、吐く息が蒸気のように白い。
 マヤは恵美を抱きしめてやった。マヤも手を伸ばしてくる……揺れが収まってきた。

「これでいい……トンネル出よう、駅には停まらなくていいから」
「うん……マヤさん」
「うん?」
「胸、大きいんですね」
「ど、どこ触ってんのよ(*ノωノ)!」
「ウフフ……」
「アハハ……」
 二人は抱き合ったまま笑う。そして、直後トンネルを抜けた……。
 

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