大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・148『及川軍平走る』

2023-02-28 10:37:04 | 小説4

・148

『及川軍平走る』及川軍平 

 

 

 舐められている!

 グチャ

 

 口には出さないが、電信文を握りつぶした手には力が籠りすぎている。

「お、お預かりします」

 手を差し伸ばした通信員の目は困惑している。

 漢明の攻撃を予想して、三日前から災害対策本部を設置している。軍事攻撃を受けても自治体が設置できる司令部は『災害対策本部』の名称しか付けられない。地方自治法に明記されているからだ。数千、数万の犠牲者が出る軍事攻撃を受けても、日本国政府は地震や台風と同じ『災害』という名称しか使わせない。

 砲弾やミサイルやパルス波が飛び交い、本部が血まみれの特設救急病院(世界の常識では野戦病院)を兼ね、五分おきに死者や再生不能のロボットが出ても、戦争と戦争を思わせる名称は使えない。

 元来が通産官僚だったから、役所の杓子定規や前例主義には慣れている。

 しかし、現実に敵に上陸され蹂躙の限りを尽くされ、この三日で万余の犠牲者を出しても、日本政府の対応は変わらない。

―― 繰り返し、政府は遺憾の意を表明し、漢明政府との折衝を重ねつつあり。西之島開発特例法によって島の警備警察権は一義的に西之島自治政府の属すところである。貴職にあっては自治政府特別市の市長職として島の安全と掌握に務められることを望む。重傷者の移送、救援物資の搬入については漢明政府と引き続き折衝中につき、貴職において単独に漢明軍、漢明政府との交渉協議は控えられたし。――

 切望していた救援軍派遣要請については黙殺された――西之島開発特例法によって島の警備警察権は一義的に西之島自治政府の属すところである――と毎回書いているのは――国としては島の防衛には関わらないという意味だ。

 パルス鉱の採掘と販売に関して島の独立性を、あの手この手で勝ち取ってきたことの日本政府の意趣返しだ。

 ひょっとしたら、島のパルス鉱についても、日本政府と漢明政府との間には密約があるのかもしれない。

「市長、附則です……」

 通信係りが、もう一枚の通信紙を差し出す。

―― 戦傷者、戦死者の表記は不適、被災者、災害関連死者(略称・死者)とされたし ――

「くそ!」

 さらに力を加えて通信紙を握りつぶす。

 通信係りは、それを丁寧に伸ばして日報に綴じていく。

 日ごろの通信はデジタルデバイスを使ってインタフェイスに表示する。

 しかし、三日前からは、それに合わせてアナログの通信文を残すように指示した。モミクチャに握りつぶした痕や、血や涙やヨダレの痕がリアルに残せるからだ。通信というのは、その内容以外に、どんな気持ちで、それに接したかということが重要だと思ったからだ。

 子どもの頃、父に連れられてアメリカの戦争博物館に行ったことがある。アメリカらしく、功績の有った戦車や軍用機をピカピカにして並べていて、兵器の新旧など分からない子供には大きなおもちゃの展示場で、「わースゲー!」「かっこいい!」を連発していた。

 ショックだったのは、文書資料室だ。

 文書の中身はデジタルでいくらでも検索できるが、200年前に書かれたメモや日記、通信文が訴えかけてくる力は圧倒的だった。汗や血にまみれ、変色し、あるいは千切れ、あるいはシワクチャにヨレた姿は、記載された内容よりも雄弁だった。どこから手に入れたのか、事故で沈没した日本の潜水艇の艇長が死の直前まで書き綴った手帳が展示されていた。薄れゆく意識、酸欠の苦しさの中で、艇長は艇内の状況、事故原因の推測などを細かく記載していた。最後の一ページは、もう文字の体裁を成しておらず、内容も不明だったが、全頁で最も雄弁だった。

 翻って日本の文書保管は無機質だ。

 ネットでのアーカイブ検索が主流だ。むろん、三度に渡る大戦のアナログ資料を検索することもできるが、数を当るのにはデジタルのアーカイブだ。だから、この西之島がどうなろうとも、アナログの記録を残そうと決心した。 

 

「南に行ってくる」

 

