大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・144『ニッパチ豊胸手術を受ける』

2023-02-02 15:25:35 | 小説4

・144

『ニッパチ豊胸手術を受ける』お岩  

 

 

 ロボットの最大の武器は並列化だよ。

 

 並列っていうのは、ネットを通して個体の情報や経験が全体で共有されるってことさ。

 例えば、宅配をしているロボットが、道路の穴ぼこに気が付いたとする。

 ロボットは、穴ぼこは本格的な修理をしないと通れないと判断して、自治体の道路課に通報。同時に、その情報は、会社のコンピューターにも送られ、全部の宅配ロボットは、その道を避けて配達するという具合。

 戦闘員のロボットなら、個体の戦闘経験や情報が瞬時に共有されて、メインコンピューターが最適な戦闘方法や戦術を編み出し戦闘態勢が常時最適化されるという寸法さ。

 逆に、敵のネットに入り込めれば、一瞬で敵の情報を上書きできる。極端な例えだけど、全員に自爆を上書きできたら、何万と言うロボット兵を一瞬で破壊できる。

 むろん、現実には、情報は高度に暗号化されているし、侵入してきた者を逆に書き換えたり破壊したりすることもできる。

 200年前の第五次産業革命でネットが実用化された時から、ファイヤーウォールとかCAB(counterattack barrier=反撃防壁)とか呼ばれて、ロボット最大の特徴、あるいは武器と言われている。

 これを捨てるということは、ロボットは孤立して、いっさいの連携がとれなくなる。

 宅配ロボットなら、他のロボットも、その穴ぼこを見つけてからでしか回避できないことになるし、戦闘ロボットなら、同じ手に引っかかって破壊されるということになる。23世紀的な感覚では、考えられないほど間抜けな状況に陥る。

 

 エッヘン!

 

 ニッパチが昨日よりもワンサイズ豊かになった胸を張った。

「ひょっとして胸に?」

「アハハ、本人の希望でね」

 担当医的存在のメグミが目をしばたたかせながら説明してくれる。

「ロボット一万人分の情報は莫大な量でしょ、それにCABも二重に掛けたし、ハードも合わせると、今までのボディーじゃ収まらなくて。合理的に収めようとしたら、元の作業機械か、ぜんぜん別のボディーってことになるから」

「これが、いちばん合理的なんですよ、お岩さん」

「ニッパチ、ちょっと起き上がってくれる?」

「うん、いいですよ」

「身長も高くなった?」

「8センチ伸ばしたわ、手足も、それに合わせて伸ばしたから、不自然さは無いと思う」

「よく一晩でやったねえ」

「最初から、ほとんどの骨格を伸ばせる仕様にしたあったから」

「メグミさん、ちょっと、あちこち突っ張らかるんだけど……」

「10センチ伸ばしたからねぇ、バイオ組織が追いつかないんだ。促進剤打っといたから、半月ほどで馴染むわよ」

「ああ、それなら納得でーす(^▽^)/ とりあえず銀行業務に戻りますね」

「うん、じゃ、イッパチに来るように言っといて」

「ラジャ('◇')ゞ」

「イッパチにも移植するのかい?」

「うん、一万人分のロ生(ロボットの人生)が掛かってるから、念には念をです」

「そうかい……でも、あんたは生身の体なんだから気をつけなよ」

「生身の体かあ……そうね、がんばります!」

「そうだ、肝心のお土産。ほら」

「ひょっとして、サーターアンダギー!?」

「うん、沖縄のじゃないけどね」

「お岩さんが?」

「うん……と言いたいけど、ハナがね神社がひけてから作ったんだ」

「あ、そういや、この黒糖の、ハナのイメージ!」

「あの子のお祖母ちゃんは沖縄の出身」

「そうだったの?」

「誰かが言ったんだろ、見かけはそんな感じだから。ヨタと分かってても信じたいものなんだ、自分のルーツってのはさ」

「そうだよね……」

「わたしも、お相伴しようかねえ」

「じゃ、お茶淹れるね」

「昼過ぎには敵の攻撃があるかもって言ってたから……」

 

 ドオオオオオオオオオオオン!