「市長!」

 助役が顔色を変える、他の職員もこちらを向いたり、思わず作業の手が停まったりしている。

 敵弾飛び交う中を、市役所のシェルターから出ることさえ無謀なのだ。最前線の南(カンパニーの略称)に行くなど、ほとんど自殺行為だ。

「写真を撮ります」

 通信係が、通信文の綴りを置いてカメラ機能にしたハンベを向ける。

「ああ、そうだった。ありのままに撮ってくれたまえ」

 通信文だけではない、折に触れて本部の写真を残している。わたしが行動を起こす時は、必ずわたし一人の写真を撮る。

 意味は通信文と同じだ。

 カシャ

「いつも笑顔のピースサインなんですね……」

「これ以外は、証明写真用の仏頂面しかできなくてね」

「お気をつけて」

「大丈夫さ。四年前、ナバホ村のインディアンに追いかけまわされたことを思えば(100『及川軍平の遭難』)なんでもない」

「インディアン?」

 採用二年目の通信係は市議会議長のマヌエリトが、めちゃくちゃ怖いナバホの酋長だったことを知らない。

「いや、なんでもないさ」

 

 本部のみんなに手を振って、徒歩で南に向かう。

 

 途中、分隊ぐるみ壊滅させられた敵の遺棄死体や残骸を見る。水浸しの上に大きな岩石がいくつも転がっている。

 自然ながけ崩れではないだろう、ナバホ村かカンパニーか、いや、フートンの水滸伝好きたちか。仲間たちは、まだまだ意気軒高だ。その意気のまま、敵の攻撃を受けることも無くカンパニーのシェルターに着くことができた。

 

「氷室社長! いや、睦仁王殿下! 義軍徴募の令旨を出してください!」

 

 わたしの大時代な要請に秋宮空子(ときのみやそらこ)内親王殿下の玄孫は目を丸くした。

 

 ☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王

 

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宇宙戦艦三笠37[20年の歳月]

2023-02-28 06:49:38 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

37[20年の歳月] 修一  

 

 

 体が鉛のように重い……手足も痺れたように動かない……視界もボケている。

 でも、どうやら20年の眠りから覚めたんだ……そう理解するのに30分ほどかかったんじゃないだろうか。

「オ! 艦長の目が覚めたニャー!」

 一瞬ネコミミの女の子の顔が覗いたかと思うと、パタパタと音が続いて、ネコミミが四つに増えた。

 ネコの惑星……いや、耳以外は人間だし?

「ウフフ、寝ぼけているニャ」「可愛いニャ」「おひさニャ!」

 あ……シロメ……クロメ……チャメ……ミケメ……?

「おーい、はやくはやく、艦長目覚めたニャ(^▽^)/」

 あ……

 パタパタパタ……ネコメイドたちだと認識できた瞬間、四人とも誰かを呼びに行く気配。

 プシュっと音がしてカプセルの蓋が開く、恐る恐る上体を起こし、首をひねって息を呑んだ。

 え……!?

「もう、大丈夫ですよ」

 優しい声が聞こえたが、誰の声であるのか思い出すのに数秒かかった。

 えっ……え?…………ええ!?

 後ろでニコニコ笑顔で並んでいるネコメイドたちと、あまりにかけ離れた姿に言葉が出ない。

 目の前にいるのは、スケルトンだった。

 くたびれたユニホームと声からなんとか本人だと想像する。

「クレアなのか?、その姿は……?」

「生体組織のメンテナンスに使うエネルギーも三笠の蘇生に使いました。三笠がダルを抜けたら、元に戻します。しばらく見苦しいでしょうが辛抱してください」

「ごめん、他の乗員は?」

「こちらです」

 クレアが案内してくれたのは浴室だ。浴室は戦闘時には戦死者の安置室になる、血が流れてもシャワーで洗い流せるためで、日露戦争の時は数十名の戦死者が安置された。余計な知識が悪い予感をさせる。

「換気と密閉性に優れた施設だからです。艦長も一昨日まではここに収容していたんですよ」

「そ、そうか……」
 
 よかった、とりあえずは生きているようだ(^_^;)