 

 数年ぶりの大噴火が起こったような衝撃が、空港の方から轟いてきた。

 

 ☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王

 

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・103『素顔のキャストとスタッフ』

2023-02-02 07:37:50 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

103『素顔のキャストとスタッフ』 

 

 

「自衛隊の体験入隊で、なんか変わった?」

「変わったってか……分かったよな」

「なにが……?」

「それは……」

「自分は、まだまだなんだけど、希望の持てる場所はここだ……かな?」

「先回りすんなよ、言葉が無くなっちまうじゃないか……」

「ごめん」

「い、いや、ありがとう……」

 ゆりかもめの一群が川面をなでるように飛んでいった、二人はそれを目で追う。ゆりかもめは、少し上流までいくと、さっと集団で舞い上がり。それにつれて二人の顔は上を向き、遠く彼方を見つめる目……少しはサマになる。

 すかさずレフ板の位置が変わって、カメラが切り替わる。


 ちょっと説明。


 これは、ちゃんとしたテレビの撮影なんだ。『春の足音』のね……って、別にわたしが主役になったわけじゃない。

 プロデューサーの白羽さんのアイデアで、毎回番組の最後に『素顔のキャストとスタッフ』というコーナーができて、二分間、毎回一人ずつ紹介していくわけ。


 やり方は基本その人の自由。この荒川の下町が舞台だから、町の紹介をしてもいいし、他のキャストやスタッフさんとのト-クもOK。順番はジャンケンで決める。そのジャンケン風景も撮って流すんだから、この業界の人のやることにムダはありません。


 で、わたしが大久保流ジャンケン術で勝利し、その栄えある第一回に選ばれた。

 むろん、ただのエキストラなんで、あらかじめ、はるかちゃんが紹介してくれて、わたしが映っている何秒間かが流れて、このシーンになるのね。

 わたしは、無理を言って忠クンを引っぱり出した。

 忠クンの体験入隊は、忠クンの中ではまだ未整理になっている。わたしへの気持ちもね。だから、こうやをって引っぱり出してやれば、いやでも考えるだろうって、わたしの高等戦術。いちおうわたしのカレだから、しっかりしてもらいたいわけ。


 え……「いちおう」……それはね、乙女心よ乙女心。最終章まできて、のらりくらりのカレを持った崖っぷちのオトメゴコロ!!

 分かんない人は、第一章から読み直して。序章には忠クン出てこないから。

 でも、わたし的には序章から読んでほしいかな。

 監督も、高校生の自衛隊の体験入隊がおもしろいらしく、A駐屯地まで行って取材もしてきた。教官ドノをはじめみなさん大張り切りだったみたいだけど、流れるのは、ほんの何十秒。それも大空さんがほとんど。テレビのクルーも絵になるものは心得ていらっしゃる。

 で、ゆりかもめを見つめて、なんとかサマになった忠クンは、こう締めくくった。

「大変なことを、自然にやってのける力……そういう心になれるまで……その、軽はずみな気持ちだけでフライングしちゃいけないんだなって、そう思った」

「ほんと?」

「うん。前さえ向いていたら……今はそれでいい」

「今度、火事になったら、また助けてくれる?」

「それは、もう勘弁してくれよ」

「それって、もう助けないってこと?」

「助けるよ。目の前で起こったら……そういうことも含めて、まず目の前にあることを一つずつやっていこうって。あのゆりかもめだって、最初から、あんなに自由に飛べるわけじゃないだろう」

「で、助けてどうすんの?」

「分かんねえよ」

「……そう」

「?」

 わたしは、立ち上がると、グイッと重心を前に移す。

「あぶねえ!」

 ドッポーーン!

「あ、ちょ、なんでこうなるの!?」

 助けようとした忠くんひとり川に落ちてしまう。わたしは、腰のところに落下傘のハーネスみたいなのが付いていて、その先をスタッフが持ってくれている。
 ちょっとしたドッキリカメラで、ふたりとも川には落ちない仕掛けになっている。

 それを、勢いの付いた忠くんは、抱きとめたわたしを軸にクルリンと回って、そのまま川に落ちてしまった!


 カットぉ! オッケー!

 
 監督の声がして、スタッフが駆け寄って来て、水面にロープを投げる。

 まあ、やっと三月の荒川。誰も飛び込もうとは思わないよね(^_^;)

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • 乃木坂さん       談話室の幽霊
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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