 
 救命カプセルは、船内で使う場合、状態を視認できるように半面が透明になっている。樟葉と天音のカプセルを見てドキリとした。

「なんで裸?」

「服は、体を締め付けます。そこから皮膚や内臓に負担をかけてしまうので、みなさんが眠りについたあと、裸にしました」

「オレは、服を着てるけど」

「蘇生の兆候が見えたので、昨日服を着せました」

「え、クレアが着せてくれたの(#^_^#)?」

「はい、ちゃんと着せたつもりなんですけど、不具合があったら、ご自分で直してください」

「クレアこそ、そのスケルトン、なんとかしろよ。他の三人が目を覚ましたら、オレよりビックリするぜ」

「ダルを抜けるまで気が抜けません」

「そうか……トシのカプセルは?」

「トシさんのカプセルは、こちらです」

 トシのカプセルは、隣のキャビンに移されていた。


「お早う。東郷君が一番だったわね」


 みかさんがカプセルに寄り添ってくれていた。悪い予感がした。トシのカプセルには白い布がかけられているのだ。

「トシは……?」

「カプセルとの相性が悪くて五年しかもたなかった。ごめんなさいね……」

「そんな!」

 白布を剥ぎ取った。

 透明なカプセルの中にいたのは、ミイラ化したトシの変わり果てた姿だった。

「どうにもならなかったの……?」

「秋山君を助けようと思ったら、その分三笠の復旧が遅れる。カプセルは20年しかもたないのよ」

「機関長を助けようとしたら、全員助からなかったです」

「そうなんだ……」

「そこで相談があるの。三笠の復旧も終わったし、秋山君のクローンを作ろうかと思うの。これからの航海に機関長は欠かせないわ」

「どうしてオレに聞くんだよ。オレに黙ってやってくれたら、こんなショック受けずにすんだのに!」

「だって、あなたは艦長だもの、全てのことを知っておく必要があるわ」

「じゃ、クローンでもいいから再生してやってくれよ。トシは、やっと立ち直ったところなんだから」

「その前に、秋山……トシくんの最後をしっかり見ておいてあげて」

「う、うん……」

 トシのカプセルの蓋が開けられた。

 賞味期限が過ぎたスルメのような臭いがした。トシが胸に抱いているスマホを手に取った。

 皮肉なことに、スマホの電池は残っていた。日本の電池技術はすごいぜ。

 マチウケは、亡くなった妹の写真だった。

 ホームセンターで自転車を買ってもらったばかりの写真。

 嬉しくてたまらない顔でピースサインをしている。あまりにいい顔なので思わず撮ったのだろう。その数分後にバイクに跳ねられて死んでしまうとも知らずに。

「じゃ、カプセルを閉じて。再生するわ」

 ミカさんは、ミイラ化したトシの皮膚のかけらに息を吹きかけた。目の前のベッドが人型に光った。

 光が収まると、そこには寝息を立てているトシがいた。そして、みかさんが指を一振りすると、カプセルの中のミイラは、煙になって消えてしまった。

「ミイラがいたんじゃ、話のつじつまがあわないから。あくまで、トシくんは東郷君と同じように目覚めた……忘れないでちょうだいね。それからクレアさんも、それじゃあんまり。生体組織再生しときましょうね」

 クレアが、元に戻ると同時にクローンのトシが、ベッドで目覚めて伸びをした。

「ああ……よく寝たあ。やっぱ先輩の方が目覚めるの早かったっすね。樟葉さんと天音さんは?」

「隣の部屋、あ、おい……」

「せんぱーい!」

 お気楽に、トシは隣の浴室に行った。数秒後真っ赤な顔をしてトシが戻って来た。

「な、なにも着てないんですね(# ゚Д゚#)……で、ウレシコワさんは?」

「あ?」

 虚を突かれたような気がした。ウレシコワのことは、今の今まで忘れていた。

 ネコメイドたちが揃って目をそらせた。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊

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RE・かの世界この世界:023『8時58分 わたしのリアル』

2023-02-28 06:08:39 | 時かける少女

RE・

023『8時58分 わたしのリアル』   

 

 

 こうなったら屋上から飛ぶしかないのかも……

 
 学校中を捜してもピッタリの鍵穴は見つからず、昇降口の階段でヘタってしまう。

 ヘタってしまうと、さっきまでの勢いはどこかに行ってしまって、わたしの呟きにギクッとする健人。

「もう飛ぶ気も無くなったんでしょ?」

「ん、んなことねー」

 熱しやすく冷めやすい健人、これ以上言うと、このまま家に帰って布団をかぶってしまいそう。

 とりあえず……お互い呼吸を整えてからだと口をつぐむ。

 無人の昇降口に、せわしない二人のブレスだけが際立つ。


 ダイブは、三年に一度、学校で七人だけが許される。

 
 この世界は、わたしが寺井光子として存在していた世界に酷似しているけど、根本のところが違う。

 この世界は対応する異世界と対になっていて、異世界が混乱すると、その影響がモロに出る。

 想定外の事故や災害は、異世界の混乱に原因がある。

 想定外の事故や災害の数カ月後に、選ばれた学校に白羽の矢が立つ。

 矢が立つと言っても、本物の矢が飛んでくるわけではない。

 生徒のスマホや携帯にメールの形でやってくる。選ばれた生徒はメールに指示された相手に応諾を伝えたうえで創立記念の日にダイブする。

 応諾を伝える相手は、年によって変わる。

 校長先生である場合、特定の生徒である場合、先生の誰かである場合もあれば、特定のクラスの掃除用具入れである場合もあり、トイレの便器であったり校庭の桜の木であったりもする。

 ダイブし、異世界で成果を上げれば、成果の出来に従って、こちらの世界の災いが軽減される。

 そして成果を上げたダイバーも、成果に応じた報酬を受けられる……とされている。

 
 されている……というのは、こちらに戻った時には、なにが報酬であったかを忘れるからだ。

 
 健人はスマホのメールに気づくのが遅れた。

―― 有効期限が切れました。ダイブは六人で行われますが、どうしても参加したい場合は六人の同意を得るか屋上から命を懸けてダイブするか、いずれかの方法でも可能です。その場合でも、リミットは創立記念日の午前九時までです。あなたの報告相手は幼なじみの小早川照姫です ――

 健人は六人に頼み込んだが、ダイブの朝、女装して来ることを条件にされてしまったのだ。

 そして、この昇降口に至っている。

 これってなんだ? まるでヘタレ系転生ラノベのプロローグみたいじゃない?

 頭に一冊のノートが浮かぶ……『アイデア帳・1』の表題の下には小早川照姫と一字ずつ色を変えて記名してある……ペンネーム? 

 そうだ、寺井光子のペンネーム……始めて作ったアイデア帳だ。ふと浮かんだアイデアをチマチマと書き連ねた落書き帳……その中に、こういうアイデアがあったんだ。

 寺井光子の脳内幻想の欠片たち……でも、昇降口でヘタレの健人と並んで息を整えているのは光子ではなくて小早川照姫。口から飛び出しそうな心臓、額やこめかみから伝う汗はめっぽうリアルで、唇に垂れてきたのを舌でなぞると、ちゃんとしょっぱい。

 ここは小早川照姫がリアルな世界……え? わたしのリアルは光子……光代? 光姫? 苗字は?

「なんとかしてよ、テル」

「なんとかって、健人の問題でしょうが!」

「だって、テルが引っ張り回すから」

 ムカ!

 張り倒してやりたくなるが、ここは押える。時間がないんだ!

「いちど屋上に行ってみよう」

「屋上? え、やっぱり飛び降りるの?」

「行くよ!」

 健人の襟首を掴まえて屋上への階段を駆け上がる!

「うわあ、待ってぇ!」

 健人の叫びを無視して見た時計は8時58分を指している。

 もう一つの名前はもう思い出せなくなってしまった……

 

☆ 主な登場人物

  •  寺井光子  二年生 今度の世界では小早川照姫
  •  二宮冴子  二年生、不幸な事故で光子に殺される
  •  中臣美空  三年生、セミロングの『かの世部』部長
  •  志村時美  三年生、ポニテの『かの世部』副部長 
  •  小山内健人 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ
  •  

 

 

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